第26-2話 最終決戦2

 中庭のど真ん中、芝生どころか城まで触手で覆われ始める。ジャラジャラと音を鳴らしながら黒い納豆のようが腐ったみたいに広がっていった。

 リスグランツは黒数珠繋ぎに飲み込まれつつあった。黒い数珠玉の高まりが伸びて縮んで、手足となり見た目は黒い蜘蛛のようになっている。

 それでも飽き足らず12、13、14本と足を生やして、遠くにいた自分の部下達を体の中に取り込み始める。


 ハルトが己の部下達に撤退命令を出して、クロカズはリスグランツの黒い体を暴風で取り囲み始めた。朝日の空が風で荒れて、上昇気流が発生して雲がたちこめ始めた。


「ひゅ〜、俺が抑える。その間に中庭をもう一度崩せ! 迷宮ごと叩き潰す!」

「叩き潰す!? 黒数珠繋ぎのバケモンは『終焉の儀式』じゃないと消せないぞ!」

「ひゅ〜、わかっている。時間稼ぎだ」


 キシヨが問う。

「マルコ! 終焉の儀式ってなんだ!?」

● 多分あれさねぇ。昔、よしきと一緒にこの国に来たことがあったんだけど、その時も終焉の儀式してた。それもこれもよしきがきっかけだったんだけどな。

 まあ、本人に直接説明してもらいましょうか。


 上からよしきがキシヨの隣に着地した。黒い装飾をまとった姿で地面に亀裂を入れる。


「お待たせ、晩御飯作って帰ってきた。薬も飲んだし、絶好調だ」

● キシヨが終焉の儀式について聞きたいそうだ。

「ああ、あれか。確か女の血が必要なやつ」

 よしきの一言でキシヨは終焉の儀式について大体を察した。

「また女を引っ張り出して、この国はいったいなんなんだ! またどうせ生贄とかにするんだろ」

● しかも、生贄は継承者じゃないといけない。一番手直なところでマリかな。

 キシヨはさらに苛立った。歯を食いしばって頭をさげる。リスグランツに臨戦体制をとった。

「もう二度と手出しさせねぇ!」


 さて、そろそろ詠嘆のエクレツェアに作戦を決めてもらいたいんだけどね。

 サカ鬼と龍矢くんもあの様子だし。


「クソドラゴン! 俺にその酒樽よこせ! その代わり俺の血を吸っていいからよ!」

「はぁ!? 血液は1リットルくらい必要なんだぞ!?」

「間に合ってる、ちょうどその酒樽が俺の1リットル分だ」

 龍矢は片方の翼をうまく使ってサカ鬼と合流した。


 よしきが右手を耳に当ててミズノを呼ぶ。

「コーデルはいるか? 俺は戦闘にでる、統率をとってほしい」

——コーデルさん、およびですよ——

『はいはい〜、統率ね。もうとってるよ』

「現状を報告しろ」

『敵は黒数珠繋ぎ、1・3世界のモンスターだよ。1・5世界の人間じゃ勝てるわけないよね。勝てるとしたら、君と僕と鏡くらいだ。僕たちでやっちゃう?』

「それだとマリが女皇帝のままだ。もっといい方法がある」

『それは?』

「あれだ」


 よしきが指差した方向をよしきが見つめる。

 どうやら、スミレが襲われた家系図が収められている宝物庫前だ。

 その塔はユー・ユーが一部切り裂いていて、本堂が外から伺えた。

 アカリが軽い寝巻きを羽織りユー・ユーに連れられて中庭を眺めているのを、キシヨが見つけた。

「生きてたか!!」

「妾を誰と心得ておるのじゃ、たわけが」

 アカリからの返事は聞こえなかったが、元気そうなのがキシヨ胸をなでおろした。母親と国の責任を背負って涙を流していた彼女の思いを考えると、生きていてくれて本当に嬉しかった。

 嬉しさのあまりその場で飛び跳ねる。

「よっし!! よしき、今すぐあのバカやろうを叩きのめそう!!」

「そこじゃない、もっと上だ。お前が飛び出た窓あたり」

 本堂が見えるもっと上には、キシヨがスミレを連れて飛び出た窓があった。

「あの奥に家系図がまだ眠っている。鏡は取り出せなかったようだな。そこで、ミズキに和帝の歴史を調べさせた結果、家系図の取り出し方がわかった」

 よしきがリスグランツを指さして、宝物庫まで線を引く。

「黒数珠繋ぎを、宝物庫に叩きつける。さすがに1・3世界の化け物をぶつければ、家系図の鍵も開くだろう。家系図にスミレの名前を書けば、マリの帝位は破棄されるだずだ。そうなりゃ黒数珠繋ぎも消える」

「ああそうか、それはよかった……え? スミレの名前を書くのか!?」

 それはすなわち、スミレを女皇帝にするということだ。

 さすがにハルトとクロカズも聞き逃せなかった。

「うぜぇ! 正当なあの腹違いの娘を女皇帝にするだと!!」

「ひゅ〜!? エクレツェアの民よ、この国は我々の国だ。余計な手出しはしないでもらおうか!」

「断る、全てエクイアも織り込み済みだ」

「「!?」」


 ハルトとクロカズがよしき達に向かい合った。


『ははは、敵が二人増えたねェ」

 コーデルは現場にいないのをいいことに悠長だ。だが、副リーダーとしての抜かりない性格を備えている。

『ミズノ、よしきとキシヨ、サカ鬼、龍矢のみんなに転送でサポートしてあげて』

——了解——

『ミズキ、君にもやることを頼む』

——私も転送で協力するですぅ〜——

『君は転送が苦手じゃないか。それより大切なことだ』

 コーデルは通信用のワイアレスヘッドホンを頭につけたまま会議室の外へと出て行った。

『いいかい? この和帝の異世界をエクレツェアに接続するんだ。僕たちはそれで強くなる!』

——わたしそれはじめてですぅ!——

『城周辺のエネルギーを計測し続けるんだ! 空間中にエネルギーが飽和した段階で報告してくれ!』


 そろそろ、リスグランツも暴風の壁を破りそうだ。

『ハハハハハハハ! 皇帝の娘をよこせえええ!』

 叫びとともに風の壁を突き破ったリスグランツは、大きな蜘蛛の姿になっていた。

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