第2話 襲撃者

「それじゃあ、授業始めるぞ。」

大校舎1階、1-Xクラス。

そこが俺の正式なクラスらしい。

ていうかクラスはXまであったのか。

マリアも当然のようにX組らしい。

ちなみ生徒は俺とマリアのみ。

もう学級崩壊とか言うレベルじゃないね。


「今日はこれで終わりか。」

「はい、放課後は私が補習をしなければいけなさそうですが。」

「たしかにな。

この学校、想像以上にレベルが高かったよ。」

「でしょうね。某大手予備校の模試では最低偏差値が60でしたから。」

「次で俺が最低値を下げそうだな。」

「ご安心を。あなたは特別コースなので統計に含まれません。」

「それは良かった。」

いや、何か複雑な気分ではあるが。

結局、放課後はマリアに勉強を見てもらうことになった。

幸いなことに絶望的らしい料理の腕とは異なり、

マリアは教えるのがうまい、

つまずいているポイントを的確に教えてくれる。


「閉館の10分前になります。」

「もうこんな時間か。」

「まぁ、ともかくこれで1週間は大丈夫でしょう。」

「だと良いんだがな。」

マリアと共に外に出る。

日はすっかり落ちきっていた。

しばらく海岸沿いを歩いていると、

月が海に輝いているのが見えた。

「綺麗だな。」

「口説いているつもりですか?」

「そういうのじゃなくて、

こうして海岸線を夜歩いたことがなくてな。」

「それは勉強を頑張った甲斐がありましたね。」

「そうだな。」

マリアと二人で海岸線を歩いていく、

他の人が見ると仲の良い姉弟のように映るのかもな。

誰も居ないんだけど。

「そういえば、この時間帯は人が少ないのか?」

さっきコンビニと住宅街を通り過ぎたが、

結構人通りが少なく感じる。

「いいえ、これは....」

マリアが思い出したように。

「何が」

「危ない!!!」

マリアが突然俺の体を抱きとめながら飛び下がる。

ドッ!!!

アスファルトを砕く音が激しく響き渡る。

「っ!」

気がつくと背後には大量の人が居た。

それも目からピンク色の光が漏れ出している。

「眷属....」

かなり多い、5,6,....7人はいる。

そして全員が男だ。

小柄の男が3人、同じくらいの背丈の女性が4人。

全員が目からピンク色の光を放っている。

そして男の一人が振り下ろした斧が深々とアスファルトに食い込んでいる。

どんな怪力なんだよ、こいつは!

「お前、キモい。許さない。あたしは可愛いんだ。」

男の声帯からは出ることのない高い声が男の口から漏れ出す。

「分が悪いですね。」

マリアが額に汗を浮かべる。

「警察に」

スマホを取り出してコールしようとするとマリアが奴らの方を向いたままそっと制する。

「無駄です。この島に警察は居ない。」

「じゃあ、どうすれば。」

「私が戦います。あなたは刀を出したまま逃げて下さい。」

「そんなこと出来るわけないだろ。7人もいるんだぞ!」

「それでは助けを呼んでいただければ。

校舎にはまだ生徒が残っているはず。

彼女達は優秀ですので10人もいれば私と同じ程度にはなるでしょう。」

無理だ、ちょうど学校への道を塞ぐように奴らは道を塞いでいる。

「くそっ、厄介だな。」

「えぇ。ともかく刀を。」

「分かった。」

腕輪が壊れたままのせいで、

念じれば

出せる!!

刀が再び俺の頭の上に出現する。

「てっ!」

また頭の上に当たる。

毎回頭の上に落ちるのかよ。

「何をしてるのですか。」

「仕方ないだろ。」

「スサノオは簪と由来があるため、

刀も鏡も全て頭の上に出てきます。」

「そういうことは早く言え。」

剣道なんてやったこともないが、刀を構える。

構えが全然分からないので、

とりあえず見よう見まねで。

「ともかく、あなたはそうしていて下さい。

刀さえ出していれば死ぬことはありません。」

確かに、目の前に居る7人の人間の急所が全て見える。

それに攻撃してくるであろう方向が何となく分かる。

これが刀の能力なのか?

「俺も戦う。」

「無理です。あなたでは」

「それでもお前を置いていけるわけないだろ。」

「仕方ありません。」

マリアの体が赤色に輝き始める。

「忌まわしい、忌まわしい。

姉など消えてしまえばいい!!」

男3人が一斉に斧を振り上げながらマリアへと迫る。

「少し疲れますが、

破業 陽の勾玉」

ボウッ!!

