第8話 地下1階 3部屋(その3)

「――さて、以上を踏まえてこのダンジョンの在り方について、長期的、中期的、短期的な戦略及び戦術目標を決めたいと思う」


 そう言っても三人ともピンとこないようだ。


「……おぬしの話は回りくどくてかなわん。何が言いたいのじゃ?」

 フィーナははなから考えるのを放棄しているし、

「つまり防御体制の見直し……ということでしょうか?」

「そーですね。さっきの話を総括すると、よーするにいまのダンジョンだと入口からゴールまで近すぎて、やりたい放題、人海戦術で来られたら堪えきれないってことですものね」

 ヤミとリュジュは、まあ妥当な判断をしているようだが、やはりどうも定石に拘り過ぎて対策が平凡過ぎる感が強い。


「ふむ、ところで皆は『宝島』のモデルになった『ココ島に隠された海賊の財宝』の話は知ってるかな?」

「知らん」

 にべもないフィーナ。

「中米コスタリカの洋上にある孤島を舞台にした有名な伝説ですね。何人もの海賊船の船長が絶海の孤島であるココ島に、現在価値で10億ドルとも見積もられるスペイン統治時代の財宝を埋めたというもので、実際に略奪された財宝のリストや捕まった海賊の証言などもあるかなり信憑性の高い伝説で、現在までに三百人以上のトレジャーハンターと呼ばれる山師が一獲千金を夢見て挑戦していますが、数枚の金貨しか発見していないとか」

 通り一遍の知識を開陳するヤミ。

「山下財宝か徳川埋蔵金みたいなものねー」

 なんでフランスのドラゴンがそんなこと知っているんだ? というニッチな知識につなげてコメントするリュジュ。


「いまヤミが言ったように、三百人以上の金の亡者が周囲七キロほどの小さな島を探索しても、目当ての財宝を見つけていない。その理由はなんだかわかるか?」

「ガセなのじゃろう。胡散臭い話じゃからのぉ」

 どうでもいいとばかり身も蓋もない感想を返すフィーナ。

「……ま、その可能性はある。とは言え財宝が守られている最大の理由は、場所が碌な港もない絶海の孤島であること。そして何より詳細な隠し場所が判明していないこと――この二点にあると俺は思う」


 要するに特定の場所を攻略されないようにするのに一番いいのは、まずは見つからないことなんだよな。そこにあると明確にわかったが最後、人間って奴はどんな手段を使っても攻略する。それは絶対だ。


「えー……でも、隠し通すことは不可能ですよ。ダンジョンが本格オープンするのと同時に、大まかな場所とダンジョンの形態――地下型であるとか塔型であるとか広域範囲型であるとか――及び名称が、世界中のマスターの持つ『Dungeon Manual』へ同時配信されますので、当然ながら教皇庁を裏で牛耳っているダンジョン・マスターも閲覧可能ということで、大抵の場合は〈神託〉とか称して、近くの国や冒険者ギルドに潰すように伝えますので」

 ヤミが浮かない表情でそう付け加える。


「ふーん。……そのダンジョン・マスターは上手い手法を使うな」

 思わずそう口に出すと、

「そーですか? なんか卑怯臭いですけど……」

 リュジュは小首を傾げ、

「妾もその手の輩は好かん。コソコソと隠れて人を手駒に同胞である他のダンジョン・マスターを討つなどと、なんたる卑劣漢であろうか!」

 フィーナも憤然と豊満な胸の前で両手を組んで吐き捨てた。


「――いや、事の善悪はともかく『ダンジョンは誰にも見つからなければ攻略されない』という条件には見事にはまっているからね」

「教皇庁――正確にはその〈聖地〉とされている場所が、件のダンジョン・マスターの本拠地であるダンジョンなのは、他のダンジョン・マスターには周知の事実ですが?」

「けど、そこにあっても人にはダンジョンだとは認識されてないんだろう? そこにあっても〈聖地〉という肩書が人の目をくらまし、仮に敵対的なダンマスが攻撃を仕掛けても、『神敵が恐れ知らずにも我らが聖地に手を出した』で誤魔化せるわけだ。つまり他のダンマスが、自分のダンジョンを攻略されないように、命とポイントを賭けてアタフタしているのを尻目に、そのダンマスは賭けに乗るのではなく、自分が胴元になることで自分だけは安全地帯にいられるわけで、ある意味、理想の環境だね」

