第5話 わりい、こいつ散歩の時間だわ

怪我をしたアリスの世話をすることになった。


彼女は普段から魚中心の生活らしく、ジャガイモ一つだけでとても喜んでくれる。


「す、すごい!」


「そいつはどうも」


 どうやら食べ物は、非常に気に入ってくれたらしい。


「こ、これなんて食べ物!?」


「それはジャガイモ。そちらはトマト」


「へぇーっ!! へぇーっ!!」


 感心した瞬間、そのままパクリ。

 至福の顔をする。


――こいつ、野菜食ったことないんか?


 野菜だけが美味い、とかってわけじゃないだろうけど。


 でも、漁場云々のくだりを聞いてると、魚以外に食い物がない島なのかもしれない。


「ねえ、アリスさぁ?」


「んん?」


「おまえ、普段どんなもの食べてるの?」


「魚とか、海藻とかかな」


 そりゃまた随分海の幸に偏っているな。


「こうした野菜は食わないのか?」


「高くて買えないから無理」


「へ? 買えない?」


「種が高いし、魚なんてどこでも釣れるから、収入が少ないからうちの島は不味しいんだ。うちの島じゃ魚しか取れないしね」


 なるほど、本当に漁場の確保というのは、死活問題らしい。


 聞いてみれば、この世界の国家とは島。

 その島々で、持つ資源が異なる。


 しかし彼女の島は何もなく、漁業でしか生活できないのだそうだ。


 彼女はそう語ると、肩を落とす。


「あぁ……、これで私の島も終わりね……。最後ね、ジエンドだわ」


「まぁまぁ」


 落胆する彼女に、ジャガイモをもう一つ差し出す。


 すると、彼女はハッとする。


「ねえ! これあなたどうやって作ったの?」


「どうって、どういう意味?」


「どこから種を仕入れたかってことよ! こんな美味しい野菜、普通だったら高い種でしょ!」


「んまぁ……、タダでかな?」


「あなた金持ちなの!?」


「んなわけあるか。ここでとりあえず気ままに暮らしてるんだ」


「一体それどういう……」


 と、言いかけた矢先だ。


 彼女は窓から顔を覗かせる、アレックスに驚く。


「な、な、な!? なにあれ!」


 初対面だから当然か。

 そろそろ散歩の時間だったな。


「わりい、こいつ散歩の時間だわ」


 事もなげに言ったつもりだったが、彼女の反応は違った。


「これバルバロスじゃないの! 我が島の守護神がなんでこんなとこに!?」


 名前を始めてしった。


 こいつ巨大ワニじゃなくて、バルバロスって名前らしい。


「グル?」


 アレックスは首を傾げる。


「これ、一応俺のペット」


 俺はアレックスの首を掴み、ピースする。


「ペッ、ペット!? 守護神バルバロスをペットにしてるの!?」


「そうな。正確に言えば倒したら、何か懐いてくれたんだよね」


 何でも、彼女の島の領土はここも含まれるらしいが、その守護神、いわばシンボルがアレックスらしい。


 マジかよ、それ結構ヤバいやつなんじゃないか?


 そう思ってちょっと冷汗が出たが、


「すごい戦士なのね、あなた……」


 と、何故か尊敬のまなざしを向けられる。


「え、なんで?」


「あんたバルバロスを従えるって、この世界が生んだ英雄、シラヌイ様以来だわ!」


「……へぇ」


 正直世界観があまり呑み込めてないから、どう凄いのかサッパリ分からん。


 でも、彼女が言うには、とにかくすごい人だったらしい。


 海上帝国を作った英雄の女戦士だとか。


 そもそも、この世界だと女が戦士を務めるというのも、そのシラヌイ様の影響が強いのだとか。


「なるほどねぇ。まぁでも単純にさぁ、こいつは俺のペットだからなぁ」


「グルル……」


 そういってアレックスの鼻を撫でる。

 機嫌よさげな鼻息。


 最近、こいつの感情が分かるようになった、気がする。


「この美味すぎる野菜といい、バルバロスをペットにするといい、あなた一体何者なの……?」


「ただこの島で生活してる男」


「……何者よ」


 そういいつつ、ジャガイモを食べる。

 こいつ正直かなり大飯食らいだな、というのは今ので分かった。


 一応それでジャガイモ十個目だぞ。


 すると、アリスは家の外に出るなり、アレックスに近づく。


「あぁ、我が島の生みし英雄、シラヌイ様がかつて従えたという、

 伝説の守護神がこうして目の前に」


 そうして手をアレックスの鼻にかけようとした。


「おいおい、止めておいた方がいいと思うけどな」


「でも、見た感じタダのワニって感じだしね」


 軽く笑うアリス。

 忠告も束の間。


――ガブリ


「……あっ」


 知らない人間だからか、アレックスは彼女を、そのまま丸のみしてしまった。


「あのさぁ……。アレックス、ペッしなさい」


「グル?」


「食べ物じゃない! ペッてするの!」


「……グル」


 不満そうにアリスを吐き出す。


 胃液とか魚の骨とかまみれになった、アリスが再び現れた。


 正直とんでもなくくせえ。


「お前、大丈夫か?」


 肩を震わせている。

 大丈夫、ではあるみたいだ。


 すると、しばらくして彼女は怒りだす。


「私はソウファを代表する女戦士アリス・ギリネーよっ!! いきなりこんなの酷いじゃないの!」


 すると、アレックスも敵対的な行動をする、彼女に威嚇するように口を開く。


「グルルルルルッ!!!!」


「なによぉっ! やろうっての!?」


 ヒートアップする二人を見て、


「とりあえず、やめろよぉ」


 と、俺はアレックスの鼻を撫でる。


「一応こいつあんたのとこの守護神なんだろ? だったらそう喧嘩腰になるなって」


「グルル!」


 アレックスも俺の言葉に同調しているようだ。

 尻尾をビュンビュン振ってる。


「ぐぬぬ……。この恥辱どうしてくれよう」


 頭が冷えたのか、しばらくして、彼女は砂浜にしゃがみこんだ。


 はぁ、色々と大変だ。



※続きは8/14の12時に投稿予定です。

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