第15話 イン・ザ・アンダーレイヤー 2

 

 

 

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 重く響く多連的金属衝が空間を崩していく。


 壁に描かれた二足歩行のエッフェル塔は蜂の巣。隣の女神の像は首から上が吹き飛んでいた。

 大浴場は見るも無残な様。

 音と光が止む頃には、既に浴槽の底は見えていて湯は残っていない。

 

 「なるほど、こういうことか」

 

 ケンゴは納得したように呟いた。

 

 「あーうん、こういうことだなうん」

 

 冷や汗を浮かべて、ヨシカゲは彼に同意するように頷いた。

 

 向けられていたのはやはり銃口、それに類するもの。

 赤熱したそれは吐き出した残響を揺らす。

 

 「……こいつは」

 

 二人の眼の前には銃口を向ける子供、男、老人。

 そう、大浴場に居た彼らの他の客だ。どうやら彼らが襲撃者らしい。

 先の襲撃を回避されたことからか、彼らは簡単に二人の前に姿を晒していた。

 

 「へえ」

 

 珍しいものを見たようにケンゴは言葉を零す。

 

 「機関人エンハンサーか」

 

 ヨシカゲのそれは苦虫を噛み潰したような声色だった。


 獣如く四つん這いになって、顎を外し、開けた大口から砲門を見せる黒髪白眼の少年。

 真っ直ぐに伸ばした両腕を変形させ、肩から先に機関銃めいた銃口を覗かせる筋骨たくましく、日に焼け潮風に縮れた金髪と緑眼の男。

 頭頂部から真っ直ぐにへその辺りまで真っ二つに裂け、現れた背骨から細いノズルめいたものを複数伸ばす骨骨しく痩せ細った老人。

 

 ――機関人エンハンサー

 人と機械の融合体。臓器や肉の代わりに生身の数倍の強度や機能を持つ人工臓器。金属及び合成生体部品を複合した骨格及び筋繊維。機械に身を委ねることで人であることをやめた機械人類だ

 通常の義体サイボーグと違うのは、生身が欠片も残っていないところだ。

 彼らの自意識や記憶をインストールした記憶チップが彼らに残された人である唯一無二の証。

 完全機械化人類種。彼らは魂すらも0と1に置き換えた存在だ。

 

 「へえ……これはまた」

 

 「悪趣味だ」

 

 ヨシカゲは顔を歪めて吐き捨てる。興味深げなケンゴとは真反対の反応だ。

 

 「―――――殺すkill

   

 唯一話せそうな男はそう言った。


 このメガフロートに生活する人間が扱う言語は大体二つ。

 大日本帝国語――つまるところ日本語。

 後は最も広く普及している英語。

 前者は此処が大日本帝国が主権の一部を握っている為。

 後者は同等以上に権威を持つ米国が参入しているのと普及度合いだ。

 

 訛りは見えない流暢な一言。インストール焼付を用いれば、ある程度どの言語でもこなせるようになる。

 特に歴史データベースが深く、利用文字の少ない英語はその恩恵は大きい。

 逆に歴史データベースこそは深く大きいけれども、その膨大すぎる情報量や多すぎる文字から日本語は熟練度の高い、反芻が進んだ者にしか使いこなせず、インストール焼付以上にその者の教養が必要となる。

 

 そして、今目の前の男が放ったのは――英語の一単語。

 

 淀みはない。

 しかしけれど前述通りだ。英語は焼付インストールによる補助があれば本人の熟練に関係なく会話が可能。

 それに利用地域が広い。

 男達の外見も多国籍で無国籍。何処にでも居そうな顔や言葉少なさ。何よりも機関人エンハンサーであるという事実。

 積み重ねた事実と現実が彼らの正体を覆い尽くしていた。

 

 ――まあ今の御時世、国境など形骸化して久しい。殆どその考察自体に意味はないだろう。


 「見ず知らずに殺されるような恨みを買った覚えは――」

 

 「わりとありそうだなお前」

 