 ヤミにそう説明したところで、「さて――」と、話を一区切りつけて変える。

「これを踏まえて考えるべきは、今後の方針だ。いや、旗幟きしと言ってもいい」

「とおっしゃいますと?」とヤミ。

「つまり確実な隠蔽が不可能な現在、我々が取るべき選択肢は三つある」

「三つですか?」

「大まかな方針が三つあるというこで、さらに詳細は幾らでもあるけどね」

「おぬしのことだ。どうせ禄でもない考えなのじゃろう?」

 投げやりにフィーナがひどいことを言う。


「そんなことはないさ。誰が考えてもこのどれかしかない筈だ」

「じゃから、それはなんじゃと聞いておる!」


 苛立たし気なフィーナに対して、指折り数えながら端的に答える俺。

「簡単だよ。『中立』『服従』『敵対』の三つだ」

「ほう……」

 興味がわいたのかフィーナが僅かに上体を前のめりにする。

 ヤミとリュジュは漠然とその意味を理解したようで、お互いに懐疑的な目を見合わせていた。


「えーと、服従というのは、つまり先に教皇庁の傘下に入る……という理解でよろしいのでしょうか?」

「まあそうだね。敵わないんだからいっそ膝を折れってわけだ」

「却下じゃ! おぬし、それでも男かや!? 敵わずとも戦う気概はないのか!!」

 案の定、そういった惰弱な提案は一顧だにせず検討しないフィーナ。

 リュジュの方は微妙に「それでもいいかな~」という、『長いものに巻かれろ』精神で消極的な賛成の表情を浮かべている(フィーナが怖いので口には出さないけれど)。

「わたくしも反対です! ダンジョン・マスターが他のマスターの傘下に収まるというのは、つまりはコア・クリスタルの権限と配下の魔物をすべて相手に譲渡するということで、用済みになったマスターはほぼ間違いなく始末されることでしょう! そのようなことは看過できません!」

 珍しく強い口調で反対するヤミ。


「あの~、そうなると敵対か中立か……しかないんですけど……?」

 恐る恐る手を上げて発言をするリュジュ。


「そのふたつは基本同じものじゃな。妾であれば、味方でない者はすなわち潜在的な敵と同義と見做す。中立なんぞ信用できぬわ」

 傲然と吐き捨てるフィーナだけれど、まあ平和な時代ならともかく、血で血を洗うこの世界ではその考え方が普通だろう。


「いや、あの、でも教皇庁ってすごく大きな組織なんですよね?」

「国土国力としてはこの世界でナンバー2。宗教組織としては断トツで一番ですね」

 リュジュの問い掛けに心温まる答えを返してくれるヤミだった。


「じゃあ、敵いっこないじゃないですか!」

 絶望の表情を浮かべるリュジュに対して、俺はなるべく安心させるべく朗らかな笑みを向けた。

「……胡散臭い笑みじゃのぉ。何をたくらんでおるのやら……」

 なんか失礼なフィーナの独り言を無視して言い聞かせる。

「確かに現時点では吹けば飛ぶような俺たちだけど、今後時間をかければ十分に対抗策を練ったり、教皇庁に敵対する勢力と協力関係を結ぶこともできる筈だ。まずは時間との勝負だな」

「はあ……」

「なるほど」

「同盟か。確かにそこに可能性を賭けるしかないじゃろうな」


 三者三様で納得した風の三人を眺めながら、

(『時間との勝負』ってのを、時間を稼ぐこと……って理解しているみたいだけど、もう一点、突破口があるんだよねえ)

