第36話 メルナもお前らも兄妹みたいな感覚だから

 翌朝、俺は陽光とアレックスのベロ攻撃により目が覚める。


「グルッ!」


「ん、んあぁ? 朝か? すまん、餌の時間だなぁ」


 そう言って起き上がるが、めっちゃ下半身が重い。


「なんだ……、ってえええええええええええ」


 何故か俺の両足にまとわりついたまま、こと切れた三人娘。


 アリスにはデカデカと大きな瘤。ヘレンは下着一丁。しかも何か酸っぱい異臭がする。なんだこいつら?


 俺は急いで二人に藁を被せて、体を隠す。


「……ふぅ、これで問題ないな」


「グル!」


「え? 昨日こいつらが喧嘩しながら急にやってきたって?」


 どうやら、アレックスが言うには二人が争いながらこっちに来たのだという。わざわざジェスチャーして説明するから、分かりやすい。


 ……でも、どういう状況だよ、それ。


「グルルル!! グルッ!」


「んで、この目の前でバトルして煩かったから、呑み込んで気絶させたって?」


「グルッ♪」


「偉いなぁお前は……主人の安眠の為に」


「グルルッ♪」


 俺はアレックスの頬を撫でる。


 とりあえず、昼食はこいつの好きなトマトとカジキにしてやろう。ちゃんとカジキを釣ってこないとな。


 昼過ぎ。


 俺が釣りを終え、海岸の見回りを終えて帰ろうとすると、何やら農具小屋の裏でアリスとヘレンが座り込んで話している。


 こちらには気づいていないが。


「このままでは私達の危機ってのが分かってる?」


「……うむ」


「私もあなたも、このままじゃメルナに追い落とされるわ」


「……た、確かに」


「だからね、この増改築の理由は明白っ! 私やヘレンを遠ざける為! 今のダーリンはメルナによって精神が支配されているのよっ!」


 どういう理論だ、それ。


「……そ、そうなのか? 私は普通によく細かい所にも神経が行き届く、よい子だと思っていたが?」


 うん、俺もそう思うぞ。


 ……いや、夜は二人と同じで迷惑だけど。


「……世の中の貴族には、ああいった幼い未熟な体形の女性を好む人もいると聞く。旦那様もそうかもしれない」


「確かにそうかもしれないわ。でもね、ヘレンっ! きっとそれは間違ってるのよ」


「……間違ってるとは?」


「あの子、プルサから来た子でしょ? プルサと言えば、あのシラヌイ様を神託を得る為に通ったっていう呪術魔法を使う一族よ。つまりは……」


「……なるほど、呪術を使い旦那様を惑わしていると。だから旦那様はあんなに彼女を受け入れれるのか」


 理論が飛躍し過ぎてて、脳がついてけない。


「そういことよっ! あの眼帯はきっとその力を封じてる証拠だわっ! 多分っ!」


「……そういうことなら、多分、そうね」


 推測でそうやって物事が進むんだなぁ。


 怖いね。


「あのさぁ」


 そう思わず声を掛けると、二人は肩をビクッとさせてから振り返る。


「いや、議論して頂いて申し訳ないんだけど、別に俺は誰とも結婚したつもりもないし、メルナもお前らも兄妹みたいな感覚だから。正直そういう気分には、ならんのだよな。」


 が、その一言が余計だったか。


「ダ、ダーリン……」


「ん?」


「つまりはぁっ!! 同じ妹でも私達みたいなデカい妹よりあの小さな妹の方が好きなのねっ!! やっぱり精神が支配されてる!!

平等の愛がないっ!! 」


「……あああああっ!! なんてことっ!! 同じ妹でも幼い子、末っ子の方が可愛がられるという悲劇っ!!」


 口を開き、白くなる二人。


「いや、そうじゃねえから」


 そこから、暫しの井戸端議論説得大会を始めた。


 こんな事で、俺は弁解と平穏を保つ為に一日は殆ど終わった。


 夜、夕飯を終えた頃にソファーで寛いでいると、メルナから茶を貰う。


「どうぞ」


「お、ありがとう」


 すると、他の二人も即座に現れる。


「ダーリン!! 茶受けっ!!」


「……旦那様っ! おしぼり!!」


 ……鬱陶しい。


 そんな二人を除けて、気になっていたことを口にする。


「そういや、メルナさ」


「なんでしょう?」


「その眼帯で隠してる目、前に見た時に猫みたいな目だったけど、どうして隠すの?」


「……それは、その。この目だと、人から凄い怖がられると思っていたので……」


「まぁ、そりゃ驚くかもしれないけど」


 確かに、片方は人間と変わらぬ瞳なのに、片方はプルサ族の特徴的な目。


 と、なると、確かに彼女がプルサのハーフであるのは納得できる。


「それと、この目を隠すには一応ある理由がありまして」


「どんな?」


「亡くなった母が言うには、人から狙われるから、というのが理由みたいです」


「……?? どういう事だ?」


「何でもプルサ族はシラヌイ様の神官。その目には、シラヌイ様が作った祭壇を動かす力があるらしいのです。かつては帝国各地にそれがあったようで、その鍵にプルサ族の目が必要となる、とのことで。それで帝国の崩壊後、プルサ族は各地の国王に貴族や魔法使いから誘拐されたらしく、加えて私達の目は眼病の薬にもなるからと……。気が付けば私達の村だけになっていたのだと聞いております」


「……ひでえ話だなぁ。たかが祭壇を使うってだけや薬になるからって、目を使うからって殺してたってことか?」


 そう答えると、そうではないという事だ。


「いえ、祭壇については、そこへある水晶にこの目をかざすと、祭壇が機能するらしいのです。それも、祭壇はそれぞれ各地によって機能が違うらしくて、今もその祭壇を探す冒険・探検家が居ると聞くくらいですから。財宝を隠した祭壇だとか、不老不死の薬の作り方を記した本を隠した祭壇とか」


 銀行の貸金庫か何か?


 でも、そんな祭壇とするなら、それって網膜での生体認証みたいなものだろうか?


 うん、イメージとしてはそんなものだろう。


「なるほどなぁ。それで、眼帯で」


「プルサ族の村を去って暮らす人は、基本的に顔を隠す為に面を付けて暮らします。……だから、外に出たとしても人里離れて暮らすらしいですけどね。私の場合は、片目だけがこうなのので眼帯をしているのです」


 なるほど、合点が行った。


 それで仮面を付けて云々、という掟があるのだろう。


「だから、普通の人にはただ目が悪いだけでこうしている、と思われるみたいですので、随分助かっていますね」


 色々と、人には苦労があるもんだ。


※続きは9/1の12時に投稿予定です。

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