第15話 歌で打破するもんじゃない

「リスメイの王に会いに行くぞ」

あんだけ兵士も手薄なら、強行することになっても一発で会えると思ってね。


ちょっとみんなに説明した後、建物の外に出る。ウチが寝てた場所は宿屋「森のさえずり」と言うらしいが、城下街の外での戦いで傷ついた怪我人らを一時的に寝かせる場所に成り果ててしまっていた。うーん、戦争に関する動画とかでよく見るシーンよな。

リスメイの城下町は少しボロくなっていたが、まだまだ温かみを感じさせてくれる石作りの街並みだった。マーブルヴェールと比べると、緑と共存している感が強い。大通りをチームレグシナとして六人で歩いていると、町の人々がすでに暗い表情をさらに曇らせる。そりゃこんなご時世に城へ直行する団体って、敵の刺客か狂人か宗教くらいしか思いつかないよね。

緑と黄色の旗で飾られたリスメイの城。ここもまた緑と共存。城が枯れた巨木を囲うかのように建てられてるもん。ところどころ石が欠けてたりするけど、まだまだ持ちそうだ。

魔王に対する情報があると言ったら、城を守る兵士たちはちょっと許してくれた。アルテリアで最近名を馳せた歌姫御一行だとギルドカードを見せたら、王との謁見を許してくれた。

いや早いよ。


「……お前たちが巷で噂になっていた冒険者団の『レグシナ』か。」

黒い髪の毛に、豊かな深緑の目。眉間によったシワがストレスの膨大さを表す。本人の若さに対して、見た目が結構歳を食ったような、損な人って感じの王様。

「はい、その通りです。ウチがリーダーを務めます、歌姫のマリと申します。」礼儀は欠かさない。一礼。

「情報があると聞いたが、どのような物だ。」


ここでウチは女神レグシナ様に教えられたことを包み隠さず告げる。

魔王がどうやって魔物を生み出しているか。奴を止める方法。ウチがどうやってそれをこなすか、そのために王からどのようなサポートが必要か。

はたから聞けば狂人と思われても仕方ない。突如敵国から現れた年端もいかない小娘が女神様の名を引き出して、女神と会話したと告げ、ありえもしない現状打破方法を王に説得しているんだから。

でも、さ。


「ならぬ。」

いや、いくらお堅い王様でもウチの喋った量に比べて一言って。


「しかし、リスメイの王。理にはかなった作戦ではございませんか?」ラクトが援護する。ちょっと苦し紛れだけど、サポートがあれば可能な、荒削りな作戦だけども。

ちなみに現状打破方法はこうだ。まずウチが神樹を復活させる。その神樹を探し、復活させる間、拠点となるリスメイは冒険者や傭兵などを活用し、生き延びる。神樹を復活させたらウチがリスメイに戻り、敵を真っ直ぐぶっ飛ばしながら魔王の城へと突入、魔王討伐。

これのどこが理にかなってるかって言われたら、それはウチが勝利の女神の加護を持つ未知数の歌姫だからだとしか言えない。これらを可能にさせるくらいの力と歌のレパートリーくらいはある。

でも、現実は簡単で非情だ。

「だからならぬ。神聖なる神樹の場所なぞ、敵国のお前たちに教えてなるものか。そもそも、神獣らを殺したのもお前たちだろうに。私を騙し、神樹さえも滅ぼそうと企んではいないと言えるか?」

ごもっとも。

「ですから、その分の贖罪を、神樹を復活させることにより果たさせてはくれませんでしょうか?」サビナも助けてくれる。宿屋でウチの作戦を初めて聞いた時は目がまん丸だったけど、納得はしてくれたみたい。

「あと敵国って言うけど、俺たち全員アルテリアの外から来た冒険者だぜ?」ランスが王相手に普通の口調で喋る。すぐカシスが咎めるけど、その肝の太さ嫌いじゃないよ。

「神樹の情報さえ下されれば、私達はこの国を、この世界を、魔王から救うことができるのです。どうか、マリ様に信頼を。」アーサーが座ったまま深く礼をする。

「神獣を殺したのは確かに僕たちですが、僕たちも魔王に騙されていたのです。どうか、信じてください。」カシスの敬語は久しぶりに聞いた。でも、そんなじゃ王様は折れてくれない。

「ふと気付きましたが、その言い方、神樹の場所は知っておられるんですよね?」ウチの小さなつぶやきが虚空に消える。いや、気づいただけだから。睨まなくていいから。


「聞き分けの悪い者らだな。兵よ、こやつらを追い出……」

そう言いかけた王様だったけど、その瞬間、ボロボロの兵士さんが謁見の間に飛び込んできた。

「王、敵軍が……このままでは、もう!」

苦虫を噛み潰したような顔ってああいう表情なんだね。ピンチだけど、チャンスでもある。

「リスメイの王、ウチたちがこの魔王軍の攻撃から国を守った暁には、ウチのことを信じてください。」

そう言い残し、ウチは謁見の間を飛び出して、戦場につながる城壁へと走った。


アルテリアの方角から人じゃない大群がこっちへと向かってきていた。空も陸も敵まみれ。こっちの……リスメイの兵や、戦闘に参加してくれる冒険者に傭兵たちは疲労と諦めの色が濃い。