 と胸中で付け加える俺。

(現在のアドバンテージは、その教皇庁を陰で操るダンジョン・マスターに俺とこのダンジョンの存在が一切知られていないってところにある。つまり無警戒のノーマーク状態のいまのうちに、速攻で教皇庁を潰せば懸案事項がなくなるってことなんだよなあ)

 とは言え、いま現在の彼我の戦力差と相手の詳細もわかっていない状態では、まったくの無謀、画餅もいいところであるので口には出さない。


「――ということで、次善の策として『なるべく人が近づけられない、僻地へダンジョンを造る』ことを目標にしたいと思う」

「ですが、ダンジョンは基本的に最初にランダムで決められた位置から移動はできませんが?」

 困ったようにダンジョンの原則を繰り返すヤミ。


「うん。だから地形の方を僻地に変える」

「……は?」

「ここ十日ほど、召喚した《風の小精霊シルフィード》たちの協力を得て、『迷宮創作』のスキルと併用して周囲の地図を作製していたんだけれど――」


 言いつつ準備しておいた大きめの紙に、大まかな地図を描いたものをテーブルへ広げて見せる。


「こういう風に、この森は二つの川に挟まれた場所に位置しているのが判明した。で、この近辺の地形を操作して――具体的には森の地盤を沈下させ――川の流れを変えれば、二つの川が合流してこの森をすっぽり覆う湖ができると予想している。計算ではだいたい700km²くらい……琵琶湖くらいの大きさかな?」

「「「はああああああああああっ!?!」」」


 これまた準備していたマーカーで、ぐるりと森を囲んでなお二回りは大きな丸を付け加える。


「幸いこれから雨期になって川が氾濫してもおかしくはない。勿論、普通の雨だとたちまち干上がってしまうので、無限に水を出せる《水の神霊ナ―イアス》様や、地形に干渉できる《ヴイーヴル》の権能をフルに使って、徐々徐々に、あくまで自然にできたように湖を造る。簡単なことだろう?」

「「「…………」」」

「理想としてはダンジョンの出入り口も水中に沈めておけば万全なんだけど、なんかレギュレーションに引っかかりそうだし、ダメなようなら島のような形にした場所に残すことにして、他にもいくつかダミーの小島も残しておいた方がいいだろうな。しばらくはこれで時間稼ぎができる筈だ。そんなわけで五ヶ月半でも結構ギリギリだと思う。――何か質問は?」


 そう確認をしても、

「「「…………」」」

 揃いも揃って無言でポカンと口を開けて聞いている三人。


 しばし経過したところで、ようやく再起動したフィーナが、ギリギリと錆び付いたようにぎこちない態度で口を開いた。


「……ダンジョンの入り口を隠すために、丸ごと湖に沈めるとか。正気か、おぬし?」

「そこはせめて〝本気か”くらいにして欲しかったなぁ」

 そしてもちろん本気である。


 俺の考えを聞いて、しばし沈思黙考していたようなヤミだったが、どうやらQ&Aで運営と協議していたらしい。

「すみません。やはり運営としては、正式なオープン後に意図的にダンジョンの入り口を隠したり、埋めるなどする行為はペナルティの対象となる……との判断だそうです」

 そう申し訳なさそうに言い添えた。


「あー、やっぱりそうか。隠すんだったら一番手っ取り早いのは埋めることだと思ったんだけど、水の中や空中に浮かせるなどもダメか?」

「原状回復の原則に伴って、少なくともダンジョンの出入り口周囲100m圏内を、意図的に現在の状態以外に手を加えるのはNGとのことです」

「賃貸の〝フラット”みたいですねー……あ、複層だから〝デュプレックス”かな?」

 思わずというった感じでリュジュが感想を口に出した。

 ちなみに『フラット』というのはフランスの平屋である賃貸集合住宅のことで、『デュプレックス』というのは複層階に分かれた賃貸集合住宅のことで、イギリスにおける『アパートメント』とほぼ同じ意味になる。


「その表現は的を射ているだろうな。所詮はダンジョン・マスターなんて言っても、全部借り物の物件に借り物の力なわけだし」

 つまるところ運営の胸先三寸なんだということを肝に銘じておかねば。


(……ま、そのうち出し抜いて見せるけど)

