勇者パーティーを追放されたので、物理法則を乱す幸運スキルで神様始めます!

全人類の敵

#001 追放されちゃった!

「いや~、今回はよくぞやってくれた!」


 とある酒場で、爽やかな声が俺たちを包み込む。

 赤髮の美青年、というか俺たちの憧れである勇者ライトさんの声だ。


「ほんとほんと! 君がいなかったら危ないところだったよ!」


 ライトさんに続いて、パーティーの中核を担うソードマスター、アレンが甲高い声でそう一言。


「これでうちらのパーティーは安泰安泰!」


 そして酒を片手に、酒癖の悪いことには定評のあるレオンハートまでもが今回のクエストの結果に満足しているといった具合だ。



 それもそのはず、この酒場に来る数時間前のこと。


 俺が現在所属している最強ギルド『アファリア』は、この街の受付嬢から超難関クエスト任された。

 内容はこの国を脅かす神獣の討伐とのこと。

 そこで勇者ライトさん、その恋人である王女フィリアさん、俺の親友であるアレンとレオンハートの、合わせて五人のパーティーでクエストに挑んだのだ。

 この国の王女と、その花婿である勇者が立ち上げていることで絶大な人気を誇るこのギルドは、入団倍率がかなり高い。

 それゆえに、入団後はかなりの責任を問われるのだが、実力さえあれば何の問題もないのである。


 俺は魔術師だ。


 生まれつき才能のなかった俺は、努力一本だけでここまで這い上がってきた。

 親友である前に幼馴染でもある、アレンとレオンハートが自分より先に高みに上っていく姿を見せつけられ、俺は劣等感を感じていた。


 だが五年前の春、俺は遂にアファリアへの入団を果たしたのだ。


 そして並ならぬ絆を深め、家族同然のように信頼しあっていた俺たちは今日、伝説上の生物である神獣と対峙した。


「ライトは今日も相変わらずかっこよかったです! でも……あなたも素晴らしかったですよ!」


 話は酒場に戻り、ライトさんの恋人であるフィリアさんは、それはそれはもうご満悦の表情でライトさんに抱き着いている。

 いつもはライトさんしか褒めないフィリアさんが、他の人を褒めることなんて今までは無かったことだ。

 俺たちメンバーはその珍しさに、驚きの眼を見開いた。


 そしてメンバーが一斉に口を開き、それぞれが先程の言葉から続ける様にして。


「「「「魔術師さん」」」」


 全員が全員、俺の方に視線を合わせ今日の俺の活躍を褒めたたえる。

 確かに今日の俺は、今まで以上に尽力した。

 高難度の詠唱を唱え間違えて仲間を攻撃したり、回復詠唱を間違えて神獣に唱えたりと……


 ホント、今日は尽力した、つもりなんだけどな……。


「い、いやあ、そこまで言われると照れるというか何というか。も、もしかして皆さん怒ってますか? 確かに今日の俺は気がめいっていたから、本調子じゃなかったけどさ」


 魔術師と言えば俺のことだ。

 今日の俺は足手まといという言葉がピッタリなぐらいには、役立たずだった。


 その理由は――


「はあ? お前誰だよ。つかうちのパーティーにいたかお前」


「まあまあ、フィリアよ落ち着いて。確かにあんな出来損ないは見たことがないけど、それは言いすぎだよ」


 突如として人格が悪女のごとく変貌するフィリアさんと、それを抑えようと必死なライトさん。

 というかライトさん、まったく擁護できてないから! 

 出来損ないって……ひどいから!


 そして俺が、お前らだけは信じているといった眼差しでアレンとレオンハートを見つめていると。


「「カルマ、そこどけや。新人ちゃんの顔が見えねえだろうが」」


 幼少期の昼下がり、三人で腕を組んで盃を交わした時の二人はもう見当たらない。

 どんなことがあってもカルマだけは裏切らないから……と、そう熱い眼差しで叫んできた二人だが、今では俺を邪魔者扱いと。


 悲しい! 悲しいよママ!