マリアの体から激しい熱波が吹き出す。

その熱波に巻き込まれ男3人の体が一瞬で燃え上がる。

「己!!、貴様、貴様この炎は!!!」

男のうちの一人がおぞましい声を上げる。

「我が衣手により、清めん。」

マリアがそっと両手を閉じると

男3人の目からピンク色の光が消える。

そしてまるで糸が切れた人形のようにプツリと倒れ込む。

「やった のか?」

「まだ4人います。

それに彼女達は強い....」

マリアの熱波が徐々に緩まっていくのが分かる。

「やっぱり俺も」

「ダメだと言ったでしょう!!」

マリアの叫びに思わず体が硬直する。

その瞬間、

声に反応したのか、

女4人が夜の闇にピンク色の閃光を描きながら

動き始める。

「くっ!!」

マリアが両手に長槍を表出させ、

4人の女が振るう西洋風のフリルのようなデザインのロングブレードを

捌く。

だがこのままではジリ貧だ。

だが、あの動きについていける気は全くしない。

剣戟の音からしてかすれば致命傷なのは間違いない。

「っ!」

そして4人の女は標的を俺に変えたのか、

3人でマリアを押さえ込み、

1人がの方へと走り込んでくる。

ツインテールが揺れると共に、

ロングブレードが俺の頭上から振り下ろされるのが分かった。

「このっ!!」

何とか刀を上に掲げて刀の腹でロングブレードを受け止める。

「くっ!!」

重い、めちゃくちゃ重いぞ。

膝、いや全身が悲鳴を上げるのが分かる。

「っぁ。」

手首ぼきりと異音を上げるのが分かった。

「このっ!!」

マリアが必死で3人を裁こうと必死で熱波を吹き上げる。

だが3人の女はその熱波を

ピンク色の光で防いでいるらしく、

剣戟の音が続いている。

「くっ、誰か来ないの...」

マリアが珍しく弱気な声を上げる。

「俺は大丈夫  だっ。」

何とかマリアに返すが、

あちらも全く余裕がないらしい。

「貴様は、許さない。

弟なんて要らない。

消えればいいんだっ!!」

ツインテールの女がさらにロングブレードを両手で押し込む。

「ぐっ!!」

膝が震え始めた。

徐々に押し負けていく、なんて膂力だよ.…

「離れの技を使うしか」

マリアが何やら全身の赤色の光を増幅し始める。

それもまるで心臓の鼓動のように周期的に

「その必要はない。」

シュパッ!!!

赤色の激しい熱波が3人の女を包む。

それと同時に女の目からピンク色の光が失われ倒れ込む。

どうやらマリアからの攻撃に備えていたせいで

不意打ちが決まったらしい。

だが

「貴様だけでも!!」

ツインテールの女がロングブレードのピンク色の輝きを強める。

その瞬間、圧倒的な力で押し切られていく。

「させません。」

「破業、勾玉の焔!」

俺ごとマリアがツインテールの女に炎を撃ち放つ。

だがツンテールの女は

素早く飛び下がり、

俺の体にマリアの豪炎が命中する。

「あつっ、くない?」

不思議と暖かい感じがする。

全身が燃えているにも関わらず だ。

「これは?」

「全く、私の生徒を散々いじめてくれたようだな。」

俺の太刀より遥かに長い太刀を肩に担いだ女性が

月光に黒髪を反射させながら立っていた。

「柳生先生」

「あぁ。待たせたな。」

今日学校でいたスーツ姿とは違う、和服。

それも時代劇とかで女性が着ている戦闘服だ。

そもそも柳生先生は黒髪に純日本人と言わんばかりの顔のせいで、

全く違和感がない。

「そういうわけだ。

私達二人相手は流石に分が悪いんじゃないか?」

柳生先生が太刀の切っ先をツンテールの女に向ける。

「ちっ、離技持ち2人同時に相手は流石にまずいか。

だが覚えていろ。」

パッ!

ツインテールの女の目からパッと光が消えて倒れ込む。

「くっ。」

緊張が解けた途端、

全身に痛みが広がり始めた。

「斬繪、今回は礼を言っておきます。」

「っとまぁ。それはいい。

これは上に報告が必要だ。」

柳生先生が電子タバコを取り出して咥える。

わずかにミントかなにかの匂いが潮にまぎれて漂ってくる。

「えぇ、まさかこの島にもエリスの手が。」

「それに何より、この人達は島民だ。

まずいことになるぞ。」

「えぇ。」

こうして俺の短いようで、

激しく長い学生生活2日目は幕を閉じた。

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