第10話 これくらいの騒がしさが丁度いい

 アレックスの背中に乗って、こいつをトラクター代わりに耕耘する。


 手製のプラウを曳かせて、ジャガイモ用の畝を作っていく。


「グルルル♪」


 すごい機嫌が良いアレックス。確かに良い運動だよな。


 ここ最近、アリスの夜這いが酷いので、俺はアレックスを枕に寝ている。


 そっちのがアレックスも暴れないで済む。

 が、最大の問題にぶち当たった。


「そうだ、小麦だ」


 肝心な事を忘れていた。


 フィッシュアンドチップスの、フィッシュ。


 あれ唐揚げじゃん。衣いるじゃん。


「と、なると小麦をつくりゃなあかんわな」


 それとジャガイモを収穫した後の貯蔵だ。


 冷蔵庫なんてないな、どうするかね?


 指南書で貯蔵法について調べてみると、氷室などの昔の貯蔵法が出てくる。あとは蔵だ。


「おーこれよさそうじゃん」


 それとジャガイモも調べてみると、色々と栽培の知恵があるらしい。


「へー、冬場はライ麦とかソルゴーを植えて、それで連作障害対策するのか」


 ジャガイモは植え続けると連作障害が出るらしい。つまり取れなくなる。


 そのために、そうした作物を植えて、土を良くするのだとか。


「農業って奥が深いな」


 ライ麦とかなら冬場の作物収穫にもなるし、ちょうどいいかもな。


 あとは小麦栽培か。小麦はどうやら耕起したところに麦の種子を播種すればいいらしい。


 じゃあ、種でも頼むか。


 とりあえずこの農林10号とかにしておこう。


 倒れにくいらしいし、何か良さそう。緑の革命の立役者とか書いてあるし、きっといいやつだ。


 こうして小麦、ジャガイモはとりあえず用意できた。

 すると、アレックスとアリスがまた喧嘩してる。


「なによー! 私が何したっていうのよ!?」


「グルルル!!」


 二人はかなり仲が悪い。


 というか、別の島民にはアレックスも大人しいのだが、アリスだけは特別枠扱いのようだ。


 いつもどうでもいいことで喧嘩してる。


「それ私が食べようと思っていた魚なの! 返してよ!」


「グギャアアア!!」


 アリスって正直動物と知能変わらないんじゃないか……?


 そして、灌漑用の用水路も作る事にした。

 湧き水はあるのだから、それを貯める溜池。

 