 「……この仕事のせいだ」

 

 ヨシカゲは渋面を浮かべた。

 

 「お前はどうなんだ」

 

 「まあ、しいて言えば――」


 意趣返しとばかりに不敵な笑みで、

 

 「逆恨みくらいだ」

 

 蛇腹剣チェインチョッパーが疾走した。

 銃弾や砲弾。挙げ句に閃光レーザー

 全て叩き落として彼らを守り抜いた刃が、三人組に襲いかかる。

 

 ――速攻である。

 

 相手は飛び道具がメイン。しかも体を改造し尽くした機関人エンハンサーを相手にするのだ。

 手札を見せる前に殺す。

 

 先手必殺。ケンゴはそれを是とした。

 

 滑るように空を走り、蛇腹剣チェインチョッパー機関人エンハンサー達、もっとも機動性の悪いであろう老人に到達――しなかった。

 空を斬って、床に突き刺さる。

 跳ねる破片。天井より落ちた水滴を真っ二つ。

 しかし、刃先が断つのはそれだけだ。

 

 跳躍していた。老人は手をもう一対の足として扱い、まるで飛蝗の様に跳ねた。

 よく見れば脚は通常の人と違い反転している。

 逆関節がこの跳躍を生んでいたのだ。

 

 無論、男と子供も黙って突っ立っているわけがない。

 既に初期位置には姿がない。

 男は後方への退避。恐らくあの男がこの三人組の中心なのだろう。

 他二人に比べて頭部への改造が目に見える範囲に無く、人間的な外観からそう推察できた。

 子供の方はというと動く様子はない――が、砲撃。

 

 音と衝撃は同時だった。

 この銭湯の命が完全に砕け散った音は壮絶だった。

 壁の銭湯絵と浴槽がまとめて吹き飛んだ。

 

 いや、それどころではない。

 

 砕けた塵と煙の向こうにあった雑多で入り組んだに市街にも大穴が空いていた。


 ――阿鼻叫喚。


 もうもうと立ち込めるコンクリートと鉄片の混じった砂塵。

 その向こう側には軒を連ねていた店の残骸が散らばり、通りを歩いていたであろう人の呻きや叫びが聞こえた。


 ――下層に広がる市街域は中層や上層と違って、狭い範囲を有効活用する為にかなり詰めた構造になっている。

 それも、元々下層自体が機関部やその他このメガフロートを運用するために作られた層だからだ。

 上に住めない民や貧民層を押し込める、もしくは逃げてくる場所がそこであった。

 そして区域を制限されている以上、詰めるしか無い。

 結果、この蟻の巣や蜂の巣めいた構造だった。

 

 だからこそ、この悲劇が生まれた。

 

 「酷い……」

 

 砂埃に塗れたヨシカゲは言葉を漏らした。

 直撃だけは避けたらしい。皮膚に引っ掻きなどの細い傷や擦り傷は見えるが、大きな損傷はない。

 

 「来るぞ」

 

 彼の隣にいつの間にか現れたヨシカゲ。

 気配はなかった。

 そして、既に戦闘態勢だった。

 無貌のフルフェイスマスク。黒のコートにマットブラックのボディアーマー。足元を守る頑丈なブーツ。

 狩人装を身に纏っていた。

 彼の手元には、縮まった肉切り鋸包丁チョッパー

 

 「……お前、俺よりよっぽど傭兵ニンジャだな」

 

 「は?」

 

 傭兵ニンジャをよく知らないケンゴは怪訝な目をヨシカゲ向けた。

 瞬間、弾丸が彼らの居た空間を貫いた。

 

 重く垂れ込む砂煙のベールを穿つは機関銃の唸り。

 リーダー格らしき男だ。

 男が両腕の二丁から無尽蔵に思えるほどの弾丸をばら撒いてきたのだ。

 彼らを貫くように迫る12.7mmの暴虐。

 瓦礫を更に粉砕し、薙ぐ一撃は死に体の誰かの息の根を止めた。

 