確かにこのままじゃ負け戦だな。そう思いながら、城壁の上、ウチたちチームレグシナは戦場を見下ろす。

ウチが気絶してた三日間で、かなり景色は変わっていた。空は常に暗雲が立ち込め、今が昼か夜かもわからない。マーブルヴェール周辺の森は枯れ果て、折れたり抜けたり。草一本生えない荒地、その中心に立つ廃墟じみた石の町、それに囲まれた堅牢な城。

まじでラスボスエリアじゃねーか。んなとこにしょっぱなから放り込むのもなんだが。


「とりあえず言うけど、あの数を倒すのはウチでも難しいね。弱らせるくらいならできるけど、それだとトドメをさしてくれる人がいないか。」

「冷静な分析、なのかな?」サビナが杖を構える。ふと気づいたけど、仲間のみんなの服装が変わってる。リスメイの装い、ってやつかな。サビナの服がちょっと豪華めに見える。

「では、どうするおつもりで?」アーサーが敵の大群を見やる。

「倒せないなら降参させるまでよ。気力を削げばどうにかなる。削いだ後はこっちを強化するから、戦える奴らを前線にまとめておいて。」

「なんとかするよ!」カシスを筆頭に全員が頷き、下へと降りていく。城壁の上に残ったのはウチ一人。

立体音響を構え、伴奏石をひねる。流れ出すクラブ・ミュージック、それに合わせて歌うウチ。サビに入るまでに、チームの他のみんなが色々と人を下にまとめてくれたのが見える。

さてと、効果出すよ。

諦めさせます、勝つために。なんちゃって。


「♪能天気STYLE」


この一言でどんな歌かわかる人っているかね。


効果は絶大。立体音響から発せられた歌が敵に届き、次々に歩みが止まる。力と気力を失わせ、もうどうでもいいよ、と思わせる。それがこの歌の基本解釈としての効果。

さて、次はこっちの軍もどきだ。

下を見やると、ウチのチームメンバーを筆頭に、兵士だの冒険者だのがちぐはぐながらも防衛線を張っている。ウチの歌で敵が止まったのを見て、驚いたりしてるのも見える。

でも、誰も相手に突っ込んでいかない。突っ込んでもらわないと、敵を脅かして降参させることができないのに。

まったく、もう一曲入れるか。

伴奏石から鳴り出す曲が、もっと重みを増す。

さぁ、反逆の時は来た。

対峙しますは、魔族の王なり!


「♪何度殴って殺気立って 君の正義はなんなのって…」


強い力に反逆の旗を翻す歌。全ては魔王に抵抗するために。

なんともシンプルなソリューション。あとはこの歌が魔王軍に届いて、魔王に不満を持ち始める魔物が出て来て仲間割れ、とかあったら嬉しいんだけど。

防衛線が活気付く。と、城下町の中からも冒険者たちが流れ出る。どうやらウチの歌に触発されて、戦う気が起きたようだ。

でも戦う気が起きても、向こうがどれだけやる気がなくても、正直この数だと無理がある。

この防衛線の防衛戦、この一曲で仕上げ入れますか。

ウチの考えられる、最大強化魔法に匹敵する歌。

タイトルで察せ。


「♪心ゆくまでgo ahead 限界はない 終わりなくtry again and again you gonna fight ありとあらゆる術で ah…… 目の前を邪魔するすべてをまとめてロックオン!」


見てるだけの人らはいらないんだよね!

下で戦う人たち全員を、赤い光が覆う。オーラ的なやつ。

戦う人一人が千人分の働きをしてくれると信じてる。

さて、どうなるか。ウチは下で繰り広げられる戦いの魔法と刃のきらめきを目に、ただ願うことしかできない。


結果から言います、勝ちました。

ボロボロになりながら、ウチたちはリスメイを守りきることができたんです。

……え、ウチ? ウチは初動で疲れてました。でも普通の人じゃ不可能な強化や弱体化をこなしたから大丈夫だと思いたい。あと、空からの魔物を歌で吹き飛ばしてました。十分戦った方だよウチも。

「殲滅完了!」と下から知らない男の人の声、そして大きな歓声がする。追い返すどころか殲滅させちゃったかぁ。ホッとしたウチはその場でへたりと座り込んでしまう。あの歌はちょっと禁止かな、効果が高すぎる。と、城壁の上に走り寄る人たちが。五人ってことは、仲間かな?

「お疲れ! マリちゃんもすごかったよ。」サビナが赤い光をまとわせながら座り込んだウチの肩に手を乗せる。

「これで王様も神樹の場所を教えてくれるかな?」


なんて言いかけたら、手が消えた。


サビナがウチの撃ち漏らしたガーゴイルに攫われたんだ。


「……まじかよ」

ねぇ、こんなことってある?

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