第6話 お腹空きましたぁ!

「あーん、やっと出られましたー!」


 美少女エルフは俺の布団の上にぺたっと座り、ぐ~んと伸びをしている。

 無理にゲームから引っ張ったために、彼女のドングリアーマーは盛大に乱れていた。はだけた服のアチラコチラから、注文通りのダイナマイトが溢れ出る。


 とにかく目のやり場に困って仕方がない。

 まったく、俺がプロの紳士でなければ襲いかかっているところだ。


 だが美少女はそんなことに頓着しないのか、布団の上にちょこんと正座をして、所作良く三つ指をついた。


「マスター、初めまして。ハンターのフィーリアと申しますぅ」

「あ、お、俺も自己紹介すべきか」


 フィーリアに釣られて、男くさい布団の上に一緒に正座する。


「春田光一だ。大和田銀行の行員で、一応、主任をしてる。よろしく」

「まぁ銀行! それは凄いですね!」


 二次元、いや、二.五次元でもこの反応か。

 俺は早くも、このフィーリアとかいうエルフにげんなりし始めた。


「そんな凄いもんじゃねえよ。年収聞いたら、がっかりするぞ」

「まぁ! フィーに聞かせてくださいですぅ!」

「●●●万だ」


 またも正直に言ってしまった。いや、これでいいのだ。

 これで馬鹿にしてくるような女なら、ゲームの世界に叩き返せばいい。


「凄い、マスターお金持ちですぅ!」

「へ?」


 思いもよらない反応だった。


「よ、よく考えろ。●●●万だぞ?」

「え、凄いじゃないですかぁ! フィーの所持金なんて、1000ゴールドでしたよ!」


「1000ゴールド? ……それって初期設定の所持金か」

「はいですぅ! 万も稼いでらっしゃるなんて、さすがマスター!」


 所変われば品変わる。

 フィーリアにとっては、赤グロスの女に鼻で笑われた額でも、大金に聞こえるらしい。


「だけどな、それは貨幣の種類がちが……」

 

 ぎゅるぎゅるるるる……。

 俺が反論しかけた時、大きな音がフィーリアのお腹から鳴り響いた。


「ふ、ふぇーん!」


 フィーリアが顔を赤く染めて泣きだす。


「どうした、腹減ったのか?」

「は、はいですぅ……ふぇーん!」


「泣くほどのことか?」

「こ、こんなハシタナイ音を殿方にお聞かせしてしまうなん…。フィー、お嫁に行けません!」

「お、お嫁って……」

 

 高貴なルックスにこの恥じらい! 

 まったくもって俺の注文通り、完璧だ!


「ふぇーん!」


 俺の感動をよそに、フィーリアは泣き続けている。


「わかったわかった。なんか作ってやるよ、な?」

「え、いいんですかぁ!」


「何か食わせろっていったのは、そっちだろ」

「わーい! ありがとうございます、マスター!」

 

 冷静に考えると、ある日突然ゲームの美少女エルフにぶち当たったなら、普通はもっと混乱するはずだ。

「飯を作る」なんて発想がどうしてすぐ出てきたのか、俺にも理解が出来ない。


 しかし目の前には理想のキャラクター。

 好みの甘い声で懇願されたら、願いを叶えてやらないわけにはいかない。

 

 それに俺の人生で、頼ってくれた異性なんて「オカン」だけだ。

 こんなチャンス滅多にない。もしかしたらこの状況は、俺の禿げあがるほどのストレスが見せた「幻覚」という可能性もある。


 ならば夢から醒めるまで、このシチュエーションに酔ってみるのも一興だろう。俺は笑顔を作り、フィーリアを誘った。


「来いよ、下にキッチンがある。残りもんだけどいいな」

「はいですぅ!」


 フィーリアはニッコリと笑った。

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