 鼓膜を打ち壊すような轟音が止んだ頃。

 新たに舞い上がった砂塵の中、向けあった背中越しにケンゴは訊く。


 「武器は?」

 

 「……風呂に持って入るか?」

 

 一瞬の言い淀みの後には正直な言葉があった。

 

 「役に立たねえな」

 

 突き刺さる視線にヨシカゲは歯噛みするしかなかった。

 

 「ぐっ……」

 

 深い溜息。

 

 「しょうがない……」

 

 その後、ケンゴは構える。

 

 ――狩人というのは積み重ねだ。

 

 膨大な幾多の狩人達が積んできたものが、生んできたものが複合し、扱う者に最適なものを与える。

 

 ケンゴには恵まれた体格がある。そしてその運動性能は並ではない。

 しかして彼の体は真っ向からの殴り合いには向いていない。

 細く引き締められた体の機能は走ること、疾くあることに重点を置いていた。

 そして、彼には積み重ねがない。生むための経験がない。

 

 だから、彼の構えは疾くある為にあった。

 今、彼に出来る最善がそこにある。

 

 「穴を開けてやる――さっさと行け」

 

 疾走は言葉の終わりを待たずに開始される。

 靴音を置き去りにして、黒影が砂埃を吹き散らす。

 刹那。無数の弾丸が荒れ狂い、ケンゴへと殺到した。

 

 ――――無論、ケンゴにのみ向けられた銃撃ではない。

 

 閃光。砂煙の中でも減衰しない輝きが砂を焼き抜いてヨシカゲの居た空間を貫いた。

 彼も疾走りだしていた。

 

 ――生身で相手をするにはあまりにも性能が違いすぎる。

 

 足裏に刺さる小石や破片の痛みを歯噛みしながらヨシカゲは思う。

 武器が、強化外骨格エクソスケルトンが要る。

 既に起動させ、後は触れるだけ。

 遠隔操作。生体組込式端末バイオデッキのAIに命じていたのだ。

 

 だが。

 

 彼に立ち塞がるのはあの老人と少年。

 銭湯の入り口、扉、ロッカールームは目の前。

 

 ――残り三メートル弱。

 

 しかし、この妨害を前にしたヨシカゲにとって、その距離は無限に等しかった。

 

 四肢を唸らせた少年がその矮躯を跳ね上げて迫るのを、ヨシカゲは見た。

 獣同然。人である事を捨てた――捨てさせられたであろう少年は真っ白で無機質な瞳でヨシカゲを見ていた。

 顎関節を無視したように口を開く。今はまだ砲門はない。あるのは鈍く輝き、鋭く乱立する牙と無明。

 

 「くッ……!」

 

 回避。

 脇を抜ける矮躯から漂う咽るような獣臭がケンゴの鼻を突く。

 無機質な生まれ方をしたであろうに、その少年はとても獣染みていた。

 

 回避ステップからフロム走るダッシュ

 

 目指すのは勿論、扉。少年の相手などせず駆け抜けていく。

 しかし、まだ一人いる。

 最も異形めいたその老人は、裂けた両脇にある飛び出た瞳でヨシカゲを視ている。

 屹立する背骨。収まっている臓器や本来ある胸骨は見えない。あるのはまるで触手の様に蠢き、尖端をヨシカゲへと向ける肋骨。

 尖端が発光――閃光。

 

 ――直感だった。

 本能的に避ける。真正面に来た老人の脇へと思いっきり飛び込む。

 視界を焼き切る光が、空に灼熱の線を引く。

 先程の閃光はこうやって放たれていたのか、とヨシカゲは眼前にして気づく。

 だが、今はそれを相手にしている、いや相手にすれば直ぐに射殺される。焼き殺される。

 

 幸い、残り二メートル。

 ―― 一瞬で走り切れる。

 ヨシカゲはそう確信していた。

 

 「ていうかあいつ、穴を開けるどころか一体しか持っていっていないじゃないか……!!」

 

