Episode13 寄り道エンカウント

「まずはどこへ連れて行ってくださいますの?」


 ウキウキ気分が一人問いかけ、両手をワキワキさせた変態が襲い掛かり、指の骨をバキバキさせた美少女がすねにローキックを見舞う、どこにでもある帰り道の一コマである。


「とりあえず時期を逃した感のある、パンケーキでも食べにいこう!」

「いや、いつものバーガーでいいだろ……。ていうかあれ食べすぎて飽きたんだよ」

「今日はわたくしがすべてお金は出しますわよ」


 佳奈の死んだ魚のような目が光る。


「パンケーキ行くか!」

「わあ、佳奈ちゃんがいつになく本気だ!」

「あら。そういえば、この間のバイキング……」


 佳奈の動きが一瞬だけ止まると猛ダッシュで駆けていった。


「よし、パンケーキ行くか!」

「あっ、まってよー!」

「まったく、お二人はいつも元気ですわね」


 こうして三人は、全盛期はものすごい人気を誇ったパンケーキ店へと向かうのであった。


「ガッラガラじゃねーか!」

「まあまあ、ここなら騒いでも大丈夫そうだし!」

「ご冗談を。いつも騒がしいのは愛華さんだけですわ」


 この店は当時テレビや雑誌でも取り上げられ、連日長蛇の列ができるほどの人気があった。しかし店内にはかつての賑わいなどはない。それは流行の終わりを如実に物語っており、栄枯盛衰は世の習いとはまさにこの事をいうのであろう。


 佳奈達は手前のテーブル席につくと辺りを見回す。

客はぽつぽつと三、四人といったところだろうか、いつものバーガー店とは対照的な佇まいがあった。


「とりあえず注文しよう! 私は佳奈ちゃんと同じのか、食べ残したやつでいいよ! むしろそれメインでください」

「安心しろ、私が食べ残すことはないから」

「わたくしも同じものにしますわ。何が何やらわかりませんし」



各々の注文を終えると佳奈はお手洗いにと席を立つ。程なくして用を済ませたその戻り際である。


「げっ」

「カナ……! ふふふふふ、やっぱりアタシたちは運命に導かれているんだ!」


 そこには紅い月のマヒロが一人座っており完全に目が合う。


『人違いですよぉ。私カナなんて名前じゃないしぃ☆』

「いいからカナ、はやくこっちに座って」

「おい馬鹿スルーすんな、恥ずかしいだろ」

「はやくはやくはやくはやく」


 彼女はうわ言のようにそれを繰り返す。当然目の焦点は完全に合っていない。


「いや無理。連れがいるんだよ。いや、いなくてもお前は無理だけど」

「どうしてそんな意地悪を言うの……! そうかそいつらが悪いんだね!」

「話聞けよ!」

「大丈夫だよアタシが話つけて全員始末してくるから」


 そうして四人は同じテーブルへと集ったのである。得も言われぬ雰囲気がそこにはあった。


「またこの方ですの……!? 佳奈、あなたという人は……」

「その目はやめろ。たまたまいたんだよ、たまたま!」

「あ、まひろちゃん!」

「ん、愛華。カナは渡さないから」


 やはり愛華とマヒロはどこか理解わかりあえるところがあるようで、以前からの顔見知りかのように振舞っている。

 変態同士の波長は合う。これでいつでも纏めて焼く事ができるな、と佳奈はこの時思ったという。


「ところでまひろちゃんは学校帰りなの?」

「……そう」

「お前友達とかいなさそうだよな」

「ちょっと、佳奈おやめなさい」

「いいの。私にはカナがいればそれでいいの」


 言いながら恍惚な笑みを浮かべるマヒロ。彼女はやはりというかあちらの世界に行ってしまっていた。


「私はお前のこと友達とは思ってないしなる気もないから」

「大丈夫だよカナ。あたしが友達って思えば友達だから。……ところで今日は攻めた色の下着なんだね、ふふふふふ」


 佳奈は両足をくっつける。


「なんだって! まひろちゃん、そこのところ詳しく!」


 言いつつも愛華は目を光らせテーブルの下を覗き込む。


「よし、こいつらはグーで殴る」



「ありがとうございました~」


 店を出る四人。外はすっかり暗くなり始めていた。


「ふう、なかなか良いものでしたわ」

「うん、久しぶりに食べたけどおいしかった!」

「そういえば、マヒロさんは悪の組織と関係のある方なのかしら?」

「……そんなの知らない。あたしの所属はカナだから」

「お前が仲間入りした覚えはねえよ。思い上がるなドブネズミ」


 すっ……とマヒロは何かを取り出すと掲げた。


「まひろちゃん、FC会員NO.1なの!?」

「そう。むしろ設立者」

「何のFC……はあ、『井吹佳奈ファンクラブ』って佳奈、あなたって人は……」

「だから知らねえよ!」


 騒がしくそれぞれの家路につく少女達。

 このファンクラブを巡って、とある騒動が勃発するのはまた別の話である。

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