RPG風な異世界物語に夢見ちゃいけません!

ゆ〜ぽん

第1話

 冒険の朝は突然やってきた。


 その朝は本当になんの予定もない平穏な日であった。

 ピンポーン!

 そんな惰眠を貪るにはこれ以上にないチャンスを家のチャイム音により妨害される。

俺、有原昌也ありはらしょうやはせっかくの安眠を邪魔され、怒り眼でベッドから起き上がり玄関を開ける。


「は~い、どなたですか?」


「おぉ、そなたが勇者ショウヤか」


「……はい?」


 扉を開けた先にいたのは、ザ・王様とも呼べる人物だった。

 豪奢な赤マントに金色の冠。

 いかにも王様ですよとアピールするように偉そうに、玉座に踏ん反り返り、顎には長い髭を生やした50代後半ぐらいの爺さん。

 ちなみにその護衛と思わしき、兵隊さんも2、3人セットでついてきている。

うん、ハ●ピーセットもびっくり仰天なおまけっぷりだ。

 ……というより、なんで外にまでいて玉座に座っているのこのおっさん。

 趣味なの? それとも接着剤かなんかでお尻が椅子から離れなくなっちゃったの?

 っか、よくよく考えたらおかしくないかこの状況?


「……すみません、新聞ならお断りです」


 冷静に考えた結果、あのおじさんたちはちょっとコスプレ好きな変わった勧誘業者だと決めつけることで脳内整理を効かした。

 そんなわけで、扉を閉めてレッツ・ニドネ!


「いやいやいや、わたし王様だよ! それをなに平然と無視しようとしているわけ!?」


 そうは問屋が卸さなかった。

 わかったから、話は聞きますから。

 だから、そんなゾンビみたい顔して扉の隙間から俺の腕を掴まないで。

 

「それで、王様はわたくしめになにかご用ですか?」


「ごほん、では改めて」


 わざとらしく咳払いする王様。

 というより、なにこれ?

 なにかのドッキリ?

 それなら今日は惰眠を貪るという大事な予定があるから付き合ってられないんですけど。


「時は満ちた! 勇者よ、いまこそ旅立つ時だぁ!?」


 ドッキリの看板を探す俺に、王様がとんでもないことを宣言する。

 えっ、いや、まじでどういうこと!?


 こうして俺の魔王討伐の旅は始まったのだった。


     ◆


 勘違いしないで欲しい。

 俺は別に前世でトラクターに轢かれて死んだり、神様が誤って落としちゃった落雷によって死亡し、異世界転生を果たした、などというライトノベル主人公が経験した事態には一切遭遇しておらず、また自分が死んだという記憶もない。

 昨日まで高校生をやっていたはずが、朝起きたら家に偉そうな王様が押しかけてきていきなり勇者に抜擢されただけだ。

 うん、充分ライトノベル主人公感溢れているな。


「って冷静に考えている場合かっ!」


 玄関先で話すのもあれということで、俺は現在街の中央にあるお城へと招待され王様のいる部屋まで案内されている。

 どういうわけか家を出た先に待っていた光景は、いつもの住宅街ではなく、タイル式の地面が広がる某大人気RPGゲームドラ●エに登場する城下町そのものだった。

 おまけに行き交う人々までコスプレのような民族着姿の始末。

 大がかりなドッキリのために用意されたセットにしてはえらく気合が入り過ぎている。

 そこまでして一般人の俺を騙す理由が見当たらない。

 そこから導き出される答えは、つまり……。


「これは現実、なのか?」


「勇者様、先ほどから独りでどうしたんですか?」


「あぁ、いえ、なんでもありませんよ! えぇなんでも!」


 うおっ、あっぶねぇ。

 案内役の兵士さんがいたんだったけ。

 すっかり忘れてたぜ。


 ……にしても、兵士さんが装備している槍、模造だよな?

 なんか光具合的に本物の金属のような気がするんだけど。

 と、ちょうどそのタイミングで廊下の影を小さな動物が通る。


「むっ、曲者!」


 俺の前を歩いていた兵士さんが、小動物の気配を察知したのか瞬時に槍を抜いて地面にそれを突き立てる。


「なんだ、ネズミか」


 槍を向けられすっかり怯えてしまったネズミはそくさくとその場を退散する。

 あぁ、これ本物だわ。

 床を貫通している時点で模造でないこと確定ですわ……。


 この世界に対する疑心暗鬼が消えたところで、俺はいよいよ王様の間へと通される。

 そこもまた、某大人気RPGド●クエに登場する玉座の間そのままで、部屋には王様が座る玉座がひとつに、その隣に空いている玉座がもうひとつある。

 ゲームだとお妃様かお姫様が座っているポジションだけど、今日は席を外しているのかな?


「よくぞ参ったショウヤよ。そなたこそ伝説の勇者の血を継ぐ者で間違いない」


 いやいや、ごく普通の高校生ですけど!?

 なにをどう勘違いしたら、俺が勇者ってことになるよ!


