第三十五話「*長谷川輝の事情2」



木曜日。放課後。黄星商店街。



「やはり……もう無いか」


去年の春辺りまでは確かにそれはあった。


怪しいオカルトショップ。


『赤きティンクトゥラ』


賢者の石、錬金術の最終到達点にあたる名前を持つ店だった。


中身は奇妙奇天烈で、どこまでが本当なのかわからない怪しいグッズを大量に販売していた。


恐らく、その大半が店主自作のオリジナルであろうが、店内の凝った内装と雰囲気から、ついネタで品を購入したくなるような店だった。


併設しているコーヒーコーナーも味は良かったし、むしろそっちをメインにしては? という程の凝り性の店主だった。


銀の髪に赤い瞳と、おそらく染めているのとカラーコンタクトであろうが、そもそもがリアルで白人という事もあって、その赤い貴族風のスーツもあいまって、自称サンジェルマン伯爵というのもうなづけてしまうほどのクオリティだった。


良質なオカルトグッズも売っており、非の打ち所のない楽しい店だったのに……。


そんな店が、唐突に、去年のある日消えた。


一瞬で店の廃材さえ残さずに更地になってしまったのだ。



小さな悲しみを胸に、俺、長谷川輝は思い出の店の跡地を去り、バスに乗って少し遠出して、パワーストーンショップへと向かう。



その内装はいかにも女性向けで、パワーストーンという名称でクズ石を宝石としてなんとしても売りたいという願望が見え見えの、オカルトについては完全にオマケと化した店だった。


ちゃんとしたオカルトショップだった店の支店のはずなのにな。


「いらっしゃいま……せ~……」


あきらかに侮蔑のまなざし。


陰気臭いガチのオカルト野郎が入ってくんなよ、といった視線。


しかたないだろう。手にとってオカルトアイテムを見る事が出来る店なんて、もう他には残ってないんだから。


そんな不快感の中、奥のオカルトコーナーへと立ち寄る。


パワーストーンのブレスレット一つを見ても高い。

無駄におしゃれで無駄な値段を付けてやがる。


こんなもの、タリスマンやアミュレットとしての効果があればいいんだから、形なんて適当でいいだろうに。


仕方なく、インセンスやマジックオイルのコーナーに寄る。


どこぞの海外のお土産物屋に売ってそうな混ぜ物の多そうな適当雑多な物ばかり。


お手製で作っているうえにレシピや作り方まで教えてくれたあの店のマスターとは雲泥の差だ……。


独り黄昏ながら店の奥を見ていると。


珍しい、ガチ系の魔術書がいくつかおかれていた。


もちろん、ガチと言っても怪しい本ではない。


きちんとした出版社から出ている、有名魔術書の日本語訳の復刻版だ。


「……」


そういえば、さまざまな魔術を試しては来たが……。


まだ実行できていない秘術があったな。



そんな事を思い出していた。



帰り道。



バスの中にて。


途中で買ったライトノベルの新作を読みつつ。


間に挟まっていたチラシのタイトルを見る。


また、異世界転移だの異世界転生だののタイトルが書かれていた。


くだらないな。


所詮は今の人生を生きられない負け犬が楽しむ物語だ。


鼻で笑って侮蔑した後に気付く。


なんだ、まさに俺のことじゃないか。


自嘲する。


貧しい家柄に生まれ、特に秀でた才覚があるわけでもなく。


何より、男というだけで息苦しい世の中だ。


ドラマではイケメン俳優が活躍し、女優は嫉妬されないように感情移入しやすいように中途半端なブサイクか、女の理想たる男みたいな女ばかりが活躍する。


内容は女性が好む恋愛ものか、男性に対して女性が反論して俺つえぇするだけの話ばかり。

そうでなくても、女性が主人公でイケメン俳優に囲まれて活躍するものばかり。


女性のためのエンターテイメントばかりだ。


そんな中、唯一そういった抑圧から逃げられていたのがアニメや漫画、ゲームだった。


それを、今度はフェミニズムという建前で正当化した、ただの男性憎悪者ミサンドリスト共が正当化して規制規制と奇声をあげて男の楽しみを奪おうとしてくるときたもんだ!!


『あんたが女の子だったらよかったのにねぇ。若いうちなら股開くだけで簡単に歩く財布が手に入るんだからさ』


母親から何度も聞かされて来た言葉に反吐が出る。


男尊女卑も今は昔の話だ。


今の時代、もはや男の方こそが被差別階級だ。


例えば、TVCMで男は臭~い! 女は被害者みたいな内容が流れるとする。


それは普通に許される。誰も非難を行わない。何故だかな。


だが逆ならどうだ?


男が女性に対して臭~い! だから消臭スプレーエチケット! みたいなのをやれば間違いなく苦情が来るだろう。


そういう場合は女性同士で臭い臭い言い合ってお茶を濁すのだ。


男の意見は完全度外視。まさに迫害じゃないか。


TVドラマにせよCMにせよ、いつだって男が加害者で女が被害者の構図になる。


大抵は憎い男が出てきて女が喚きたてて勝って、女性すごーい、で終わるストーリーばかりだ。



再現ドラマで描かれるものはいつだって、男が仕事をせずに課金ゲームにばかり興じて家事もしないと嘆いて女だけが仕事をして家事もしている、さらに男が逆切れして怒って女可哀そ~う。例えるならばそんな内容のものばかり。


いつだって男性が悪者にされるパターンばかりだ!