 そして。


「皆さん喧嘩はやめてください! 確かに今日のカルマさんは少しアレでしたが、今日はたまたま本調子じゃなかっただけだと思います!」


 実は先程から、俺の後ろでパーティー内に馴染みにくそうにしていた期待の新人マーラがおずおずとした表情で、けれども俺を庇うようにして果敢に叫んだのだ。

 今日のクエスト、何度も言うようだがそれは神獣一頭の討伐だ。

 伝説上の生き物とされている神獣が、ここ最近この国で出現し暴れていたため、街の受付嬢が俺たち最強ギルドに依頼したと。

 だが、俺たちは苦戦と強いられた。

 ライトさんの聖剣は神獣の肉を絶ち切れず、フィリアさんの支援魔法は封じられ、アレンやレオンハートの物理攻撃は意味を為さなかった。

 そこで魔術師である俺が、苦行を強いられている仲間を助けるべく動いたのだが、その時こいつは現れたのだ。


「私……喧嘩は嫌いです」


 そう。

 先程から健気に俺を庇ってくれる、魔術師マーラがだ。


 俺たちのピンチを魔術詠唱一つで救ってくれ、この小柄な少女はヒーローのようにもてはやされた。

 だが俺は、そのせいで気がめいってしまい、普段は決して起こさないような失敗を、最悪なシチュエーションで起こしてしまったのだ。

 まるで自分の居場所が奪われたような喪失感に襲われ、短気な俺はマーラに嫉妬してしまったのだ。


 ――それが、今の俺が受けている現状の理由だ。


 今思えば本当に情けない。


「「やっと出てきてくれた! マーラちゃん!」」


 俺のことなど眼中にない幼馴染二人は、マーラをアファリアの救世主だと言わんばかりに胴上げを始めだした。


 そして。


「なあカルマ」


「は、はい」


 隣で行われる胴上げとは裏腹に、俺の元へと掛けられる冷徹な声。

 俺の憧れであるライトさんの声だ。


「これはパーティーリーダーからの命令だ。もう僕たちに顔を見せるな」


 その一言で、胴上げを行っていた幼馴染二人の腕が止まり、フィリアさんの酒場には似合わない紅茶をすする音がピタリと静止した。


「ラ、ライトさん……冗談はきついですよ。ほ、ほら、俺たちには五年間高めた絆があるじゃないですか! それにアレンとレオンハートに関しては、もう十年以上の付き合いになるし」


 必死にすがりつこうとする俺のもとに。



「「「それがどうした?」」」



 憧れの勇者が、家族同然のように過ごしてきた幼馴染の二人が同時に、辛辣な言葉を口にする。


「もういいんじゃないです? さっさと抜けちゃってくださいよ。ていうか抜けろよこのゴミ。忘却の彼方へと消え失せろ」


 徐々に本性が露になってくるフィリアさんの言葉を最後に、俺は酒場を出ていこうと出口に向かって走り出した。


 五年だぞ?

 汗水流して、時には血を流してやっと辿り着いたこの場所で、最高にかっこよくて小さい頃からの憧れだったライトさんや、同じ土俵に立てて嬉しみ半分ライバルのように競い合ってきたアレンとレオンハート、そしてどんな時でも怪我を癒してくれたフィリアさんと出会って、もう五年が経つんだぞ?

 なんで今日会ったばかりのちんちくりんに、パーティーでの役割が同じというだけで全てを奪われなきゃいけねえんだよ。

 なんでだ?


 なんでなんだよっ……!


 ひょっとして俺はついていないのか? 運が悪かったのか?

 それともただ実力が無かっただけなのか?


「神様がいるのなら教えてくれよ……」


 そうして涙交じりに、木製の古びた扉を開けようとしたとき。


「カルマさん」


 何やら右膝あたりを不自然に触られる感触がしたが、今の俺はそんなことを気にしている場合ではない。

 そして声につられて振り向いたとき、俺の全てを奪った張本人が申し訳なさそうな表情で突っ立っていた。

 まあでも、この子も決して悪気があってやったわけじゃないと思う。

 考えようには、この子は俺たちパーティーメンバーを救ってくれた救世主でもあるからな。


「どうしたんだよ。俺はもうパーティーに戻ったりなんかしないぞ」


 マーラは先程俺を庇ってくれた。

 恐らく自分にも責任を感じて、俺を呼び止めようとしてくれているのだろう。


 優しいじゃないか。



 そして若干の笑みを装ったマーラはそっと口を開き……。


「は? 自意識過剰なんですか? まったく、男ってちょろいですよね。さっさと消えてくださいよ無能魔術師が」


「おいちょっとま……」


 そのまま元パーティーメンバーからの嘲笑をバックに、俺はマーラの蹴りで外へと吹き飛ばされた。

 もう何が何だか分からねえよ。

 これじゃ人間不信もいいとこだ。


 すると、これでもかと俺にとどめよ指すように。



「代わりなんていくらでもいるから」



 俺が最も親愛しガキの頃からの憧れでもあった勇者の不穏な声が酒場の中から聞こえ、しばらく俺の脳裏に突き刺さったままでいた。



 ――こうして俺は、勇者率いる最強ギルド『アファリア』から追放されたのだった。

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