Episode19 一般人ですけど!

「また、ですか……」


 人気の少ない裏通り。

 その少女こと伊藤アリオは囲まれていた。今日はいつもの変なスーツおじさんはいなかったものの、黒タイツのようなものに身を包んだ変人らしき存在が六体。

 彼らは一体何者なのか。そして何が目的なのか。それは未だに答えがでない、と言うよりは向こうが何も言ってくれないので当然ではあるが、この状況は別段彼女にとって恐怖を覚えるものではない。


「あなたがたに恨みなどはありませんが、私にはすべきことがある。その道、何としても押し通ります!」


 これは昨日風呂場にて考案したオリジナルのキメ口上こうじょうである。そろそろ独自性を出していっても問題ないだろうと判断した末の代物である。ちなみにそのすべきことと言うのは行きつけの手芸用品店へ行くことである。

 そう、彼女は手作りを最上とする通のものコスプレイヤーである。ネット通販もの特有の雑な安っぽさに彼女は心底うんざりしているのだ。



「マスク!」「栗饅頭!」「う、うしみつどき!」「き、き……きってある?」


 それぞれに奇声をあげながら黒タイツが彼女へと襲い掛かった。それを見計らい彼女はマジカルステッキver.2(お手製)を振りかざす。


「恐れを知らぬ者たちよ、いざ刮目なさい! ――マジカルフラワーストーム!」

「ぐわあぁああああ!」


 これは昨日風呂上りに豆乳オレを飲みながら考えたオリジナルの新・必殺魔法であり、それは軽々と80キロくらいのものまでを持ち上げ消し飛ばす、設定である。

 黒タイツは謎の突風を全身に受けて吹っ飛び、工事現場のフェンスへ激突するとそれを次々に薙ぎ倒していく。



「生きているのなら、神様だって○してみせます!」


 ――そこ、オリジナルじゃないんだ

 薄れる意識の中、黒タイツの一人はそう思ったという。




「つ、強い……!」


 全てが片付き目的地へと向かおうとするアリオはその声に驚き振り返る。


「……誰ですか貴女は? いつからここに?」


 声の主はいかにもな格好をしており、これはもしやと観察を続ける。


「怪しいものではありません。あなたも魔法少女ですね?」


 あなた『も』ということはやはり同業者ということであろう。そしてあの人が言っていた仲間の可能性もある。これは『いつバラ』案件であるとアリオは確信をした。



「……そうですけど何か」



***



「お前、魔法少女だろ?」

「……え、違います」

「最初は皆そういうんだ。私には分かる」

「……いえ、だから違います」

「調べはついてんだ! お前、この期に及んでシラを切るつもりか?」


 それは数日前に遡る。

 いつもどおり一人教室で帰り支度をしていた時である。校内でもっぱら噂になっている、隣クラスの有名人が自分の目の前にやってきて話しかけてきた。周囲は当然ざわめきこちらをまじまじと見つめている。


 表情とは真逆に位置する彼女の言葉遣いに大変な圧を感じる。確実に何人か仕留めているのはほぼ間違いないだろう。口答えをすればどうなってしまうかわからないプレッシャーに、アリオは心の底から震え上がっていた。


「……か、仮に魔法少女だったら。な、何だと言うのです……?」


 ――チラ、チラ、チラァ。

 早退しておけばよかった。


「何だと言うか私らもそうなんだ。仲間がここにいるって聞いて、どんなヤツか顔を見にきたんだよ」


 もしかすると彼女は本物の魔法少女で、今ここで自分は本当のことを言った方が良いのかもしれない。だが彼女からはおよそ隠しきれていない殺意じみたものを瞳の奥から感じる。嘘をついているわけではないのだが、魔法少女ではないという事実がバレたらバラバラにされるかもしれないと本能がそう告げていた。

 彼女は今まさにいつバラされるかわからない、『いつバラ』な精神状態にある。


「それで、本当はそうなんだろ?」

「……はい」

「やっぱりな! 私は佳奈だ、よろしくな」

「…………アリオです」

「何人か仲間がいるんだ。そう伝えておくよ」


 こうしてアリオは魔法少女のコスプレをした魔法少女ではない魔法少女として魔法少女生活を始めることとなった。

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