 起き上がりながら踏み出し、ヨシカゲは今更ながら呟いていた。

 既にケンゴとあの機関銃の男は銭湯跡地から姿を消していた。

 外から機関銃の轟音が聞こえる。追従してつんざくような、踏み潰されるような悲鳴も聞こえた。

 きっと、外で戦っているのだろう。

 

 勢いのままに扉を蹴破り、ケンゴに後で何か奢らせようとヨシカゲは決めた。

 何かが地を蹴る音をヨシカゲは聞いた。

 咄嗟に身を屈め――――獣が虚空を薙いだ。

 

 空を引き裂く音。避けれていなければ、ただではすまなかっただろうということを風圧が如実に伝えてきた。

 

 またもやあの少年が、矮躯が、小さな獣がその白眼と共に立ち塞がる。

 再度見てヨシカゲは気づく。

 あの手足。表面上こそ生体皮膚で覆っているが、尋常じゃない握力があった。事実、コンクリート床に指先が食い込んでいる。

 あの砲門を支える為だ。

 そして、ただの砲台にしないための機械化サイバネの生んだ機動力がこの矮躯に獣性を与えている。

 掠れば肉を、掴まれれば終いだろう。

 

 背筋に怖気が走った。

 だから、ヨシカゲは足を止めない。

 止めてはならないと、言い聞かせて。


 ロッカーまでは遠くない。ヨシカゲは自分のロッカーのある方に気取られないよう視線向ける。

 近づけた。けれど現状はほぼ最初と同じ――。

 

 光が背面で収束するのをヨシカゲは後方から差す光で察知した。

 

 ――否、挟撃になってしまっている以上、完全な不利局面だ。

 

 走る。それしかない。ヨシカゲは判断すらせず、ただ直感のままに走り出した。

 幸か不幸か、此処はロッカールーム。立ち並ぶそれを盾にして行けばいい。

 ヨシカゲは立ち並ぶ背の高いロッカーの合間を抜けながら、そう思った。

 

 ――だが、あの光の出力はヨシカゲの安易な発想を許さなかった。

 

 抜いてきた。串刺しにするように光はロッカーの影に飛び込み体勢低く走る彼の眼前に突き刺さった。

 

 「ッ――!!」

 

 思わず後方へ――無論、敵もそれは予測している。

 背後に視線をやる――影を引きながら矮躯が落ちてきた。

 あの少年だ。

 威嚇も無く、ただ此方を無機質に見ている。

 ――今日、何度目かの歯噛み。

 

 半歩後退る/一歩詰めてくる。

 半歩後退る/眼前横でロッカーが無残に分断される。

 

 迫る光/獣の足音がヨシカゲを追い詰めていた。

 

 

 

 ――――ああ、そう思っているのはその二体だけだ。

 

 

 

 ロッカーの扉が一つ、吹き飛んだ。

 丁度、四つん這いの少年の真横。

 完全な不意打ちだった。

 ガツンと直撃―― 一瞬ふらつくだけで終わる。

 

 けれど、それで十分だった。

 

 

 

 『強化外骨格エクソスケルトン=〈蟷螂=白金号カマキリ=シロガネゴウ〉=展開完了フルコンプリート

 

 

 

 声なき言葉――直後、白閃が死を引き連れて疾走る。

 

 

 ―――腕が飛ぶ。

 

 

 少年の白眼が、無機質なそれがその時ばかりは驚愕に見開かれた。

 白貌は、〈蟷螂=白金号カマキリシロガネゴウ〉は、御堂ヨシカゲは瞬きに満たぬ、秒針の一歩を置き去りにして散らばる無数の破片の中を突っ切った。

 眼前、目前。

 ヨシカゲが脇に逸れる。

 すれ違いざまに銀光は瞬いた。

 

 ――〈大日本帝国企業郡式傭兵刀戦術〉

 

 それは、帝国より遥か昔。最初の帝国、それより前。

 侍というものがいた時代の技。

 その一片。

 その黄泉帰り。

 強化外骨格エクソスケルトンを、鉄火場に人が人を斬り捨てる術を得た人類の戦場にて返り咲いた技術。

 

