夢を持つ人

モレオン

第1話

「あっちぃな〜」

部活の帰り道、現在の気温39度、熱中症に気をつけましょう。という電光看板はクーラーの効いた部屋でどこかの大人が書いたものなんだろうなと思った。

「こんな中サッカーなんかしてたらそろそろ死んじまうな」

「今日も意識失いかけたよ」

「アイス買いにいこう」

僕らは県で1、2を争う強豪サッカー部に所属している。その端くれの僕、

山本 律と同じく端くれの橘 優紀は帰り道いつものように自転車でゆらゆら蛇行しながら進む。

「模試どうだった」

優紀は毎回偏差値60は超える。僕はいつも優紀に一歩及ばない。

「偏差値82だったよ」

「くだらねえ、どうせ57ってことだろ」

「まぁ、そんな感じ」

「どこの大学行きたいんだ」

「さあ、名の知れたとこには行きたいかな」

「もう少し夢とか目標みたいなものがあればいいんだけどな」

よく考えてみると夢とか目標とかなんて最近考えてすらなかった。入学当初はサッカーで選手権出てやるとか文武両道だとか夢や目標だらけだったのに中学校の頃の輝きはもうなく、周りも上手いやつだらけで毎日の練習がしんどくて罵倒されたり叱られる事も多く正直あんなに好きだったサッカーをするということが嫌いになりかけている。恐らく優紀も同じ感じだろう。

「夢や目標かー。強いて言うなら斜め前の席の美月ちゃんと付き合うこととかかな」

「美月ちゃんとクラス同じとか羨ましすぎんだろ。あのこ賢いしそろそろ2組にあがってくるかもな」

優紀はうちの学校では医学部進学する1組を除いたら1番賢いクラスだ。全9クラスあるなかで1組から9組まである。僕は3組だ。1組から3組までは国立大学を目指すクラスだ。やはり一歩及ばない。

「まあ明日で夏休みだしな。どうせ夏休み間は俺ら練習サボれるしなにか変わらねえと」

そうだ。待ちに待った夏休み。1組から3組までは補習という名の授業がお盆まで6限まである。だが部活は朝からやっているので僕らの補習が終わってグラウンドに行くともうほとんど誰もいないか練習の終わり際だ。1年の時はきつい練習を終えた先輩たちにイヤミを言われたがあんな暑い中で練習するよりはましだ。

「今年は夏課題くらいちゃんとしようぜ」

「あたりまえだ。課題も出来ない奴に未来はない」

「はいはい、課題テスト勝負な」

「上等」

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