第2話面接

「誰だーこんなイタズラしたやつは…全く、先生ちょっと行ってくるからしばらく待っててくれ」

「「「「はーい」」」」


 先生が確認しに向かおうとする。

 皆もイタズラかなにかだと思って笑っているようだ。ま、だろうけどな。こんなこと、小説でもあるまいし、あり得るわけがないだろう。


「ん?な、なんだこれ……開かないぞ」


 ガチャガチャと扉を開けようとする先生。


「せんせい、止めてくださいよ冗談は!」


 男子生徒が先生のもとへ行き、代わりに開けようとする……が、同じ様にガチャガチャと言うだけで扉が開く様子は一向にない。


「俺たち……どうなるんだ……?」


 誰かが、そっと呟いた。

 それは波紋となり、周りの感情を揺さぶっていく。


 結果、阿鼻叫喚。


「お、おい冗談だろ!?」

「さっきの放送、異世界って言ってた!?」

「イヤァァァーッッ!!」

「ふざけんな!!」

「あり得ない……こんなのあり得ない……ブツブツ」

「Здравствуйте!?」


 各々が思い思いに泣き叫ぶ。うるさいやつらだ。ていうか最後の『こんにちは』って意味だろ!?


 俺はおもむろに立ち上がり、何か考え込んでいるユウトのところへ行き、話しかける。


「ユウト、どう思う?」

「あ、あぁ、シュンか」

「本当に転移すると思うか?それとも質の悪い嫌がらせか?俺は正直、前者だと思っている」

「そう…だな」


 ユウトは認めたくないような顔をして言う。

 当たり前だろう、考えてみると簡単だ。さっき先生が入ってきて、その時までは扉は開いていた。しかしすぐにあの放送が始まった。そして今、扉は開かない。


 この教室から放送室までの距離は近くない。たった少しの時間で、大人が開けれない程に扉を閉めて、その上で放送室で息も切らさず喋る。どう考えても一人で出来ることじゃない。


 仮に複数人いたとして、どうなる?この行動の意味も目的も分からないが、学校でこんな規模のことを仕出かしたなら、後日叱られるだけではすまないだろう。やる意味を見出だせない。生徒がやったこととは思えん。


 次に部外者がやった可能性だが、これもあまり可能性としては高くない。朝は先生があいさつ運動とやらで徘徊している上、誰にも見つからず放送室へ行き、こんなことが出来るとは思えない。


「おい、シュン!聞いてるのか!?」

「ん?悪い、考え込んでいた」

「おいおい……見ろ、さっき高橋くんが消えた。さっきの放送で面接に連れていくとか言っていただろ?あれじゃないのか?」

「高橋?誰だそれ」

「もう入学して1年経つんだから覚えてやれよ…」


 悪いな、興味のないことは覚えない主義なんだ。

 しかし、人が消えるか。ますます怪しくなってきたな。周りは完全に正気を失っている。


「た、助けてぇ!!」

「誰か!!いやぁ!!こんなところで!!?イヤァァァ!!!」

「うるせぇ!黙ってろよ!!泣いても仕方ねえだろっ!?」

「じゃああんたがどうにかしてよっ!!?」

「もうやめてよぉぉぉ!!?喧嘩してる場合じゃないでしょ!!!」


 もはや何がなんだか分からなくなっている。このままだとヤバイかもしれないな。


「おい、ユウト…どうす───ユウト?」


 周りをみながらユウトの肩に手を置こうとすると、肩があるだろう場所を手がすり抜ける。

 ふと見てみると、居たはずのユウトがいなくなっている。



 ふむ、なるほどな。ユウトも飛ばされたか。


「ユウトに何かあったら許さないからな…」


 放送のスピーカーを睨み付け、俺はそう呟いた。




 クラスの半分くらいが消えたところで不意に俺のからだが透け始める。どうやら次は俺の出番のようだ。







 意識が戻ってくると、教室にあるような椅子に座っていて、目の前には男の子とも女の子ともとれるような中性的な顔をした子が立っていた。


「やぁ、私はニンフ。君たちで言うところの神さ。よろしくね。あんまり時間がないから聞けることも少ないんだけど、とりあえず君たちには『シュドール国』というところへ行ってもらう。そこでされる『勇者召喚』に君たちは選ばれたわけだ」


 こちらから何か聞ける様子もなく、ニンフと名乗る子は続けていく。

 シュドール国?勇者召喚?なんだそれは?おとぎ話かなにかか?勇者?だれが?ユウトがか?俺はモブのままで良いから、勇者ならユウトに任せてくれ。

 そういえばニンフって言ったらギリシャ神話の妖精だったか?しかしさっきは自分を神と言ってたよな?妖精じゃないのか?


「はいはーい、色んな疑問があるよね、だけど全部答えてる余裕はないからー。じゃあ面接始めるね」


 まるで意味が分からん。説明してほしい。してくれたら100円あげるから、ダメ?


「ダメ」

「心が読めるんだな、ニンフは」

「神だからね!それより面接するよ!」


 ほんとうに時間がないといった感じに続けるニンフ。せっかちだなぁ、全く。


「ずばり!勇者になりたい!?」

「いや別に」


 ポカンとした表情をしてこちらを見るニンフ。え、なに?変なこと言った?


「異世界で無双したい!?」

「いや別に」


「ハーレムを作りたい!?」

「いや別に」


「大金持ちになりたい!?」

「いや別に」


 コイツは何をいってるんだと口をあんぐりさせるニンフさん。いやだって、めんどくさそうじゃん、それ全部。俺はモブとして遠くで見ているだけでいいから。


「『見る』が君の欲しいものなんだね!?」

「え?いや別に……」

「はいもう決めたよ!もう!長い!ハーレムを作りたい!?のところで決まると思ってた!」

「ただの泥沼じゃねえか」


 別に何が欲しい訳じゃないだっつの。出来る限り平和に暮らしたいよ俺は。こんな展開になった時点でそんなのは難しそうだけどな。


「うーん……それにしても、『見る』能力かぁ。今までそんなの与えたことないなぁ」

「なに?俺たち以外にもいるのか?異世界に行くやつが」

「うん。君たちの行く世界では君たちの他に3グループくらい行くよ」

「それは俺たちの学校のやつか?」

「ううん、ランダムだよ。君たちは何千何万の中から選ばれたんだ『運が良い』ね」


 なんだそれ、完全にとばっちりじゃねえか。『運が良い』なんて思うわけがないだろう。『運が悪すぎる』だ。


「まあまあ、じゃ、どうぞ」

「ん?」


 ニンフが俺に向けて手を向け、光り出す。


 ──────瞬間、目に激痛が走る。それは全身に回り、体内を棘の付いた大蛇が這いずるような感覚に陥る。


「がっぁはっ!?な、なんだぁぁあががが!?い、痛いっ!?ふ、ふざけっ……!?あぁああぁ!!?」

「ごめんね、無理矢理、体の中から変化させてるから痛みを伴っちゃうんだ……」

「こ、これそんなレベルじゃっあぁぁぁあががっはぁ!?」


 いたいたいたいたいたいたいたい!?ひぎぃっ!?死んじゃう!?俺死んじゃう!!




 痛みに悶え続けていると、その内痛みは引いていき、目に熱い感触だけが残った。


「あ、完成だね。かなり体をいじくったから暫くは慣れないかもだけど許してね。少し特別製にしてあるから」

「…………ふざ…けん……な」


 俺の意識は、そこで途絶えた。


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