第5話

 ケージのリアル事情の話をきっかけに、皆は自ずと自分のリアル事情の話になってしまったのは流れ的にしょうがないといっても差し支えなかったのかもしれない。


 意外なことにケージとトッシェ、ネーネは同じ県内の住人であり、ケージは移動式屋台で、たこ焼き屋を営んでいることをトッシェたちは聞くことになる。


「ふーーーん。もしかしたら、ケージとわたしって知らないところで出会っているかもしれないのねー?」


「あーははっ! もし、移動式屋台を見かけたら、声をかけてほしいんだぜ。俺様が魂を込めたタコ焼きを作ってやるんだぜ? しかしだ。お代はしっかり頂くんだぜ?」


 そこは無料ただで譲りなさいよー。だから、あんたには彼女のひとりも出来ないんでしょー? とネーネ(川崎・寧々かわさき・ねね)は失礼なことを思ってしまう。


 トッシェ一向は、そんな話をしつつも、新傭兵ゾーンに居る最後のボス、ミカエルの下にたどり着く。こいつさえ倒せば、ネーネとケージは新傭兵ゾーンからは無事、卒業だ。


「よっし。ミカエルの下にようやくご到着ッス。ケージ。こいつは今までのボスNPCとは違って、生意気にも全体攻撃をしかけてくるッス。回復は単体よりも全体を中心におこなってほしいッス」


「おう、わかったんだぜ。いや、しかし、ここまで連れてきてくれて、ありがたい話なんだぜ。トッシェさんたちと出会ってなかったら、俺様は今でもラファエルの前で幽霊ゴースト状態だったかもしれなかったんだぜ?」


 さすがにそれは無いでしょー。一度、負ければ徒党パーティを組まなきゃならないのは自明の理なんだしー。ケージならではの冗談でしょー? とネーネは思ってしまう。


「ん……。ところで、ミカエルを倒したら、町に戻って、どこかの国に仕官することになるんだよね。ケージはもうどこの国に仕官するか、決まっているの?」


「おう、ナリッサさん。俺は神聖ローマ帝国に仕官しようかと思っているんだぜ」


「そっか。じゃあ、敵同士になることは無いんだね。それは良かったかも。せっかく、こうして知り合ったのに、敵同士になるのは、少し寂しい気持ちになっちゃうから」


 ナリッサがそうケージに言うのであった。プレイヤーがどの国に帰属するかは、基本、プレイヤーの意思が尊重される。しかしだ、新参者ゾーンにある町の銀行バンクでは、それを良しとしないグループも存在する。


 現に青田買いをするために、現行プレイヤーたちが、新規プレイヤーを囲むために、銀行バンクの前で陣取っている。そこで、事情がよくわかってない新規プレイヤーに現行プレイヤーが、自分の所属する国がいかに素晴らしいかを説いて回っている。


 それが顕著なのはイングランド陣営であった。しかし、それも致し方無い事情がある。イングランド陣営は現実世界の歴史では負け組なのだ。こういった実際に起きた歴史を背景にしたゲームでは、人気の国や将がはっきりとデータ上でも浮き彫りになる。


 日本国が運営している放送局が毎年、放送している大規模ドラマに登場した人物は、ほぼほぼ必ずといっていいほど人気が出る。各ゲーム会社でも、人気の高い将は能力値が高く設定される。


 ノブレスオブリージュ・オンラインでもそうだ。シーズン3.0で実装された黒獅子ことエドワード黒太子はシーズン5.1となった今でも、その見た目変更アイテムはイングランド陣営のプレイヤーにとっては人気の的だ。


 そして、【オルレアンの娘】にて実装されたジャンヌダルクは、フランス陣営の総大将シャルル7世の側付きNPCとして登場したわけだが、未だに廃人徒党パーティですら攻略の糸口さえつかめぬほどの強さを誇っている。



「ふーーーん。ケージは神聖ローマ帝国に行っちゃうんだー。どうせなら、そこは俺様はトッシェさんたちに恩を感じたから、フランスに属するんだぜっ! って言ってほしいところなんだけどなー?」


「あーははっ! 上手いこと言うじゃねえか、ネーネさん。しかしだ。別にこれが今生の別れになるわけでもないんだぜ? 俺は風に吹かれて、行きたいところに行くだけなんだぜ」


 ケージはそう言うが、ネーネとしては面白くない。自分と初めて組んだ徒党パーティの仲間なのだ、ケージは。そのケージが見ず知らずの土地に行ってしまうことに、つれない男だとネーネは感じずにはいられない。


「じゃあ、こうしましょ? もし、わたしがミカエルのトドメを取れたら、ケージはフランスに属すること。お兄ちゃんがミカエルのトドメを取ったら、ケージは神聖ローマ帝国でも好きなところに行っていいよー?」


「ちょっと、待つッスよ! それ、俺っちにミカエルを攻撃するなって言ってるのと同義ッスよ!? 俺っちに攻撃するなってことは、俺っちのアイデンティティを否定することになるッスよ!?」


 トッシェが妹であるネーネに抗議する。だが、ネーネはぷいっと顔を横に背けてしまう。トッシェはトホホと肩を落とす。


「ん……。現実世界の妹が実際には可愛くないって意味がようやく理解できた気がする。やっぱり、妹は血の繋がらない二次の世界に限るってことだね」


「ナリッサ……。他人事だと思って、言いたい放題ッスね……」


「あーははっ! こりゃ、また分の悪い賭けなんだぜ。しかし、だからこそ人生、いやオンラインゲームってのは面白いんだぜ……。ネーネさん。その賭け、乗ったんだぜっ!」

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