 そう密かに画策しながら、地図のダンジョンの入り口付近を赤丸で囲んでおく。


「じゃあ湖に沈めるものの、ここの入り口付近は半径100m以上の島にして、ついでに幾つか島を残してダミーとする。できればモンスターが湧きやすい場所ならいいんだけれど」

「〝魔力溜まり”ですね。事前にチェックしておく必要がありますね」

 頷いてヤミが同意する。


「ということで、①短期的な目標として、ダンジョンの強化及び魔物の増強。②中期的な目標は、ダンジョン全体を湖に沈めて、外部からの敵対勢力との衝突を可能な限り回避する。③長期的な目標は、教皇庁との折衝もしくは撲滅。――といったところだ」

 そう地図の余白部分に箇条書きすると、フィーナも納得した表情で頷いた。


「いいではないか。最初は何を突拍子もないことをと思うたが、なかなか考えておる。特に行動の肝が最終的に教皇庁とやらとの撲滅を目安にしているのが気に入った。敵と見定めた相手は斃さねばならぬからのぉ」


 いや、別に確実にドンパチすると決まったわけじゃないんだけど? 内部から切り崩すなり、末端を取り込むなり、対等な立場までこちらの力を誇示できるまで育て上げてから話し合いに持ち込むなり、可能な限り無駄な戦いは避けたいんだけどね。

 とは言えいま言って興をそぐこともないので、とりあえずは黙っておく。


「えーと、あのダンジョンの強化についてですけど、ここを湖にするってことは今後は水に関する魔物や精霊を中心に増強を図る……ってことでしょうか?」

 小首を傾げながら疑問を口にするリュジュ。


「いや、いま現在は水系統の魔物しかいないので、そっちを強化した形になったけれど、ひとつの系統に固執すると、特定された場合対応もされやすいので、今後はある程度他の属性の魔物を増やして補完させるつもりだ。――無論、中心になるのはいまいるフィーナとリュジュで、期待しているけれどね」

「ふふん、まあ気が向いたら手伝ってやらんこともない」


 一応、ふたりをないがしろにする気はないと持ち上げておくと、当然という顔でフィーナが破顔した。

 リュジュの方は生来の性格によるものか、

「いや、あの、別に私はそんなに……」

 いまのところうちのダンジョンの最強戦力だというのに、どうにも及び腰である。


「方向性はわかりましたけれど、結構な難問ですね。いままでの例ですと、すべての属性の魔物を取り揃えてオールマイティを自称していたマスターのダンジョンは、ほぼ例外なく防御にも攻撃にも中途半端な器用貧乏に終わってしまい、突破力のある敵に対して脆弱さを露呈してしまい、早い段階で淘汰されるのが常です」

「ふむ。キャラカスタマイズ制のゲームで、パラメーターを均等に上げた結果、どれもいまいちになった感じか」

 ヤミの説明に納得した俺とは対照的に、フィーナはいまいち納得できないという顔で、

「そうであるのかや? 真の強者とは往々にして、強き肉体、類いまれなる膂力、獅子の如き精神を持った者であるぞ」

「まあ、理想はそうなんだけれど、いまあるポイントと条件ですべてに対応しようとすると、どこかに破綻ができるのは目に見えているからね」

「ああ、増設できるだけの武装を全て乗せたパーフェクトストライクが、武装の選択肢が増えたことで、逆に使い勝手が悪くなり過ぎて、さらに自重の増加による機動力の低下、エネルギー消費の増大を招いたことから、バランスの悪い欠陥機扱いされて放置されたのと同じことですね~」


