初めてやる戦艦ゲームで最強の艦を引き当てたので苦労せずに勝てそうです

ならや

このゲームの世界へようこそ!

バトルシップ・シュミレーター、通称BS

世界で最も人気のゲームではあるが、かなり大型な為台数を揃えようとすると専門のゲームセンターを作らなくてはならない

だが、そんな事は問題にならなかった

今ではその専門のゲームセンター、BSSがそこら中に作られている

ゲームの趣旨としては第二次世界大戦から現代までの軍艦を操り、プレイヤー同士の戦闘を行うというどこにでもありそうな内容だ

このゲームが何でこんなににも世界中でブームを巻き起こしているのかと言うと、その再現度の高さにある

まず、プレイヤーは艦長、砲雷手、操舵手、レーダー手といった分類の中から選び立場を決める

そしてゲーム機の中へと入るのだ

ゲーム機はかなり大きい

部屋がまるまる1つその部屋になったようなサイズで、各自操作用の物がズラリと並んでいる

自分は決めた役割の事しか出来ずレーダー手なら電子戦等を担当するが、攻撃は砲雷長の担当になる

また、砲雷長も艦長の命令を受けて攻撃をするので最も大切なポジションは艦長だ

この様に実際の軍艦と同じ命令系統、更に戦闘時の分類は国ごとで第二次世界大戦バトル、冷戦期バトル、現代バトルと3つに戦闘が分かれて自動で分配される

なので第二次世界大戦の戦艦が現代艦と戦うなどのマップ設定は絶対に起きないようになっている

それと艦種によっては特殊な操作が可能な物もある

空母であれば航空機を発艦させどの敵を攻撃するのか指示出来るし、ヘリコプター搭載型ならヘリコプターを発艦させて潜水艦を探索する事、補給艦は味方に弾薬や燃料を補給する事が出来る

それだけでなく艦ごとにも特別な操作、特殊能力がある場合もあるのだ

原子力船は燃料が要らないし弾道ミサイル発射が出来る艦もそれを迎撃する艦もある

この様に実際の軍艦の設定を色濃く反映しゲームが開発されてから最もリアルなゲームと称される

ワンプレーが50円と高くないのも人気の理由だ

何故こんなにも安いのか、それはネット上で様々な議論が交わされるが


『戦争=悪というイメージが固着している日本人にも親しんでもらうため』

『ファンに対するサービス』

『まだテスト段階だから』


等色々な説が出て来ている

その中で最も有力なのが


『単純に値段設定を間違えただけ』


という何とも言えない理由だったり




さて、そんなBSSにやって来たのはこのゲームではあまり見かけない女子の3人組だ


「BSってやった事無いんだけど?」

「私もやった事無いよ!」

「横に同じく」


この3人は今日初めてBSSに来た、新参者である

サービス開始時からの古参になると判断力に操作など新人とは比べ物にならない程の差があるのだがゲームを始める者は後を絶たない

ここの田中たなか詩織里しおり柄本つかもと春香はるか伴松ともまつ光里ひかりの3人も今日BSを始めようと詩織里が誘って来たのだ


「で!どうやって始めるの?」

「え、詩織里知らないの?」

「光里ちゃんが知ってると思って!」

「よし春香今スグ調べろ」

「2人とも知らねぇのかァァァァァァァ!?」


が、始め方もよく分からない3人が入り口で戸惑っていると


「光里?春香と詩織里じゃねーか。こんな所で何やってんだ」

「およ?おうじーじゃないの」


同じクラスの友人、王子田おうじだ湯又ゆまたが偶然にも通りかかって声を掛けた


「おうじーもしかしてBS?」

「そうだが?俺は砲雷長だからな。ここのBSSには知り合いが居ないからその場で組んでやってるが」


それを聞いた詩織里は


(確かBSで1番難しいのは砲雷長だったっけ?おうじーが一緒にやってくれればここだけで出来る!)


