第5話 引き籠もり女と金持ち令嬢

「それで、もう1人はどうしたんだ?」

部活が始まる16:30分になっても

新入部員の最後の1人が現れないのである。

既に俺のシゴキの第1波が終わった。

「すいません。何か手違いだったみたいで。」

玉城が申し訳なさそうに頭を下げる。

「いいや、手違いではない。

事務に確認したがきちんと本人の署名であることも確認した。」

「それならどうして?」

「儂じゃ。」

「校長!?」

武道場の天井から校長がぶら下がっていた。

フリルの着いたレースのゴスロリスカートは垂れ下がってこない辺り、

何か只者じゃない感じがするな。

スタッと校長が降り立つ。

「何を考えているんですか?校長。」

「世界一の剣豪ともあろうお主にも読めぬか?」

「流石にあなたの考えは読めませんよ。

それで、この日野 天音という生徒は?」

「引きこもりだ。

と言ってもそこの新入生と違って成績優秀だがな。

お前の所で何とかせい。」

劣等生ですいませんでしたね。

ていうか、

そもそもこの学校の学力が人間離れしてるだけなんだけどな。

平均年齢が俺より一回り近く上ってのもあるが、

そもそも人間の処理速度越えてるだろ、あれは。

「そうですか。

ちなみに今、寮に居るのでしょうか?」

「いいや、彼女は下宿している。

ここだ。言ってみると良い。」

校長が一枚の紙を柳生先生へと手渡す。

「分かりました。今から行ってみようかと思います。」

「こういう件は君一人では心もとない、

彼らも連れて行き給え。」

「で、ですが。」

「私の命令だ。」

「了解しました。」

「それでは朗報を待っているよ。」

校長がゴスロリのフリルを揺らしながら武道場から出ていく。

「すまないが、田中たちも手伝って

と、 どうした菱光?

寒いのか?」

「ち、違うっちゃ!!!!

なんで、うちを無視するん!!!

うち、ずっとここに立っとったのに!

うちを無視するん!!

田中ばっかり構って、

次はその日野て子ばっかりに構って!」

はぁはぁ。と一息に叫んだせいで肩を息している。

育ちが良さそうな縦ロールの赤色が混じったブロンド、

それに気合が入っているのか

かないり際どいブルマとかを履いているせいで、

大人の女性特有のむっちりした太ももが誠に目に毒でございますよ。

あと、ハーフかクォーターなのか分からんがやたらと胸がデカイし。

「あぁ、すまなかった。

加えて詫びるが、日野の家に行かねばならない。」

「そうですね。引きこもりというのは心配ですし。」

「ぐぬぬっ。

もう、いやだっちゃ。

ひぐっ。」

菱光はぺたんと床にへたり込む。

柳生先生に構ってほしかっったらしいな。

半泣きになってるし。

「だ、大丈夫か?」

未使用のタオルを菱光に渡してやる。

「うっ、お優し良いのね。ひぐっ。」

「菱光、もしかして菱光重工の?」

「一応、現会長の長女ですわ。

私は適性がないので会社は別の方が継いでいますけど。

一応、筆頭株主に名前を連ねさせていただいております。」

菱光重工..........

一昔流行った半導体から、

今流行りの小型原子力まで手がけるインフラ系の超大手会社

だった気がしたような。

何か、日本の企業の売上の最大値を更新したとかじゃなかったか。

とんでもないお嬢様だろ、この人。

「でも、どうしてこんな所に?」

「ズバリ、この世界の均衡を守るためですわ。」

「凄い志だな。」

「いいえ、これもノブレス・オブリージュ。

我が使命と心得ております。」

淑女らしい、だが強い意志を秘めた瞳で俺を見つめてくる。

「はは、菱光さんみたいな凄い人は始めて見た。」

「そ、そうでしょうか。」

嬉しいのか、少し頬を赤らめる。

「それでは参りましょう。」

「って!マリア 耳を引っ張るのはやめてくれ!

痛い、痛いから~」

「良いから行きましょう。」

マリアになぜか耳を引っ張られながら日野の家に行くのだった。


「なるほど、ここがね。」

古びたただの民家の1つに

日野と表札が掛かっていた。

「頼もう!!」

柳生先生が道場破りっぽい大声を上げる。

その瞬間、どタッツ、ドカッと

人が何度も床にコケる音が断続的に聞こえた。

「大丈夫か?」

「はーい。」

ドタドタと扉の内側まで来て

ガチャっと扉を開けた瞬間、

異様に長い茶髪で完全に顔の隠れた女が姿を現す。

「ひゃっ!!」

足元のスリッパが滑ったのか、

女が俺の体を推し倒す。

「全く、あなたという人は。」

マリアが日野の体を両手で持ち上げて立たせる。

「いや、わざとじゃないっていうか、

完全に日野が悪いだろ。」

何か、こう凄い柔らかいものが顔に打ち付けられた気がするが、

忘れよう。忘れるんだ。

「女子校だったせいで、

生徒同士の不純異性交友を禁止する校則がないのを良いことに。

全くお前は。」

柳生先生が腕をぽきぽき鳴らし始める。

何か、あれ。ヤバい気がしてきた。

「わざとやったんじゃ ヒッ!!」

シュパッ!!

という音と共に股の近くに刀が突き刺さる。

刀が鍔まで地面に突き刺さったの初めて見ましたよ。

「今回はこれぐらいで勘弁してやろう。」

柳生先生~、目がマジじゃないですか~。

「は、はい。」

「ごめんなさい、ごめんなさい。

私が悪いんです。

どんくさくて、何をやっても上手く行かなくて。」

長い茶髪をさらに顔に垂らしながら日野が謝る。

「いや、別にそこまで言ってないし。」

「そんなことより、どうして学校に来ないのかを教えて欲しい。」

柳生先生が早速どストレートに聞いてしまう。

大丈夫かな、これ。

「私、どんくさくて。成績以外に取り柄がないし。

アマテラスの力も発現出来ているか分からないぐらいだし。」

「それは大丈夫、下には下が出来たから。」

さりげなく、玉城がそんなフォローを返す。

俺、めっちゃ嫌われてんのかな、

まぁ実際俺はアマテラスの力使えないしな、

スサノオつっても刀出せるだけだし。

「それなら。」

え~、それで自信が付くのかよ.......

何か複雑な気分だよ。

ていうか、部屋からここまで歩いてくるのに何回もコケてる奴に

成績以外で負ける気がしないんだがな。

「それで、一応。君は私の部活に入っているわけだが。」

「はい。それは今さっき校長先生から言伝を承りまして。」

「どうするんだ?」

「お受けしようと思います。

これもいいきっかけですし。

それに資本金も貯まりましたから。」

「資本金?」

「はい、トレードで。」

「株とかのやつか?」

「はい。少々計算が必要ですが。」

「それは凄いな。」

「た、大したことありませんよ、

勉強しが取り柄がないから。

プログラムを組んでエクセル叩いてるだけですから。」

「いや、普通に凄いと思うけどな。」

「で、でも、私はちゃんと学校に行きたい!

それとも だち とか出来たら良いなって。」

「なるほど。それなら私達が力になろう。

日野、お前は私の部員だからな。

そうだ、手始めに今週の日曜日に一緒に外出しないか?」

「はい、お願いします。」

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