私の瞳はいつも幻想を眺めている

駿河 明喜吉

春の風

「やめて、私、花粉症なの!

そんなに強く吹かないで」


 私はマスクを引き上げる。


 ごめんなさい、春の風。

 少し前まで、私はあなたが運んでくる花の香りも、芽吹きつつある緑の息吹も大好きだったのだけれど。


 …………。


 聞いて! 子どものころは花粉症なんて縁遠い存在だったのよ。

 家族はみんなへーきだったの。もちろん私も。


 でもどうしてか、いつの間にか、二月の終わりに耳鼻科に行くのが恒例になっていたの。

 混むのよ、この時期。

 薬を飲んでいても辛い年は辛いし、肌は荒れて、お化粧どころじゃない。

 外に出るのも億劫になって、たちまち春が嫌いになった。

 洗濯物を取りこむ時だって、重装備でないと。

 ベッドカバーを洗濯するのも嫌になるんだから。

 

 春の風は困り顔で笑った。

 

 私の辛い花粉症はあなたのせいでもあるのだけれど。

 私はあなたが大好きだから、あなたを嫌いになったりしない。

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