「その昔、魔王によりこの地が暗黒に染まる時、どこからともなく現れた勇者が安泰と平和を取り戻してくれたと言い伝えが残っている」


 ほほう、それはまたド定番なRPG設定ですなぁ。


「しかし、この地に再び魔王が蘇りそうな……予感がする」


「予感、なのですか?」


「あぁ」


「蘇っているわけじゃないのですか?」


「街で有名な占い師が先日、そう予言した」


 そんなもん信じるなよ、王様!


「だが、数日前わたしの可愛い可愛い一人娘のシルビアが魔物の群れに連れ去られてしまった」


 そりゃあまた、ド定番な展開。

 だから隣の玉座が空いていたのか。納得、納得。


「これは魔王の復活が近いに違いない!」


 あぁ、そこと結びつけちゃったから予言なんて信じちゃったのかぁ~。


「勇者ショウヤよ、いまこそ旅に出て、わたしの可愛い可愛いシルビアを悪の手から取り戻してくれ」


 おっと、魔王の方はどうでもよくなっちゃったパターンですか?

 というか王様号泣しているし、どんだけ娘溺愛しているんだよ……。


「そこの宝箱に冒険に必要なアイテムを入れておいた。是非持って行って旅に役立ててくれ」


 王様の玉座の前に宝箱が3つ設置されている。

 旅の餞別というやつだろう。

 とりあえず、貰える物は貰っておいた方がいいよな。

 いざとなったら売ればいいし。


『ショウヤは宝箱を開けた。金属の剣を手に入れた!』


『ショウヤは宝箱を開けた。100ギルトを手に入れた!』


『ショウヤは宝箱を開けた。世界破壊爆弾を手に入れた!』


「って、なんですかこれは!」


「わたしの国の研究チームが密かに開発した最終兵器だ。どうしても勝てない魔物があられたときに使ってくれ」


「いやいや、これ使ったらその魔物どころか魔王すら木端微塵じゃないですか! というか俺たち全員死にます!」


 もちろんこんな危険な物持ちながら旅なんてできないので、素直に返却した。

 これだけの技術力があれば、勇者に頼らずともお姫様を救出できるんじゃないかな?


 そんなことを密かに思いつつ、俺は旅に出た。


     ◆


 旅に出たといっても姫様の囚われている場所がどこかわからないのでは広い世界を放浪としてしまうだけとなってしまうため、まずは有名な占い師がいるという村を目指すことにする。

 ちなみにこの情報はお城の兵隊さんから入手したものであり、ご丁寧に村までの地図も貰った。

 もしかして俺ってすごく歓迎されている?

 というか成り行きで冒険スタートしちゃったけど、俺大丈夫なのか?

 いや、ここまできたら迷っていても仕方がない! 

 覚悟を決めて突き進むしかない!


 というわけなので、街から一番近い草原を南へと進んでいく。

 RPG世界そのままのフィールドだが、実際に自分が歩いてみると果てしなく広い。

 緑色の世界が地平の果てまで続いている、そんな感覚だ。


「ゲームだとそろそろ最初に戦う魔物と遭遇する頃だな」


 そんなことを考えていると、不意に近くの茂みが揺れる。

 おっ、これは例の青い魔物さんのご登場かな?

 雑魚だからと油断しないように、俺は剣を構える。

 そして、奴が茂みから飛び出してくる。


『変態が現れた!』


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああっ!?」


 な、なんかパンツを頭に被っただけの全裸男が現れたんですけどぉ!?

 恐怖、ある意味で一生トラウマになるような魔物が現れたよ!


『ショウヤはどうする? ▶【戦う】 【道具】 【作戦】 【逃げる】』


「いや逃げる一択だろ!」


 俺は脱兎のごとく駆けだして、一目散に逃げ出した。

 勇者が逃げるとか何事じゃ、とかいう台詞がよぎったけどあれはまた別だ!


『ショウヤは逃げ出した。しかし変態は興奮しながら追いかけてくる』


「うほっ、うほっ、良い男。掘りたい、犯したい」


「うおおおっ、変態でしかもホモだったぁ!」


 やばい、捕まったら色んな意味で終わる!

 主に俺の純潔や貞操が奪われるといった方面で!


「誰かぁ! 誰でもいいので助けてください! ここに色々な意味でアウトなド変態がいます‼」


 広大な草原を舞台に地獄の鬼ごっこを繰り広げながら、悲痛な叫びをあげる。


「千差万別、縦横無尽。一刀両断、切り裂き卿ジャック・ザ・リッパー!」


 ふわりと影が舞い、俺と変態の間になにかがやんわりと着地する。

 それはまるで天使か妖精かが舞い降りたかのような神秘的な光景で……。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああっ!?」


 次の瞬間には変態から断末魔が聞こえるほどおぞましい光景へと変わった。


『変態をやっつけた! ショウヤは20の経験値と変態の全財産を得た』


「ふぅ……大丈夫?」


 一瞬にして変態を切り裂いた、少女は血に濡れた巨大カッターを振り払い地面に鮮血を落とすとそれを担ぎなおす。


「えっと……君は?」


「えへっ」


 これが運命の出会いになろうとは、このときの俺は想像もしなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る