1章7話 テンプレ? 森の異変

 並んだ受付の人は前回と同じ人である。ここが一番混んでいたのだがそれだけ懇切丁寧に接してくれるのだろう。俺たちの時もそうだったのだから。


 前回の時よりは俺を睨む者は少なくなった気がする。あいつがぶっ飛ばされただけでこうだということは、それなりに名前の通っていた人なのかもしれないな。


「ミカ」

「なんだ?」

「あの人って誰だ?」


 周囲を見渡していた時に一つのポスターが目に入る。アイドルのようにイラストと言葉が書かれており、雷神のデュークと書かれていた。


 イラストとは言ったがその絵もとても美しく。写真に近いものである。動いてもおかしくはないほど精巧で、そのモデルの人もとても美しい。二つが揃ってこその芸術品といった感じに思える。


「あれはAランクのデューク。それ以上は知らないな。リュウ以外の男は興味ないし」

「そ、ありがとう」


 素っ気なく言ったつもりだが心の中では喜び以外の感情がなかった。サラリと惚気のような言葉を口にできるミカがすごいと思う。


「そういえば、なんで俺についてきてくれるんだ?」


 ずっと、と言っても昨日からの付き合いだが疑問に思っていたことだ。人前で聞くことではないな、と思いながらも今なら聞けるかもしれないという気持ちが勝ってしまった。


「うーん、なんでだろう。魂がオレの好みだったからかな。滅多に魂が合う、引き合うって言うべきかな。そんな存在が現れることは少ないから。人ならまだ多いけど天使だと余計に少ないんだよな」


 魂が引かれる、いや惹かれるってことかな。人でいう運命の赤い糸とかのことか。よく分からないな。


 でも、まあ理由もなく好かれていたわけではないのか。


「そっか。嬉しいよ」


 これだけでいいと思う。

 グダグダと気持ちを垂れ流しても惚気になるだけだし、ミカのように平然と言えない。恥ずかしくなるならこれだけ言って後で詳しく言えばいいし。


 現にミカは口角を上げて嬉しそうにしてるからな。本当に多彩な感情だと思うよ。俺のように乏しくないというか、なんというか。


 そしてようやく順番が来た。

 周りからの視線が痛いが何も言ってこないあたり怖いのだろう。でも、まだレベルは10にも届いていないし、全ステータス100程度は雑魚に近いはずなんだけどな。


「どうかしましたか?」

「あっ、すいません。ボーッとしてました」


 非難の目を向けるわけでもなく心配そうに俺を見てくる受付嬢。ミカはなんとなく察しているみたいだ。


「依頼を受けたい。Eランクでレベルの高い討伐依頼はないか?」


 冒険者ギルドは依頼をこなせばこなす程にポイントが貯まりランクが上がっていく。Aまではポイントでなんとかなるんだよな。だからミカも「すぐにAランクにーー」って言っていたわけだし。


 依頼自体は自分のランクの一つ上までだ。ホワイトボードから取ってきてもいいけど、ミカは昨日の素材の量から能力の高さを見せつけている。ついでに俺も見せたから受付に来たわけだけど。


「Dでよければ渡せます。ただしCは少し難しいですね」

「それでいい。さすがに隠したすぎるFランクの依頼を受けて入られないからな」

「それならこちらです。フォレストドックの討伐です」


 テーブルの下から一つの紙を取り出して見せてきた。フォレストドックの討伐依頼は普通ならEランクのはずだ。そう思ってじっくりと紙を見ていた。


 大量発生と言うべきか、多数のフォレストドックが確認されたらしい。群れており上位種であるフォレストウルフもいる可能性があるための処置なのか。


「レベルが高いですね。フォレストウルフが単体でD〜C程の危険性のはずです。そこに雑魚とはいえEランクのフォレストドックが多数いるんですから」


 遠回しにだが「なんでこんなに依頼レベルを低くした」と非難の声をぶつけた。ミカも紙を見るだけで何も言わない。まあ、受けることは決まってるんだけどな。


「……相手側の報酬が払えないということでDとなっています。小さな村の依頼なのでそこまでのお金は払えないのです」


 だから売れ残っていたんだろうな。

 こっちからすれば依頼レベルが高いものを受けたいし、ギルド側からすれば売れ残りの依頼を処分したいのだろう。よく言えば利害の一致だけど、悪く言えば依頼の厄介払いだ。


「これの達成条件はなんですか?」

「えーと、ハジメから南にすぐの村の近くに住むフォレストドックの群れの討伐ですね。依頼報告時に討伐証明を見せてもらうだけでいいです」


 村には行かなくていいってことか。そして確認もしないということ。ちょっと雑じゃないのか。


 仕方ないのか。地球みたく科学が発達していない代わりに魔法が発達されているわけだし。防犯カメラがあるわけではないから魔物の数とかも分かりはしないしな。


 成功報酬は銀貨二十五枚と確かに安い。Dならば銀貨五十枚程が相場だ。アフロディーテから知識を貰っていなければ危険だったかもしれない。


 いや、ミカがいるからそんな状態にはならないか。


「ミカは、受けるんでしょ?」

「お金には困っていないから戦闘技術を高める方が必要だからね。フォレストウルフならまだ倒せるだろうし」


 レベルリセットを食らっているミカだが大天使というのは伊達じゃなく、一レベル上がる事にステータスが跳ね上がっている。簡単に言えば周りがゴブリン程の上昇値の中で、ミカだけドラゴンレベルにバンバン上がっているのだ。


