第25話 鬼畜!ラプトルのご乱行と悶絶

 やはり最初のクエストらしく、穏やかなフィールドが続く。

 雑魚モンスターさえ出現しない。

 大人しいモンスターが草を食んでいるだけだ。


 だが一面にシダ植物が生えているにも関わらず、ワラビらしいものは一向に見つからなかった。


「あれ? ワラビなんて全然ねぇな」

「そうですねぇ。もうほとんどの場所を回ってしまいましたし」

「次が最後の一つ、か」


 細い道を抜け、残ったフィールドの奥地へと進む。

 すると、ガラリと雰囲気が変わった。


 今までの場所は日の光がしっかり入る明るい森だった。

 しかしここは打って変わって、薄暗く気味の悪い森だ。


 樹木は姿を消し、巨大なゼンマイがズラリと生えて林を形成している。


「うわぁ……ディープ」

「マスター、奥に何か生えてますぅ」

「え、どれどれ」 

 

 巨大ゼンマイの脇に一本、太いアスパラガス状の植物が生えていた。

 俺の住んでいた世界では考えられない、ケタ外れの大きさだ。


 しかし、姿形はワラビそのものである。


「間違いない、ワラビだ!」


 これでクエストクリアだ! 

 そう思った喜びの瞬間、目の端で何かが動いた。

 

 ギュルギュルギュルッ! 


 攻撃的な鳴き声が響く。


「きゃああああ!」


 フィーリアが叫んだ。


「どうした!?」


 彼女の視線の先を追うと、小さくすばしっこいモンスターが走り回っている。


「ラプトル!?」

 

 ラプトルとは肉食恐竜を模したモンスターである。

 身体こそ小さいが、獰猛で攻撃的な厄介者。

 

 いわゆる「雑魚キャラ」である。


 通常のプレイ中なら恐るるに足りないヤツだが、今は勝手が違う。

 生身の人間が対峙して、倒せる相手ではない。


 目的を達成したら一目散に逃げよう、それが最善の策だ。


「フィーリア、とにかく必要な数を採るんだ。すぐここから離れるぞ!」

「えええ、無理ですぅ!」


「大丈夫だ、こいつらの攻撃力は大したことない。防具で数分は防げるはずだ」

「うわ~ん怖いぃ~」


 泣きごとを言いつつも、フィーリアは懸命にワラビを探し回った。

 俺もワラビの姿を追う。


 しかしラプトルは待ってくれない。


 いやらしく間合いを詰め、その鞭のような尻尾を俺に向かって振り上げた。

 

 バシン!


 いつもなら痛くも痒くも無いクソ攻撃の、はずだった。


「いってぇええええええ!」

 

 ゲームを操作するだけなら痛みなど感じない。

 しかし実際に叩かれるとなると話が違う。


 ラプトルの一撃は、強烈だった。


 だがここで俺は慌てたりしない。


 繰り返すが俺は歴戦の元ハンター、ラプトルの動きくらい手に取るようにわかる。二発目を繰り出したラプトルの尻尾を、受け身の要領で見事に避けた。


 ゲームプレイと実際の戦闘は全く別物のはずだが、驚くべきことに、俺は一発で華麗にモンスターの攻撃を回避出来てしまった。


「嘘だろ俺スゲぇじゃん!」


 もしかしてこれって、「転生してみたら異世界最強のおっさんでした!」っていう定番のフラグじゃないのか……!? 


 だったら超最高じゃねえか、俺にもやっと運が巡ってきたぜ!


 そんな己の思わぬ才能に、恍惚となった時だった。

 

 バシン!

 

 もう一発、強烈な一撃がボディに打ち込まれた。

 俺としたことが、背後に迫っていた新たなラプトルに気がつかなかったのだ。


「やりやがったな!」


 ラプトルごときが生意気だ。俺様の鮮やかな片手剣さばきをお見舞いしてやる。崩れた体勢を立て直し、反撃しようと全身に力を込めた。

 

 ガクン。


「……アレ?」

 

 意に反して、俺の体は膝から地に崩れ落ちた。

 そしてそのまま仰向けにぶっ倒れる。


 この一連の流れは、「異世界ハンター」でプレイヤーが瀕死で倒れるモーションにそっくりだった。


 おいおい、ってことは……!