と一瞬で計算してその為に行動を開始した


「ねぇねぇ、私達これからBSを始めるんだけどさ、やり方とか教えてくれない?」

「良いぞ。ただ俺はアメリカの砲雷長だからアメリカは確定になっちまうぞ?」

「私は良いけど。光里と春香は?」

「私も良いよ。春香もOKだって」

「私に選択肢は無いんか!?」


という訳でBSSの中に入った4人

湯又は入ってすぐに


「ちょっとそこに座って待ってろ」


と言い残してカウンターへと向かう

カウンターから戻って来た時には3冊の本が手に握られていた


「何それ?」

「マニュアルだ。全部読んでも10分ぐらいしかかからんから読んどけ。あ、春香お前は読まなくても出来るか」

「私の事何だと思ってんだお前」


ジョーダンだ、と手をひらひらさせながら3人に渡すと自分はスマホを弄って時間を潰す

予想通り10分程で3人とも読み終わった


「さて、行きますか。ところでポジションは?」

「私が操舵手やって春香がレーダー手だから詩織里が艦長で良いよ」

「じゃあそれで行くか」


アメリカ軍艦艇のCIC戦闘指揮所再現した部屋に入ると各々の席に着き訓練の開始を待つ

初めての人は訓練という形でチュートリアルを受ける事が出来る

今回は砲雷長以外は新人となっているのでチュートリアルを受ける事にした

ちなみに使用する艦艇はアメリカ海軍タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦26番艦ヴェラ・ガルフである

これは湯又が所有する艦艇から選んだ物だ

早速のチュートリアルだが、席によって異なり各々チュートリアルをやりながら操作を覚えるので砲雷長である湯又はチュートリアルをやっている間とても暇だ

全員のチュートリアルが終わると艦長席の詩織里の前のタッチパネルに何かが表示された


「えーとなになに?『付近の海域に所属不明艦を確認しました。向かいますか?』.....よく分からないからYESにしとけ!」

「おまバカ!?」

「うぇ?なんかヤバかった?」

「それはな!他プレイヤーの操作する艦との戦闘に向かうって事だよ!ああもう!戦闘になるぞ!」


時すでに遅し、とはこの事である

読み上げた声から内容を察した湯又が止めに入るもYESを押した後だった

仕方無くバックからアメリカ海軍の帽子を取り出して被りヘッドホンを着けてマイクをONにする


「全員ヘッドホンを着けてマイクをONにしろ。これから戦闘海域だ、索敵を怠るな」


それだけ言って武器関連のチェックを開始した

数分後には艦影をレーダーで捉えていた


「敵艦発見!艦種は忠武公李舜臣級駆逐艦チュンムゴンイスンシンきゅうくちくかんと判明!距離は185キロ!」


この報告に湯又は思わず舌打ちした

この駆逐艦の搭載するミサイルの最大射程は180キロなのだ

もう1、2分でミサイルが発射される可能性もある


「艦長、対空対艦戦闘用意を」

「た、対空対艦よーい!」

「対空対艦戦闘よぉーい!!」


副長役もする湯又が詩織里の命令を引き出し復唱する

ディスプレイにレーダーが映し出され忠武公李舜臣級駆逐艦の艦影もある

ディスプレイ横には大量のスイッチがありそれの1つ1つが兵装の発射スイッチとなっている


「レーダー手、敵艦からのミサイル攻撃を察知したら電子戦を開始せよ」

「艦長、反撃は敵艦の対艦ミサイルを撃墜しだい開始したいと思います」

「りょ、了解」


艦長、砲雷長、レーダー手の連携を取りつつ操舵手は敵艦に艦首を向ける


(このヴェラ・ガルフは対艦ミサイルをVLSに装填してあるから敵艦に舷側を見せなくても攻撃出来るが........装填数は変わらず8発だ。8発、8発で仕留められるか)


そんな事も考える湯又だが、レーダー手からの報告とアラートで頭の中をリセットした


「敵艦飛翔物体発射!恐らく対艦ミサイル!弾数4発!!電子戦開始!」


電子戦スイッチを押すとミサイルを妨害する電波を発信しミサイルの誘導を狂わせようとする

実際、それによって2発が海面に突っ込み2発のみとなった

こうなれば砲雷長と対空ミサイルの仕事だ


「ロック完了!ESSM発展型シースパロー発射用意完了!」

「了解。発射して!」

サルボーッ!斉射!


