第9話

競馬場に来てしばらく経った。

ここの先生はとってもイケメンなおじさんで、お世話してくれる人はすごい腕利き。

おまけに部屋はいつも快適で、毎日充実してる。

先生は問題なさそうだって言ってたみたいだし、毎回ご飯は山盛りだし。

おまけに牧草だって桶に山盛り。

最初はおっかなびっくりだったけど、走ることは育成場でもここでも変わらない。

そう思ったら、いくらか気が楽になった。

朝が早いのはまだ少し慣れないけど、早起きしなきゃいけないみたいだからクセをつけて行こうと思うんだ。


競馬場はとても大きくて、たくさんの馬がいる。

ボクは邪魔にならないように走ってる。

見ただけでわかるぐらいすごい馬がいっぱい周りにいるから、つい脇に寄ってしまう。

もっと自信持って走らなくちゃだよね。


今は能力試験ってやつに合格するのがボクの目標。

この試験に受からないと、レースに出られないんだって。

将来畑をやるためには、試験ぐらいでつまづいてちゃいけないよね。


……というのは、お向かいの先輩が全部教えてくれた。

少し年上に見える先輩はずいぶんと頼もしく見える。

「いやいやいや、ボクなんて全然頼もしくないから!去年だって1つしかレースしてないし!クラスだって最下級だし!」

先輩、大げさに謙遜してる。

「いやいや、先輩ってほどじゃないから!スータでいいから!」

スータ先輩、これからよろしくです!

「だからぁ、先輩つけなくていいから!スータでいいんだから!」

……じゃあ、スータさん。

「……仕方ないなあ」

やっと納得してくれたみたい。

「ボクなんてまだまだ全然強くないし……って、兄さん兄さん!ボクと遊んでくれよ!」

スータさん、お世話してくれるお兄さんを見て必死に呼び止めてる。

ああいうことしてもいいみたい。ボクも今度やろうっと。

「やるなら一緒にやろうよ。ボクだけだと兄さん反応してくれないからさ。ね、オーバーザリミッツくん」

スータさんはボクの名前を呼んでくれる。そういえば育成場にいる間にこんな名前がついたんだっけ。

ミツでいいです。みんなからミツって呼ばれてるんで。

「じゃあミツ、今度は一緒に兄さん呼ぼうね」


「……とにかく、能力試験はそんな難しく考えなくていいんだけどね。ゲートだけ気をつけたらいいよー」

スータさんは試験のアドバイスもくれる。でもゲート苦手なんですよぅ。

狭いとこに入るのはなんだか怖い気がするんですよぅ。

「大丈夫だよー。慣れちゃえばなんでもないからさ。早くゲートに慣れるのが一番だよー」

スータさんは当たり前の事みたいな顔で言うんだ。ボクも慣れるのかなぁ……。

「慣れなきゃレースに出られないからね」

ですよねー……。


部屋には小さな窓がある。

そこから外を見てみた。

窓から見る空もなんだか小さい気がするよ。

そこにいるボクもずいぶんと小さい気がする。

ミツオー兄ちゃんもこの競馬場で走ったことがあるって聞いた。

すごく大きくて強かったんだって。

ボクも兄ちゃんみたいになれるかなあ。


今は小さくても、これから大きくならなくちゃだよね。

まずは能力試験に受からなきゃ。

がんばるからね。

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