第46話 これも旦那様のお陰です

 その三日後、再びタンヂが島にやってきた。


 理由は、ヘレンが再決闘を申し込んだからだ。


「わ、我が妻よ、何故わざわざ不名誉なる再戦など選ぶのか」


 そんなタンヂの言葉に、ヘレンは力強く目に闘志を燃やして答える。


「……不名誉だからでない。名誉を貴ぶからこそ、再戦するの」


「??? どういう意味だ?」


「……分からなくて結構よ」


 そう言うと、再び海上の決闘場へと向かう。


 そこには、三日前に彼女の心を砕いた張本人が居る。


「まーた戦うんですかぁ? 今回も結果は変わらないでしょうけど」


「……そうね、私が前のままだったらそうかもしれないわ」


「はぁ?」


「……分からなくて結構」


 そして、二人の決闘は再び始まる。


「ダ、ダーリン本当に大丈夫なのかなぁ?」


「アリスさんの言う通り、私も少し心配ですけれど……」


 負けた時の実力差を見てるからこその不安。


 だが、俺は何故だかそうしたものはなかった。


「まぁ、何とかなるんじゃない?」


 そう答えて、ヘレンとヴィクトリアを見守る。


 今回仕掛けたのは、またもヴィクトリアの方だ。


 アックスを持ったまま、そのまま柄の先を突き出し、ヘレンの喉元目掛けて飛びつく。


「……おぉっ!?」


 俺は目を見張る。


 それに対して、ヘレンは素手で受け止めたからだ。


「……前に言ったでしょ? あなたは突っ込み過ぎる癖がある……って!!」


 ヴィクトリアのアックスを素手で退けると、そのままアックスを構える。


「な、な、何よぉ。急に威勢づいちゃって」


「……こっちはもう負ける気は無いわ」


 ヘレンはそう言うと、アックスを振り下ろす。


 しかも、それなりの振りの筈なのだが、まるで鞭を扱うようにしなやか。


 今回はヴィクトリアの方が技量で負けてる。


 動きがかつて最初に見た時のヘレンだ。


 まるで前の決闘の時とは違う。


――ガキィンッ!!


 鈍い金属音が響いた後、ヘレンが一方的に抑え込む形となる。


「う、ううう」


「……どうしたの? 減らず口が聞こえないけど?」

 

 その言葉と同時に、ヘレンはアックスを弾き飛ばした。


「……勝負あり、ね」


「…………参りました」


 ヴィクトリアはあっさりと降参した。


 再決闘の結果はヘレンの勝ち。


 漁場を取り戻したのだ。


 それを理解し、歓喜するアリス、メルナ。


「やったやった!! うちの島の漁場が戻ったっ!!」


「やりましたねえ、アリスさん! すごいヘレンさん!」


「グルルルル♪」


 そして、何故かアレックスも喜ぶ。


 が、話はまだ終わってないようだ。


 砂浜に二人が戻ってくると、ヴィクトリアはボロボロ涙を零して泣き出す。


「な、なんでよお。何で先輩に負けるのよぉ……」


「……」


「わ、私だって精一杯やってきたのに、何でこんなあっさり負けなきゃいけないのよぉ」


 ……気持ちは分からんでもない。


 ようやく勝てたと思った相手に、再び完膚なきまでに打ちのめされたからだろう。


 それを見て、ヘレンは一言ポツリと述べる。


「……聖戦士は、島を代表する強さだけでなく、島の皆の為に生きる者よ。……強さに必要なのは力や技だけでない」


 先輩の言葉に、ヴィクトリアは悔しそうに顔を上げる。


「こ、今度は必ず勝ちます、から」


「……いつでも相手するわ。……十分、あなたは強くなったわよ」


「じゃ、じゃあ何が足りないんですか!?」


「……心、かしらね」


「心……」


「……私には守るべきものがあるから」


 そう言うと、ヘレンは俺の方へとやってくる。


「お疲れさん。凄いな、まさか勝つとは」


「……そうですね、これも旦那様のお陰です」


「どうして?」


 そう言うと、僅かな間を置いてから頬に軽くキスされる。


「え? え?」


「……見てくれる人がいるから、です」


 ニコリと微笑むヘレン。


 が、瞬間怒号のような非難がアリスから出る。


「ちょ、ちょっとちょっとちょっとぉっ!! 何でそんなことしてんのよぉ!!」


「……別に、夫婦だから可笑しくないのでは?」


「まぁまぁお二人とも喧嘩はやめて下さいよぉ」


 宥めに入るヘレン。


 他所では悔し涙を流しつつ、再戦を誓うヴィクトリア。


 今の光景を見て泡を吹き、侍従に担がれるタンヂ。


 そして、俺は……。


 ちょっと嬉しかった。


※作者のプライベートの都合により以降は不定期更新(週2回、もしくは3回更新)となります。引き続き俺の島を宜しくお願い致します。

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