ESSMの発射スイッチを押せば前部VLSから4発のミサイルが勢い良く飛び出す


「ミサイル、飛翔中。インターセプト迎撃5秒前。3、2、1、マークインターセプト!迎撃成功!」

「了解!」


どうやら撃ち落とす事に成功したようだ

成功したのならばお返しをしなければならない


「これより反撃に!」

「了解、目標、忠武公李舜臣級駆逐艦!2発を発射する!発射用意完了!」

「発射!」

「サルボーッ!」


前部VLSから2発のミサイルが飛び出す

このミサイルはハープーン対艦ミサイル、先程のESSMは対空ミサイルであり今度のミサイル発射は敵艦を狙っている事が分かる


「ミサイル飛翔中、着弾には30秒を要する」

「敵艦ミサイル発射!速度から対艦ミサイルだと思われる」

「対艦?了解!迎撃する」


レーダーに現れた4つの点は敵の対艦ミサイルである事は意外だった

自艦にミサイルが飛んで来ている状況なら迎撃を優先させると思っていたからだが、この時の忠武公李舜臣級駆逐艦の対艦攻撃を優先するという決定は致命傷となる

ハープーンの迎撃に移る頃には着弾まで15秒となっていたからだ

慌てて対空ミサイルを4発発射するも1発を撃ち落とすにとどまりもう1発はすり抜けた

ヴェラ・ガルフでも予想外の事が起きていた


「!?敵対艦ミサイル2発健在!対空ミサイルは間に合わん、主砲とCIWSで対応する!」


ESSMが2発の目標を捉え損ね無傷で通過してしまった

が、湯又は落ち着き払って主砲とCIWSで対応した

艦首のMk.455インチ速射砲が自動で照準を合わせて湯又はトリガー型の引き金を引き続ける

引き金が引かれている間は砲弾が速射され対空砲弾が撃ち出されて行く

ミサイルよりも確実性に劣るが速射すれば1発は当たるものだ

対空砲弾の1発が対艦ミサイルを上手く捉え撃墜した

もう1発はCIWSの射程内に入った


「艦首CIWS、対応。射撃開始」


ファランクスCIWSの砲弾が無数にミサイルを貫き爆発四散させた

しかし、忠武公李舜臣級駆逐艦ではこうならなかった

忠武公李舜臣級駆逐艦はゴールキーパーCIWSを搭載しているが艦の後方で今回は使えなかった

その為RAMを連続発射して撃墜しようとしたが距離が近すぎた


「ち、近すぎる!!」


忠武公李舜臣級駆逐艦の艦長がCICでそう叫ぶと艦首速射砲のちょうど根元辺りに着弾し大爆発を起こした

更に悪い事に速射砲弾に誘爆し大量の浸水を招いた

火災に浸水という被害によってダメージコントロールも混乱を極めた

幸い、沈没は防いだが浸水によって大きく傾斜した艦首はVLSの発射が不可能になっていた

これを見たヴェラ・ガルフは残りの6発を連続発射する

目標を指定されたハープーンは確実に仕留める為に海面ギリギリを飛翔する

忠武公李舜臣級駆逐艦は側面を向けていたので的は大きかった

今回はRAMに艦後方のゴールキーパーCIWSも使用し3発が撃ち落とされる

しかし残る3発は船首、船尾に中央と命中し完全に戦闘力を奪った

だが、艦自体は浮いていて対艦ミサイルや対空ミサイルは撃てる可能性がある

海底に確実に送る為、ヴェラ・ガルフは砲撃を実行した

船首と船尾の速射砲を発射して無数の砲弾を浴びせたのだ

すれ違いざまに砲撃しただけだが重要区画を貫き忠武公李舜臣級駆逐艦は海底へと沈んで行った


「艦長、敵艦沈没確認しました」

「了解、戦闘終了と確認する」


マニュアル通りの戦闘は完全な勝利を生み出したのだった

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