 ――〈蟷螂が崩しアレンジ

 

 一振りの太刀より二対の刃が幻出する。

 それは蟷螂のように、無慈悲に獲物を絡め取っていく。

 超高速の劔、刃先がほんの一瞬帯びる衝撃波ソニックウェーブ

 全てはそこにある。

 

 ――〈貳鎌ニカマ

 

 矮躯、四散。

 床へ機械塊が重く落ちた。

 もう動かない。


 残心も短く、ヨシカゲへと閃光――突き刺さるより疾く、彼の躰は斬り込むように後方へ転進。

 落ちた矮躯よりも見窄らしい、あの異形の老人をヨシカゲの瞳は、〈蟷螂=白金号カマキリシロガネゴウ〉の探査知覚を以て、捉えようと走り回る。

 

 しかし、姿を捉えられない。

 

 〈蟷螂=白金号カマキリシロガネゴウ〉の探査センサーは通常視覚及び音と熱、そして暗視。

 それら全てからあの老人は逃れていた。

 光化学迷彩どころではない。

 ヨシカゲ自身の目も、生体組込式端末バイオデッキすらからも逃れていた。

 

 そうして知覚外より降り注ぐ無数の閃光。

 

 捉えたその時にはもう遅い、対応不可能な光への対応。

 ロッカー越しの射撃、予測不可能の射撃へ〈蟷螂=白金号カマキリシロガネゴウ〉及び生体組込式端末バイオデッキの精神強化と神経介入を用いてヨシカゲは対応していた。


 光を弾き、躱す――ある種の矛盾めいた所業をヨシカゲは強いられる。

 

 常軌を逸した戦闘駆動にヨシカゲは歯を食い縛る。

 ヨシカゲへ行われる戦闘補助は、前述の通り肉体内部に及んでいた。

 精神興起剤コンバットドラッグ過剰投与オーバードーズ

 無茶極まりない戦闘駆動デンジャードライブ/緊急修復オートリペア

 ヨシカゲの躰と精神は凄まじい速度で摩耗していた。

 

 ――――先の少年ですら奇跡だったのだ。

 

 上手く誘き寄せられたということ。

 初手にあの砲台を使われなかったこと。

 一撃で仕留められたこと。

 

 全て、どうにか手繰り寄せた現実と転がり込んできた偶然だった。

 

 

 疾走ステップ

 光を避ける。限界駆動オーバークロックする視界に描く予測ラインを信じ、避けるように駆ける。

 彼は諦めない。

 その詐術を暴き、そして、斃すと。

 

 ――彼の瞳は死んでいない。

 

 

 

 「ああ、それまでです」

 

 

 

 血飛沫が虚空に吹き出した

 何もない空間から、栓を切ったように吹き出る。

 あの老人だった。

 ヨシカゲの数メートル先に現出。彼の接近は正しかった。けれどもう意味はない。

 その姿は見るも無残であった。

 あの閃光を放つ肋骨は、背骨ごと粉砕。残る裂けた顔面は押しつぶされていた。

 虚空から死骸がぼとりと落ちて、そのまま崩れ落ちた。

 

 「お粗末な光学兵器――」

 

 こつり、足音。鳴らした革靴は物言わぬ鉄塊と化したそれの脇にあった。

 ツーピースのスーツを身に纏った長いアシンメトリーの前髪を垂らす優男が死骸に手を入れて、赤色に塗れた何かを引き摺り出した。

 

 「……ですかね? まあ構いません」

 

 それを珍しげに見つめると直ぐに掌で押し潰し、地に落とす。

 ……嫌な音がした。

 

 「―――ユキカゲ、兄さん」

 

 かしゃりと顔を覆う強化外骨格エクソスケルトンを格納して、呟いた。


 「久しぶりです。ヨシカゲ。元気にしてましたか?」

 

 御堂ユキカゲはそう微笑った。




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