 ついでに小麦を作るなら、製粉用の水車でも作ろう。


 あとは直ぐに食べられる野菜として、はつか大根を植える。

 それにバジルとか、ネギとか。


 これらを島民に食べてもらって、各家庭でも作って貰うようにしよう。


 指南書を見れば、プランターでも栽培可能とある。


「なら、石でプランター作ってそれで栽培すりゃいいな」


 こうして農業の道筋は立ってきた。


 そうした結果、一週間もしないで、あの鬱蒼とした島の山々も、次第に農業地帯に代わってきた。


「台風や高潮に備えて、岩壁にある家をこっちの畑の近くに移動させましょう。ついでに、皆とも作ってみましょう」


 俺の提案に、酋長はできるのだろうか、という不安そうな顔はしていた。

 無論、やれることを見せねばならない。


 当然木材が必要となるが、これはきちんと考えて切らねばならない。


 指南書で林業について見てみても、住宅用木材は伐採しすぎると土砂崩れや作土の流出で、農業の持続性が失われるとある。


 なので、森林の造成も兼ねて、間伐材を中心として、集合住宅を作ることにした。


 間伐材とは、森林の一本一本の木の要らない木や枝のことだ。


 ヤシでも茂りすぎてては、健全な成育ができないので、若木や増え過ぎたヤシは減らして、残りは油とかの為に残す。


 ついでに、捨てる家をそのまま破壊するのでなく、その家の木材も痛んでないなら再活用することにした。


 彦根城の天守閣も、佐和山城の天守を使ったリサイクル天守閣だという。


 まぁ、これも指南書で見た事だけどな。


「ダーリンすごいね! ほんと何でもできちゃう!」


 家の内装を手伝いながら、アリスは喜んでくれる。


「まぁ、なんかこっちの方が暮らしやすいだろうな、って思ったからだよ」


 俺は漆喰用の石灰岩を砕いて、手製の臼の中に放り込む。

 幸いここは島だ。


 かつてサンゴがあったのか、石灰岩なら結構ある。


 それを使って、家の周りを漆喰で塗り固める。

 防臭性もあり、湿度も調整してくれる。


 蔵で長期保存できるのは、これのお陰とも聞く。


 なので、ジャガイモとか小麦の保存用として、蔵も作る。

 あと、余裕が出来たら水田もこっちで作るか。


 そしてアレックスに乗って、家路に着く。


「お、できてるかな?」


 家に戻って、作っておいたヤシ酒を飲んでみる。

 グビリ。


「おっ! 結構いい味!」


 もう一口、グビリ。


「はぁー。仕事終わりに一杯って格別だな」

 

 さすが技術指南書。

 なんでもすぐに出来る物を教えてくれるから最高だ。


「だからさぁ! これ私のジャガイモだって言ってるじゃん!」


「グルルル!!」


 あいつら……。いい加減仲良くしてくれよ……。


 そう思いつつ、ヤシの実を割って、中のナタデココを薄く切る。


「あー、確かに触感がイカ刺しだ」


 味がしないイカの刺身だ。あとは醤油があれば完璧だな。


「となると、大豆も作って、塩も作るか」


 色々と食事のラインナップは増やしたい。


 大豆なら植えてあった筈だし、収穫になったら醤油を一瓶くらいは作ってみよう。


 俺の島なら、幸い粘土だってあるから壺も作れる。


 外をふと見ると、ジャガイモ一つで争うアリスとペット。


「……ま、一人だと寂しいしこれくらいでちょうどいいかもな」


 何となく俺も笑ってしまう。そうだな、これくらいの騒がしさが丁度いいだろう。


 因みに、夜ベッドに入ってきたアリスはアレックスに食わせた。


 ちゃんと消化する前に吐きだすようには伝えた。


 あれから二月くらいして、小麦が出来た。


 暖かいおかげなのか、それとも俺の腕の良さのお陰か。


 少なくとも、島民が興味を持って作った小麦畑は上手くできずに枯れてしまったのを見ると、どうやら俺が作るときちんとできるらしい。


「はえー、やっぱりすげえなお前」


 その農業に失敗したおっちゃんに褒めて貰う。


 そんな中、俺は水車を使った製粉を始めた。

 作った水車を動力にして、加工した石臼で小麦を挽く。


 あとは、そこから生まれた「ふすま粉」を、シュロで作った桶を使い、ふるいにかける。


 すると、小麦粉の出来上がりだ。


「おぉ……、結構ちゃんとできたな」


 後は島民に釣って貰ってきた新鮮な魚で、白身魚を選ぶ。


 なんか焼いた時にも美味いやつが一番いい。


 結果、焼いた中で一番美味かったが、見た目がグロい「バーラ」という魚を使うことにした。


 因みに島民曰く、バーラは見た目が悪いので全く売り物にならないらしい。


 もったいないな、それ。


 野鳥の産んだ卵を溶いて、小麦粉を入れて衣を作ると、そこに切ったバーラとジャガイモをくぐらせ、熱したヤシ油に入れていく。


――パチパチパチッ……。


「へぇー、ダーリンそれなに?」


「まぁみとけって」


 島民も興味深そうに俺の調理を見ている。


「へぇー、なんだいありゃ?」


「油使う料理なんだって。なんでも『揚げ物』っていうらしいよ」


「そりゃ聞いたことないなぁ」


 まぁ見ててくれ。これが立派なフィッシュアンドチップスになるのだ。


 そして揚がったものに、塩を振りかける。


 出来た!


 白身魚のフライにフライドポテト。

 完璧なまでにフィッシュアンドチップスだ。


 一口食べてみれば、揚げたてので熱いが、あの懐かしい味だ。

「おぉ……こりゃ」


 思わず手がついつい伸びる。


 島民にも食べて貰ったが、評判は上々だ。


「なにこれ!? 初めてこんなの!」


「へえこりゃすごい!」


「どうやって作るの!?」


 思ってた以上に反響がある。

 これで俺の食生活改善計画が更に推進されたな。


「アレックスこれ私のよぉ!」


「ガル、ガルルルル!!」


 フライ一つを争う何かは見えないことにした。


※続きは8/16の21時に投稿予定です。

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