 リュジュが日本のアニメの知識をもとに、なにやら感慨深げにヤミの意見に同意を示す。


「ま、そういうことだ。できればオープン後もトライ&エラーを繰り返して見直しを図りたいところだけれど」

「あ、そのことですが。準備期間中の現在は問題ありませんが、正式にオープン後はダンジョン内部の構造を、逐次変更――侵入者の動きに合わせて構造を変えたり、そのまま壁で囲んで圧し潰したり、どこかへ投げたり――はできませんので、ご注意ください。無論増築や破損の修理は問題ありませんが、基本的に侵入者がいるエリアに対しては干渉できません。普通はそんなことしないんですけど、アカシャ様の場合はやりかねないと、運営も危惧しているようで赤字で警告文が来ました」

 と、先にヤミに釘を刺された。


「――ちっ」

 さすがに運営も俺のやりそうな手口を読むようになってきたか。

 正直、迷路を造って随時入れ替えしようと思っていた俺は、機先を制せられて思わず舌打ちをした。


「……その顔は目論んでおったな」

 最近、多少は俺を認める雰囲気になっていたフィーナが、それはそれは白い目になったのを見て、俺は口笛を吹きながら目を逸らせた。


「ですから、トライ&エラーの暇はないと思います」

「ふーむ、じゃあこの準備期間中に、この世界の人間の生態を可能な限りサンプリングして、それをもとにダンジョンの方向性を決めるしかないな」

 そうヤミに答える。


「生態ですか? この世界の生物ですのでアミノ酸がD型ですが、基本構造はホモサピエンスと類似ですが? 遺伝子構造も96%一致していますし、違いは《魔素》に適応して《魔臓》という人差し指の先ほどの器官が脾臓の上のあたりにあり、これによって肉体を強化したり、魔術を行使したりすることが可能となっているくらいですね。あと、《魔臓》はモンスターの好物なので、好んで食べられます」

「結構違うものだな。つーか、やっぱ実物を捕まえて、実験しないとダンジョンの方向性が決められないな」


 何しろ正式オープンすれば、やり直しは利かないらしいし、「このくらいの高さ・幅があれば十分」「これだけ高温なら無理」とか、先入観から甘く見積もって手痛い反撃を食らっては堪らない。


「え……あの、人間を実験に使うんですか……?」

 思いっきり顔を引き攣らせるリュジュに、

「そりゃそうだろ。一番の敵はこの世界の人間なわけだから、最低限、上下の温度湿度限界推定値、衝撃限界値推定値、圧力限界推定値、耐久限界推定値、行動不能になるまでの水、食料、酸素欠乏時の限界推定値などは把握しておかないと」

「うわぁ……」

 そう答えたらドン引きした。


「??? 変な事言ったかな?」

 と、思わずヤミに確認をする。

 俺としては、自分や仲間の命がかかる仕事がイチかバチかの賭けや博打であってはならないと思うので、可能な限り実態に即したデータを集積しておきたいと思うのだが。


「いや、まあメリジューヌは比較的に人に近い場所に生息していたので、どうしてもモノの見方が人間寄りになって、同情的になるのではないでしょうか?」

 そう推測を口に出すヤミの言葉に、肯定も否定もしないで複雑な笑みを浮かべるリュジュ。


「ふん。妾の縄張りに土足で踏み込む下賤な人間などに情けなど無用である。――おぬしらもそうであろう?」

 フィーナに同意を求められて、ヤミは「わたくしはアカシャ様の従属物ですので、すべてはアカシャ様の思し召しのままに」と軽く返し、俺はと言えば、

(まあ、元人間としては多分、良心の呵責に苦しむとか、煩悶するべきなのかも知れないけれど……)

 客観的にはそう思うものの、もともとの性格がこうなのか、或いは『ダンジョン・マスター』になった際に何らかの処置を施されたのか、まったく悩むことなく、

「いや。そもそもこの世界の人間ってホモサピエンスに比べて、96%……4%も遺伝子構造が違うんだろう? チンパンジーより離れているってことで、俺的にはカテゴリーとして『人間』とは別種の生き物という認識なんだけど?」


 はっきり言えばゲームの敵と同じで、動く経験値としか思えなかった。


「ある意味、無関心よりひどい認識ですね……」

 なぜか冷汗を流しながらヤミがそう相槌を打つ。

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