第27-4話 最終決戦4

 黒数珠繋ぎは拡散して、集まり、さらに膨張した。

 今度の見た目はミノムシだ。それも、毛糸を大量に使ッタように、触手でぐるぐる巻きの姿。

 中庭にはもう朝日は届いておらず、くらい影だけが支配していた。

 キシヨが飛ぶためのジェットエンジンがなんとか光を保っていたが、それは夜中の公園で虫を集める行動ににいていた。

 迷宮ギリギリで縦横無尽に舞う。それを触手が一心不乱に追いかけていた。

 キシヨも回避に死力を尽くす。

 急に全身したと思ったら、高速の左回転。きりもみしながら迷宮ギリギリまで上下して、左回転しながら螺旋階段のように空に降下した。

 だが、空に迎えど迎えど黒数珠つなぎ。

 敵兵も降ってきて、それも交わし続けるが。正直、こんなことを長く続けるのは不可能だ。

 たった数秒でも超人的なことがもう一分は続いている。

 マリを抱えていては迎撃もできなかった。ウェディングドレスは大きくはためき、遊覧するにも空気抵抗が大きい。


「ごめんなさい! 私が無茶したから!」

「謝らないでください! 私が絶対守ります!」

 だが、ついに捕まった。ジェットエンジンは大きすぎ、触手が密集した中庭では避けきれなかった。

「くそ! オメガブースト!」

「頑張って!」


 ぼふぅ、と火を噴くが、ジェットエンジンの中に触手が入り込む。火力が衰え始めた。


「オメガブースト!」

 ついには足まで掴まれる。

「オメガブースト!」

 さらには覆われ。

「オメガブースト!」

 そして包まれる。

 キシヨはゆっくりと目を閉じた。


”さあ、僕の力を借りる時だよ”

”そして、極東の国に帰るんだ”

”グレンシアの基地を一撃で沈めた時のように”

”この触手どもを一掃してやろうよ”

”そのためにぼくはぎせいになったんだろうからさ!!”

 最悪な展開さね。

 仕方ないな、ここは僕が出るしかないか。

 それはもしかすると、この物語を最初っから始めないといけない可能性もあるけど。

 キシヨくん、君が傷つくより僕ははるかにいいと思うんだよ。

 どうだい、キシヨ、いや、太一。


「|剣の会議(ソードサミット)|」


 瞬間、キシヨの周辺の闇が解けた。

 ジェットエンジンの光が灯り、周囲が明るく照らされる。

 周りにあった触手を切り開いたのは、十振りの刀だ。

 ジェットエンジンは光ったものの、キシヨとマリを浮かび上がらせるほどの推進力なく、空に広がる黒数珠繋ぎに落ちていくのだった。

「詠嘆のエクレツェア。オン・ステージだ」

 誰かがキシヨの腕を掴むと、さらに速度が増し、それがなんだか心地よくなっていく。

 だが、どれだけ心地よくあったとしても、決してマリだけは手放さなかった。

 無重力にさらわれる気分だ。

 世界が終わる前に、もう一度だけ、景色が見たかった。今、マリとともにどこに落ちているのか、それだけでも知りたかったんのだ。

 だが、開く前に明かりが輝く。それは先ほどいた場所では考えられない。触手に覆われて、ただ薄暗かったのに。

 まるで、触手が全て晴れていくような、そんな景色が。目を開けたらすぐそこに、広がっていた。


「ハルマゲドン!」


 隣には詠嘆のエクレツェア。黒の装飾この上なくうるさい姿で、触手の束に突っ込んでいっていた。

 さらに手をかざしている。それは、ここに来る前、空から落とした月を粉々に吹き飛ばした時と同じ姿。

 やはり人生で最もありえない人物だった。

 手から解き放たれたエネルギーは、触手たちを容赦なく焼き払った。


「まだだ! キシヨこのまま突っ込むぞ!」

「よしき!? 今までどこに?」

「迷宮に突っ込んでた。だがそれより今の戦いだ」

 すると、父親のようによしきはマリの頭を撫で始めた。


「マリちゃんかっこよかったよ。今度、大好きなキシヨに二人で遊園地に連れて行かせるから危険な見栄に合わせたのは勘弁してくれよ」

「大好き!? 別に好きとかじゃ!」

「今回の戦いで最も良い判断だったしな」


 マリが顔を赤くしているのに気づかないまま、キシヨは尋ねる。


「良い判断?」

「そうだ。だいだい、お前は敵にわマリを囲まれたくらいで詰みとか思うなよ。それはいかんぞ」

「だが敵の量があるだろ」

「いいか? 敵の量が百だろうが二百だろうが、この世の中はそのたった20%に対処するだけで80%を解決したことになるってもんだよ」

「そんなこと」

「ちょっと待て、重力を元に戻す」

「だったらなんで俺を引っ張る!」


 すると、よしきはキシヨの腕を浮かんでマリと一緒に黒数珠繋ぎの中に突っ込んだ。そのままウニのような触手群を突き抜けて、上に着地した。ちょうど、地球の真ん中にトンネルを掘ったような感覚だ。

 空には晴天が広がっていて、遠くの方にサカ鬼と龍屋、ハルト、クロカズが小さく見える。

 重力は元に戻ったようだ。

 しかし、そこは触手の上。周囲に敵兵も現れ、瞬く間に囲まれてしまった。


「よしき! 囲まれたぞ」

「よしきさん! 私が囮になるので早く逃げてください!」

「囮にはするけどちょっと待てお前ら。足元を見てみなさいよ」


 よしきがキシヨとマリに足元を指差す。

 見てみると、足元の触手たちは腐って動かなくなっていた。

 そこで、改めて二人によしきがもう一度改めて言う。


「じゃあ、もう一度言うよ。例えだ、周囲が敵にかこまれても、20%をなんとかするだけで、80%が解決する。敵全部のうち足元の20%を腐らせて倒したわけだ。つまり、敵はたったの20%さ」


 キシヨが辺りを見渡す。確かに足元を取られては戦いにならないが、周囲にこれだけの敵がいては袋叩きだろうと考えている。

 よしきが不安そうなその顔をみると、


「何度もいわすな。敵を見渡せるってことは、敵が隙をうかがっているということだ。リスグランツと同じ身体能力なのにな、それはすべて俺に隙がないからだ。攻撃しようにもできない。つまり、周囲の敵の20%を制圧しているわけだ。そこまで来たら言いたきことはわかるな?」


 マリはウンと頷いた。そしてキシヨの裾をキュッと掴む。


「絶対負けないで」

「わかりましたマリ様」


 よしきが突然、北の党の方向を向いて、作戦を告げた。


「初心を忘れるな。リスグランツを宝物庫に叩き込む。それに必要な20%を見つけろ」


 その時、よしきの視線の先で触手が弾け飛んだ。


『その女をヨコセェええええ!』

「ほ〜ら、おいでました」


 最終戦闘が始まる。

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