「俺瀕死ぃいいい!?」

 

 たかが雑魚キャラの攻撃二発で瀕死だと!? 

 ありえねぇだろこのクソゲーが!

 

 なんとか身体を起こそう必死でもがくが、全く身体が言うことを聞かない。

 そんな俺に、ラプトルがまたも忍びよる。

 

 ヤバい。このままだとガチで死ぬことになる。

 くそっ、まだ童貞だって卒業してないってのに! 

 婚活なんて不毛なことやらずに、風俗にでも行っときゃ良かった! 

 

 無情なラプトルが尻尾を振り上げる。

 俺は咄嗟に目を閉じた。


「マスター、危ないですっ!」

 

 叫び声と共に、身体の上に重い物体が覆いかぶさった。

 顎に温かい塊がボインと当たる。


 今まで体験にない感触だ。


 最強に柔らかくも弾力があって、パニュパニュと震えている。


 コ、コ・レ・ハ! 


 目を開けた視界いっぱいに飛び込んで来たのは、とろけた巨大な餅のような真っ白オッパイだった。


「やっぱ、乳かぁああああああ!」

 

 フィーリアが俺の身体に覆い被さり、ラプトルの攻撃の盾になっていたのだ。


 俺を庇う彼女の巨大な乳は、防具に収まりきれず溢れだし、とろりんと俺の首元に流れ出す。


 オカン以外のナマ乳など初めてだ、マジで実在したのか!?


 フィーリアは馬乗りの姿勢になって、ひたすらラプトルの攻撃を必死でこらえていた。


 彼女がいなければ、確実に俺は死んでいただろう……。


「ま、マスター、は、早く、あっ、くぅん、逃げてくだっ、さいですっ」

 

 だが無情にも、身代わりとなった健気で無垢な肉体に、二ヤけたラプトルどもは容赦なく尾のムチをイレる。


 その度にフィーリアのドングリアーマーは少しずつ砕け、白い肌が露わになった。


「ひゃ……ま、マスっ……たぁ……あっ……んっ……い、いやぁ……っ」


 あれだけヘタレだったのに、身を呈して庇ってくれた彼女の勇気に、俺は感動した。


 ……いやその、感動してるんだけど……な、なんだコレ。


「マス…ったぁっ、逃げっ……はぅんっ……はっ、早くっ、してくだ……あっ」

 

 フィーリアの様子がだんだんおかしくなる。

 身体が熱を帯びて肌は桃色に紅潮し、痛みに耐える悲鳴が甘く喘いだ。


「ちょ、フィ、フィーリア?」

「あんっくうんっ……あ、ひぁっ……ひにゃ……ああっ……いっ、いん……」

 

 待て待て待て! 

 まさかこういうのが好きなのかっ! 

 

 フィーリアの身体は、モンスターどもに蹂躙される度に、ビクビクッと反応した。そして彼女の身体の繊細な動きは、密着する俺の肉体を刺激する。


「フィーリア、落ち付け!」

 

 しかしその声は届かない。

 ラプトルの鬼畜の所業の惑っている、それもおっさんの上で。


「や、やめろ……」

 

 一本の槍が、瀕死のおっさんの肉体から勝手に蘇生し始めた。

 しかもフィーリアの大切な……その、なんていうか……花の下から。

 

 クソッ……なんでこんな大変な時に起き上がってくんだよっ!


「ああんっ……へ、変なっ……き、ひゃっ……気持になっちゃいますぅう!」

 

 変な気持ってなんだぁああああああ!?!? 


「ふぃ、フィーリアっ……」

 

 こ、このままだと、本当に俺の槍がエルフの花をシェイクスピアしてしまう。 


 俺は清らかな紳士だ。

 そんなことあってはならない!

 

 突き上げる衝動に必死で抗う俺の目に、急降下してくる飛行船が映った。

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