湖守奇談

黒いもふもふ

湖守へ

 とある県の田舎町。山に囲まれ、陸の孤島とまではいかないが、公共交通機関は一日に数本のバスのみ。地図に載っている正式な名前はほかにあるが、そこに住む人々はこの陸の孤島を湖守と呼んでいる。あるのは大きめの古い神社のみ。不思議と人口は少なくない。



「麻由里、いいかげん機嫌なおしなさいよ。」


 赤い軽自動車が湖守に続く道を走っている。


「……あと二か月だったんだよ? それに今からこっちの小学校通っても友達なんてできるわけないじゃん。」


 麻由里と呼ばれた少女は頬を窓ガラスにつけ、不貞腐れていた。もう一度、クラスのみんなから渡された色紙を抱きなおす。


「そんな心配しなくても、ママの育った場所よ? お稲荷様がきっと麻由里に友達ができるように見守ってくれるわ。」


 麻由里はだからどう安心しろというのか、と怪訝な顔をする。


「おじいちゃんの家に着いたら、まずはお稲荷様に挨拶しにいかなきゃね。」


 母親は「大丈夫よ。」と麻由里にもう一度言い聞かせた。

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