第5話 地縛霊その1


 霊というのは、人それぞれ様々な形で見えます。死んで間もない人の霊が見えるのもその1つですし、服装なども、死んだときの状態のものが見えたりもします。


 今回は、心霊スポットと呼ばれる場所に行った時のことをお話致します。

あれは、大学1年生のとき、車の試運転も兼ねて、友達を乗せて、軽く流してたときのことです。


 友達が言いました。

「慣らし運転はこのぐらいにして、そろそろ本番いこうよ」と・・・。


「本番って何?」と聞き直したら・・・

「平らな道ばかりでは、分からないこともあるでしょう?山道行こうよ」と友人が言った。


 ふむ・・・まぁ、確かに、平坦な道ばかり流していてもつまらないし、と思い、私はその友人の案に乗った。


 そして、とある山に向かうとき、友人が言った。

「そういえば、この先、有名な心霊スポットあるらしいよ」と。

いわゆる、あるある話の1つと思って、私は軽く聞き流していた。


 そして、友人は続けて言う。

「実は、幽霊って見たことないんだ~!一度でいいから、見てみたいな~」と。


私が友人に言った。


「私と一緒なら、多分、”見える”よ」・・・と。


 友人は、「へぇ~!それは楽しみ☆レッツラゴー!!」と。


 その山道は、1本道となっており、道幅も狭く、車の行き来が出来ない。

途中でUターンする場所もないため、一度進んだら、戻ることが出来ない。

まさに心霊スポットのために生まれたような場所かもしれない。


 昼間でも、生い茂る林の中は、暗く映る場所で、霊感ある人ならば昼間でも体感がヒヤリとする場所である。

 まして、夜、夜中などは、ライトの明かりだけでは、殆ど見えず、数メートル先までしか視野がない状態の山道です。


そして、山道を抜けて、少し開けた場所に出た。その先にトンネルがあった。

私は、そのトンネルを見たとき「うっ・・・」って思った。

「”進みたくない”」と・・・。


友達が言った。

「どうしたの?早く行こうよ」・・・と。


私は、友達に確認した。

「霊というのは、見えないほうがいいと思う・・・本当に見たいの?」と。


友人は、あっけらかんとこう言った。

「やだな~!心配しなくても大丈夫だって!私ここ何回も色んな友達と来てるけど、一回も見れたことないんだって!だから今回も見えないって!!」・・・とケラケラ笑っていた。


私も思った・・・。

見えない人には、一生見えないというし、きっと、この子もそうなのだろう、と。


私は、意を決して、言った。

「じゃあ、いくよ?」・・・と。


友達が言った。

「おっけ~☆」・・・と。


 

 

 私には、トンネルに入る前から、”すでに見えていた”ものがあった。


私は、トンネルの中をなるべくゆっくりと走行した・・・何故ならスピードを出して、ブレーキが利かなかったら大惨事を引き起こしかねない、それを危惧してのことだった。


 ゆっくりとトンネル内を走行する際に、私には、何体かの霊体が見えた。

友人が言った・・・

「ほら~!何も見えないっしょ!!」と。


そっか・・・この子には見えないのか、じゃあ、安心かな、とそう思ったのだが・・・?


「それじゃあ、麓に戻ろうか」と私が友人に言った。

友人が、こう言った。

「ね、ねぇ?もう1回だけ、トンネルの中、通ってくれない?」と。


私は思った・・・。

やれやれ、と・・・。

「わかった、いいよ」と普通にそう答えた。


私はなるべく霊体のほうを見ないように、走行した。

そのとき、友人に異変が起きた!


「うっ・・・い、いま、なんか、ヒヤっとしたもんが身体を通り抜けたよ?」と。

私は、すぐさま思った・・・「”ヤバイ”」と!


トンネルの中を何度も行き来するのは良くないと聞いたことがある。


友人が言った。

「ぎゃあ!火の玉がたくさん、見えるぅううう!!!!」と。


確かに、ここでは何人もの人間が命を落としているであろう数の人魂が見えた。

そのいくつかには、私には、人の顔も見えていた。


「早く通り抜けて~~~!!!」と友人が叫ぶ。



友達は放心状態だった。

10分ほど経過し、ようやく落ち着いてくれた。


先に進むと伝えて、車を発進させた。

そこから数分走行した先で、暴走族と思われる集団が、たむろしていた。


リーダーとおぼしき人物が、こちらに寄って来た。

「悪いな?今日は、ダチが死んだ日でな、ここは、通行止めだ!引き返してくれ!!」と。


友人が言った。

「い、いやだ・・・もう、あのトンネルは・・・やめて」・・・と消え入りそうな声で言っていた。


 「毎年この日だけは、俺たち、ここを通行止めにして、死んだダチのために集まってるんだよ・・・今日だけは、勘弁な!」と暴走族にしては礼儀正しい子だった。


 さっきも言ったが、何度もトンネルを行き来するのは、良くないと聞いたことがあるので、戻るのは、私も反対だった。なんとか、戻らずに、解決を試みた。


「ねぇ?その友人って、赤い皮ジャン着た、16歳くらいの子?」とリーダーらしき子に尋ねて見た。


 「なっ!?あんたら、アイツのこと、知ってんのか?もしかして、ダチか??」と言った。


 「いえ、友達ではないけど、私たち、さっきトンネルでその子の霊が見えたからね」・・・と、ダメ元で言って見た。


「な、なぁ?あ、あいつ、何か言ってたか??実際、何してやれば成仏出来るのか知りてぇんだ!教えてくれよ!!」


そんなことを言って来たので、チャンスはここしかない、そう思った。

「彼はこう言ってたわ・・・毎年来てくれるのは、嬉しいけど、キミたちが来るとこの世に未練が残る・・・トンネル内で、他の事故を誘発してしまうかもしれないし、自分のことを想ってくれるなら、もうココには来ないで欲しい」と。


しばらく、そのリーダーらしき子は黙っていた。

そして・・・

「わかった」・・・そう言った。


「で、私たち、そこの先に進みたいんだけど、通っていいかな?」

私は、ダメ元で言ってみた。


「待ってくれ」リーダーらしき子が言った。

引きとめられた。やっぱダメか・・・と思った矢先に?


リーダーらしき子が集団へと向かって、言った。

「オイ!道を開けてやってくれ」・・・と。


集団の少年たちがゾロゾロと立ち上がり、バイクを押して、道を作った。


「ありがとう」リーダーらしき子が言った。


私は、思わず「え?」と言ってしまった。


「俺たちも解散するよ・・・最後にアイツに挨拶だけして、そしてもう来年からはココに集まるのはやめにするよ」・・・そう言った。


「そ、そう・・・それがいいと思う・・・この場所は、静かにしてあげたほうがいいと思うし」そんなことを私が言ったのを覚えている。


「迷惑かけた」・・・と言って両脇に居た少年たちは、深々と頭を下げていた真ん中を、私たちは車で通過した(汗)


死んだ少年が実際なんて言ったかなんて分からないけれど、霊体というのは、基本”喋らない”からね(苦笑)・・・あの場は、ああ言って良かったと思っている。


それ以来、暴走族が毎年、その場所に来ることは無くなったそうです。


そして、友人もまた、他の友人たちに誘われても、「心霊スポット」には行かなくなりました。


霊は、見えないほうが幸せだと、私は思っています。









 



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