いつだってドラマの中では女性だけが被害者で男ばかりが加害者扱い。


実際に男の方が加害者になりやすい? 男の全てが加害者な訳じゃない!

女性の加害者だっているだろ? 男の保険金目当てで男を殺した女なんて山ほどいるじゃないか!

それを口にすれば、女性の全てがそんなんじゃないとのたまうくせに!

いざ自分達が逆の立場になれば文句苦情を繰り返すくせに!


さも男の全てが加害者で自分達は一方的に被害者であるかのようにのたまいやがる!!


そして、たまに女性が悪役になっても女どもは時に、それは“強い女性”だとほくそ笑む。

または、本当は加害者になる理由があるような、被害者としての過去があった、みたいなパターンでお涙頂戴で悪という事実から逃れようとする。


逆をやれば女性差別だとのたまうくせに、平然とまかり通っている事案の何と多いことか。


どっちが差別だと言いたくなる。



「……」



――遠い昔の話だ。


俺はいじめられていた事がある。


しかも、女子にだ。


内容はもう忘れてしまったが、あることないこと言われて、結果全てこちらが悪い事にされた事をよく覚えている。何度もだ。

あいつらは口が達者だ。社会的にも、弱者だから守るべきと言う庇護階級とも言える特権階級の力もある。


こちらの主張は何一つ受け付けられなかった。


何より、男は女に暴力は振るってはいけないと言う。


だが逆はどうだ?


そして、その理由とは、男の方が筋力的に優れているから、という理由からくるものだろう?

ガキの頃は、女の方がでかいんだから、そういうルールは不平等なんだ。


それにだ。強い能力を持っているからそれを駆使するのが卑怯だから改めよ、というならば、女性も男性に向けて得意分野をセーブしなければアンフェアだろう。


女性が男性より優れているものはなんだ?


言葉と、社会協調力だ。


言葉による言い回しと、群れる行為。


これらは女性の方が脳の構造的に強いのだから、男性が女性に暴力を振るうな、というならば、女性も男性に対してこれらを用いた攻撃を行わないようにするのがフェアではないのか?


だが、古臭いマチズモの時代から何一つ変えられない政治は、世界は、そういった意見を受け付けない。


何も変わらない。


ましてや、共感して欲しいから不平を多数口にしやすい女の言葉を鵜呑みにして、性欲を満たしたいだけの馬鹿男はそれを問題として解決しようとする。


明らかに男性は文句を言う回数が女性よりも少ない。ましてや言っても男なんだから我慢しろとセクシャルハラスメントで返される。


一方女性は、お得意の言葉上手で被害者面してただ共感して欲しいだけの言葉を協調させて数を増幅させ、馬鹿な政治家が、共感ではなく実行で解決にうつす。


結果、世界はどんどんダメになる。


どこがダメかって?



あからさまな男性差別社会へと落ちてゆくのだ。



今の世の中は、完全な男性差別に落ち始めているのに、それに気づく者、それを肯定するものは未だ少ない。



睾丸を蹴り飛ばされ、もがき苦しむ様を見てただ笑い転げる女子生徒ども。



やり返せば上が出てきて潰される。


やり返さなければ延々と虐げられる。


逆に殴れば、男の癖に酷いとのたまう逆セクハラ時代。



女性専用車両はあっても男性専用車両は無く、痴漢と言われてしまえば冤罪でも法は不平等な裁決を下す。



そう、あの時もそうだった。

小学校の時、勝手に手を取られ胸だの股間だのに手をあてさせられ……。


悲鳴をあげられ痴漢にでっちあげられた。


それでも、教師は俺の言い分など聞かずに、全て俺が悪いと、勝手に決めやがった!!


数の有利で、嘘の証言が勝つ。それがこのクソ世の中だった!!


「冗談、冗談~。めんごめんごぉ~☆ でもお前も良い思いできて嬉しかったろぉ? けど、あんまり舐めてると、次は潰すからね? キャハハハハ」

「潰すって、何潰しちゃうのぉ~?」

「やだぁ、アキラちゃん女の子になっちゃぅ~」

『キャハハハハ』



この行為に、どれだけの犯罪が含まれているかお分かりいただけるだろうか?


マスメディアの女性優遇差別。

現実の女性の身勝手な凶行。暴走。


きっと俺達の世代はこうやって、異性を忌避して離れ、多くの男性がパートナーと出会えずに死んでいく世代となるのだろう。


全員が全員とは言わない。こういった悪党はごく一部なのだろう。そう信じたいものだ。



不快極まりない過去と現実に反吐が出そうになる。


……このまま世界が変わらないのであれば未来はきっと暗い。


やがては、上手く奴隷になれるような、この世界に順応した男だけが適応し、そんな奴らだけが生き延びて子を残し、適応できない者は淘汰されていくのだろう。



そうして遺伝子的に、奴隷体質の種族が生まれるのだ。


もしかしたら、どこかの国はそれを望んで長いこと品種改良するつもりで裏から操作していたのかもしれないな。


戦争が終わって以来、長い時間をかけて……。


どこかの国、または組織は、日本人をそうして、ごく自然に、気付かれないように、奴隷種へと進化させていくつもりだったのかもしれない。



……くだらない。



そんな風に独り憤りながらも、暇つぶしに世界の一端について思考実験的考察をしている時だった。


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