「リュウも強くなるんだろ」

「はいはい、俺は商人なんだけどな」


 やりますよ。だって文句言いたかっただけだし。ずさんなやり方は後々ミスをもたらす。ただそれだけの事だ。


 ミカがカードを渡し依頼を受ける。

 こんなことでスローライフに入れるのだろうか。早くレベルを上げてポイントを手に入れたいものだ。




 ◇◇◇




 依頼の場所は俺たちが一度来たことのある場所だった。街に向かっている際に通った道だ。


 依頼の感じからして割と古い依頼だと思うからフォレストドックの数は増えているだろう。逆に村が消えていないあたり、ギルドより村が頑張っているのかもしれない。


 それに一度通った時にはフォレストドックには遭遇していない。猪やゴブリンがメインだ。


「またゴブリン」


 今も遭遇するのはゴブリンばかりだ。

 見つけ次第殺してはいるがフォレストドックには未だ出会えていない。結構多く倒したのでポイントも貯まってきている。そろそろ何かを買おうか。


「ミカって地図持ち?」

「ごめん、持ってない。レベルリセットの時にスキルもいくらか減ったからその時に消えた」


 地図は探知や敵対意思などを図ることができる上位スキルだ。いくつかのスキルレベルを最大値の10にしなければ獲得できない。


 フォレストドックを探しに来たのにそれには出会えない。ならば探すのを楽にしなければいけないのだ。ミカが持っていないのなら俺が手に入れなければいけないだろう。


 ポイント売買で地図を獲得する。

 レベル1だが隠蔽を持たないであろうフォレストドックには使えるはずだ。駄目ならポイントを使ってレベルを上げてしまえばいい。


 隠蔽はステータスと気配を消すことができる上位スキルだ。これも気配遮断とか色々なものを最大値まで上げなければいけないので、普通の魔物ならば持っているはずがないスキルである。フォレストドックレベルなら持っているわけがない。


 買ってすぐに地図の調整をする。狭く深くを目的としているため二百メートル以内のフォレストドックとした。するといくつもの点が現れる。


 確かに群れているようだ。

 二十〜三十のフォレストドックが一箇所に固まっている。他の場所にはフォレストドックの存在はない。ここら一帯のフォレストドックを何かが統治している、そう考えるのが妥当だろう。


 正解だった。フォレストウルフが八体、フォレストドックの群れにいる。これはC級の依頼でも上位に入るレベルだ。


 俺たちはそこに近づくように向かっていった。だが距離が縮まらない。

 そう、まるで逃げられているようだ。俺たちを察知して逃げているような感じがする。


「ミカ、魔物が逃げるってことあると思うか」

「……いくつかあるとは思う。例えばその魔物たちは先兵であった時とかだな。他にはそうしなければいけない理由がある時だ。どちらにせよ、そうなら相手の中に探知持ちがいるってことだな」


 普通のフォレストウルフが探知やここまでの群れを統治できるとは思わない。二百メートルの範囲にいないだけで深部にいる可能性もある。


 要は調査を怠ったギルドの失態だな。魔物の増えすぎで上位種か変異種が出現したんだと思う。


「ミカ、二十四体のフォレストドックと八体のフォレストウルフ、俺を守りながら倒せるか?」


 男として情けなさすぎる。でもやらなければいけない。俺たちのこれからのためにも。


「できる。フォレストドック程度ならリュウでも倒せるだろ。オレは八体のフォレストウルフをやるから」


 なんてスパルタだ。

 いや、ミカからの信頼だと思うしかないか。


「できると思う。ってか、任せろ。ミカの戦いに乱入させはしないから」


 もう一つのスキルを買っておく。俺の大好きな厨二的なスキルだ。その分、派生もしやすいだろうな。ただし魔眼の力と少し被ってしまうだろうけど。


 スキルレベルを2にするにはポイント2消費する。3にするには4だ。安全策をとるために5まで上げなければいけないから2の累乗ずつで30消費した。ゴブリンを討伐しておいて良かったと思う。前の状態ならポイントがなくて何も買えなかったからな。


 フォレストドック一体の平均ステータスは七十ほどだ。地図と鑑定の連携で見ることができた。


「フォレストウルフの平均ステータスは二百三十、全部疾走持ちだから気をつけて」

「わかった。ありがとう」


 ミカのはにかむ姿を見てから俺たちは走って群れのところまで向かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る