なつかしい夏の情景

私の記憶する夏は、ただ暑くうっとうしいばかりで、この物語に語られるようなうつくしい季節であったためしがありません。
なのになぜでしょうか、さわやかな水の匂いや、楽しげに客を迎える準備をする誰かの姿を、ここに描かれた光景を、ひどくなつかしく感じます。

この物語に描かれた夏の情景は、やさしく、キラキラと輝いていて、同時にどこか切ない。それがなぜなのかは、読み進めるうちにわかってくるのですが。

また、来年も。できれば再来年も。おばあちゃんと猫が、同じようにキラキラとした夏を迎えられれば良いと、読み終わるころには胸しめつけられる心地がします。

なにげなく、幸せで、切ない夏の情景を、ぜひ噛みしめてみていただきたい、短くも心惹かれる物語です。

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