第3話

 十二月になり、僕は再び社内塾に行く事になった。次は応用コースだ。この日は三人で受講予定だったのだが、一人が業務上の都合で延期になり、もう一人が体調不良で早退した。午後は生徒が僕一人だった。


 授業が意外に早く終わったので、終了予定時間まで先生とお喋りするモードになった。他に誰もいないので、椎名さんの事について聞いてみた。


「最近、僕と同じ職場の椎名さんという女性がここに遊びに来ているみたいですが」

「うん、来てるよ。受講した生徒が遊びに来るのは嬉しいね」

 先生は、椎名さんについて自分の分析を語り始めた。ちょっとマイペースだけれど頭の回転は早い、しかし早すぎて頭の中で情報の整理が追い付いていないと云った。

 彼女がここに受講に来た時、考え方は合っているのだけれど、あと少しの所で違う公式を選んでしまう事があるらしい。そしてそれは毎回、正解の公式の隣を選んでしまうらしい。

 それはちょっと理解出来た。椎名さんと一緒に仕事をしていると、手際は良いのだがやり方が少々独特な時がある。


「しかし椎名さんは、色気がないよね。折角顔立ちは結構可愛いのに」などと褒めているのかそうでないのかよく解らない評価だった。

 しかし椎名さんは、そんなに先生の事を気にしている風でも無かった印象を受けたが。先生は今、椎名さんを女性として評価した発言だった。男ってのはやっぱり似たようなものなのだろうか。ちょっと親近感が沸いた。


 そうこうしている内に先生の自慢話が始まった。

 この先生と話しているといつもこのパターンだ。最初は誰かの分析から始まり、最後には自分の経歴自慢を始める。

 最初は面白いと思って聞いていたけれど、何度も受講しに来ている僕は、殆どの経歴を聞いてしまった。まぁ少しは盛って話しているだろう。


 先生曰く、この会社に来る前は本社勤務だったのだが上司のひがみが物凄かったらしい。休日に街中を歩いていた時、たまたま隣を歩いていた知り合いでも何でもない女性が上司のお気に入りのホステスで、月曜日に出社したら根も葉もない女遊びの噂が飛び交っていたとか。

 正直何処までが本当か解らないので、三割位で聞いておく。


「こないだも生徒に、土曜の夜に女性と歩いてたでしょって云われてさ。もし本社にいてそんな所見られてたら又もめてたよ~」等とも云っている。

 その女性は多分、ホステスだろう。早く終了時間になれと、心の中で祈った。


                 ○


 先日の受講どうだった? と椎名さんが話しかけてきた。

 受講の内容と、先生が言っていた自慢話を少し話した。

 椎名さんは先生の所へよく遊びに行っているから、こういう話題には興味があると思っていた。しかし彼女の反応は予想に反していた。

「あの先生、よくまぁあそこまで話大きく出来るよね」と、中々冷えた表情で云った。

 椎名さん曰く、先生の話は上司の悪口及び愚痴、自分がどれだけ女絡みで揉めているか、この辺を大げさに話すという。

 確かに、云われてみるとそういう話題ばかり聞かされている。

 しかし椎名さんには驚いた。先生の事をそんな風に思っていたなんて。そんな事、おくびにも出さないで塾に遊びに行っていたのか。

 女の人ってこんな感じなのだろうか。僕も陰でどう云われているか分からないな。

                 ○

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