第6話

ジパング先輩に言われたこと。

諦めないこと。

先輩は諦めなかったからレースに勝てたって言ってた。

じゃあボクも諦めなければレースに勝てるのかな。

まだレースってものが正直良くわかってないからなあ……。

まだまだ、ボクは勉強が足りてないみたいだよ。


今日の勉強はキャンターで走ること。

だけど、お兄さんは手綱を絞って、速く走らないでって言ってくる。

ボク、知ってるんだよ。

ゆっくりキャンターで走るのが体を作るってこと。

だって、この勉強をしてたら、少し筋肉がついてきたみたいなんだ。

でも、これはきつい勉強なんだよね。

ボクは走るの大好きだし、走れるなら思いっきり走りたいのに、速く走らないでって言われるのはきついんだ。

これなら走らなくてもいいよって、つい思っちゃう。


「君も諦めちゃダメだぞー」

不意にジパング先輩の言葉を思い出す。

うん、諦めちゃダメなんだ。

ゆっくりでもお兄さんの言うこと聞いて走らなくちゃ。

それが勉強なんだもんね。


お兄さんは最後に大きな坂道に連れてきてくれた。

ようやく速く走ってもいいみたい。

よーし、今日は全力で走っちゃおうかな。


え?

全力はダメなの?

まだ早いの?残念。

でもでも、いつかここを全力で走らせてね。

全力で走ったらきっと気持ちいいんだろうなあ。


今日はお姉さんが見慣れないものを持ってきてくれた。

赤くて丸い。お姉さんが口元に差し出してくれるから、きっと食べられるものなのかなと思ってかじってみた。

甘酸っぱくておいしい。こりゃいけるよ。

思わずムシャムシャって食べちゃった。

これも畑で作れるのかな?

これがご飯に入ってたら、みんな喜ぶね。


その後、まぶしいおじさんも同じものを持ってきてくれたんだけど、どう見ても食べかけ。

食べないのも悪いから少しかじったけど、なんだかなぁ。

でも、おじさんは嫌いじゃないんだよ。

おじさんがいるだけで周りの人たちが明るくなるからね。

お兄さんもお姉さんも楽しそうにしてる。

みんなが楽しくなれるなら、それがいい。


でも、ボク、知ってるんだよ。

一番みんながうれしいのは、ボクらが卒業してレースで頑張ること。

ジパング先輩みたいにボクが強くなったら、みんな喜んでくれるかなぁ。

そうなると思って、ボクも勉強頑張ろう。


夜になって、お兄さんが様子を見に来てくれた。

お兄さんは他の人と違って、様子を見るだけでなく遊んでくれる。

今日は部屋の中に来てくれて、いっぱい遊んでくれたんだ。

お兄さんとこうしていると、なんだか楽しいよ。

お姉さんもこうして遊んでくれたらいいんだけどなあ。


今日もご飯がおいしかったし、赤くて丸いものもおいしかったし。

お兄さんとも遊んだし、言うことないね。

後はボクが頑張るだけ。明日も頑張って、早く卒業出来るようにならなくちゃだね。

じゃあ、明日も早いからおやすみなさい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る