第4話 せつ

咲良さくらには、やっぱり隠せないんだね。」


 1番最初にせつは、喜んでいるような残念がっているような感じでそう私に伝えた。

 変なやつ……


「??、言っている意味が分からないわね。まず、あなたと会ったのはこれが初対面だと思うのだけれど、間違いないかしら?」

「さぁ。少なくとも僕は君を知ってるよ。そして、君を守ることが僕の使命だし、したいことだ。」

「ますます、意味が分からないわね。どういうこと?」

「これが、僕の目的。これ以上咲良にどうこう言うつもりは無いよ。できれば、君に思い出して欲しくないからね。」


 なんのことかしら……

 でも、せつからはこれ以上何も答えないという雰囲気が出ていたので、聞くに聞けなかった。


 でも、私は1番の心配だったことが無くなってやっと落ち着けた。


「じゃあ、あんたは私のこの右目が狙いなわけじゃあないのね。」

「そうだよ。君を守るのに、君を狙ったら意味がないだろう。」

「それも……そうね。」


 私の右目は、人とは違う。

 それは、色が違うとかそういうレベルじゃなくて、根本的に違うのだ。

 まぁ、色も違うけど……


「君のその金色の右目は、特殊だ。物の怪からみても人からみても。その右目は、僕たち物の怪の本性を見ただけで暴くことができる。それは、物の怪たちにとって脅威でもあるし、味方にしたらとても利用価値の高いものでもある。」


 そう……これが私が物の怪に特別狙われやすい理由だ。

 ついでに、私がせつに会う前に不安そうにしていた理由でもある。

 人だったら、自分と違う目をした人が許嫁とか、嫌がるから……

 傍から見たような、色の違う両目ってかっこいいなんていう生ぬるい話ではないのだ。



 私のこの金色の右目は、実は物の怪のものである。

 物の怪というよりも、もっと邪悪なものだ。

 そのせいで、6歳の頃から何度も物の怪に利用されそうになったり消されそうになったりしていた。

 今なら、一発退魔だけど。



 狙われるようになったのは、確か6歳の頃だったかしら……

 それに関連しているのは両親の死。

 私は、ここに重大な何かが隠れていると思っている。

 だけど、両親は病院で息を引き取った。

 叔父さんに聞いても、病気だったとしか教えてくれないし。

 病名も知らない……


 あぁ、今はせつと話してる途中だったわね。

 せつは、碧色へきしょくの双眼で私を見つめていた。


「そう、なら次よ。あなた、狐の物の怪ね。その中でも、白狐びゃっこね。」

「あぁ。」

「どおりで、私の右目では見えづらかったわけだわ。」


 そして、叔父さんが気づけなかったことにも納得する。

 白狐などの神の使いなどと言われる物の怪は、完全に自分の妖気を消すことが出来る。

 普通の人や退魔では、気づくことが出来ない。

 フォローだけど、叔父さんは退魔師界隈ではとても有名で力の強い人だからね。


「この家で物の怪は、僕だけだ。咲良を案内してきたあおいは、僕の正体を知っているけれど。」


 また、意味がわからないことがでてきた。

 物の怪にとって自分の正体を知っているものは少ない方がいい。

 その方が、物の怪の身にとって安全で人を食べるときにも恐怖や不安を増やすことが出来るからだ。

 ちなみに、恐怖や不安をたくさんもっている人の方が美味しいらしい。


「それは、あなたにとってとても都合が悪いことでじゃないの?」

「いや、それほどでもないよ。蒼は、彼が小さかった頃からの知り合いだから。彼にここで働くように頼んだんだ。」

「そうまでして、ここに忍び込みたかったわけ?」

「さっき言っただろう。君を守るために来たんだって。もともと、この家は跡取りがいなかった。けっこう、地位の高い家でね。周りを蹴落としてここまで来たようだ。だから、跡取りがいないだなんてもらしたら、すぐに乗っ取られるだろう。だから、養子をもらうことも出来ない。そう考えた、この家の主人である裕太郎さんが君のその右目に目をつけてこの家の許嫁として、君の叔父さんに話をしたってわけだ。ようは、左右で目の色が違う女なんて嫁のあてがどこにもないだろうとね。許嫁がいるってことは、夫がいると周りの人は、思うからね。」


 ……ってことは、私の夫はもともと存在しなかったということになる。


「いずれバレるだろうけどその時までに何とかしようって。君をこの家を守るためだけに利用しようとしたんだ。」


 私は物の怪にも人にも利用されるのか……

 ふつふつとした怒りが私の中で湧き上がってきた。


「僕は最近まである理由で常世の方に行っていたから、君を見つけるのにとても手間取ってたんだ。その時に、この家のことを知って忍び込んだってわけ。先にここで働いといてくれって頼んでた蒼に紹介してもらってね。裕太郎さんは、喜んでたよ。はったりもそろそろ付けなくなってきたからね。早く、跡継ぎを見つけなきゃって焦ってた。そこに現れた捨て子で他に知り合いもいない僕を、君と同じように形だけの跡継ぎに出来るってね。あまり、意味は無いかもしれないけど君の叔父さんは、このことは知らなかったと思うよ。何回かこの家に来た時、とても嬉しそうだったから。」


 そう言って、せつは話をしめくくった。

 無言が続いた……


 私は、自分の気持ちをどう言葉にしたらいいか分からなくて……

 あとから、思えばこのときはせつに八つ当たりしてしまったんだと思う。


「私は、この家にはとつがない!あんたの嫁にもならない!あんたが、私を守らないといけなくても、私はあんたとは関わりたくない!もう二度と私の目の前に現れないで!!」



 そう言って、私は彼の目の前から走り去った。


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