Episode.5 通りゃんせ

あれから一週間、特に変わったことはこれといってない、あれからもずっと受験生とみられる人からの勧誘やストーキングのようなものは続いている。

しかし、あの時のように命を狙われるなんてことはなく、あの後会ったサカドウ君もまるでこの前のことは嘘だったかのようにいつも通りだった。

まるでそれはこの前の一件が全部なかったことになっているかのような。あの騒ぎを見ている人はおらず、サカドウ君や私が気づつけた壁、机、椅子は次の日には全部すっかり元通りだった。

そういうわけだから、私は前のような当たり障りのない日々をまぁ、送れている。今日だって、普通に学校に通って今は放課後、今日の夕ご飯の買い出しに行ってそれの帰宅途中だ。少し日が傾き始めてきたころ、行動の早い小学生なんかは帰りのチャイムを聞いて別れの挨拶なんかしたりしている。

もう、私の横を何人もの小学生が走りすぎていて、ほほえましい。

私もこの前のことなんか忘れて平凡におぼれよう、そんなことを考えていると。


「通りゃんせ、通りゃんせ、ここはどこの細道じゃ。」


ふと、通りゃんせを歌う子供の声が聞こえてきた。子供らしい、鈴のようなかわいい声。

前を見るとハーフツインテールをした女の子が、木の棒を地面に引きずりながら歩き、口ずさんでいる。

今となっては通りゃんせを知っている子供は少ないんじゃないかとか思っていたから、なんだか、口ずさんでいる女の子に違和感を感じた。

まぁ、でも、そんなのは人の自由で私が口出しすることじゃない。

帰り道一人だと何かを口ずさみたくなるのは自然現象のようなものだ、そう思い何も気にせず帰ろうと思った。

しかし、幾分女の子との距離が近づいてきたところで奇妙なものが見えた。

それは、紫色の何か。

左手にあるそれは最初は青痣かなんかだと思っていたが、それにしてははっきりした絵の具のヴァイオレットのような色をしていて、しかし、女の子の左手は木の枝を握り振り回しているため、ぼやけてよく見えない、もう少し近づかないと。

そのまま、歩いていく、女の子は私に見られていることにも気づいて無いようで、ご機嫌な様子でニコニコと歩いていた。


「この子の七つのお祝いに、お札をおさめに参ります。」


あともうちょっとですれ違う距離、そこで初めて女の子の紫色の何かがわかった。

紋様だった。

それは、子供が遊びで描いたにしては奇妙で、とても絵の具やペンで描かれたようには見えなかった。どちらかというと、刻まれているような、刻印、そんな感じ。


「行きはよいよい、帰りは恐い。」


女の子は歌い続ける。そのとき、ゾッと背筋に悪寒が走った。虎や熊、そういった肉食動物に狙われているような、本能的な恐れを感じる。

何かと思って女の子の紋様から目を離すと女の子と目が合った。

ほんの一瞬のことだった、しかし、確かに恐怖を感じた。少女は無の表情と紋様と全く同じ色をした紫の瞳。そこからあふれ出るオーラはとても人間のものとは思えなかった。

逃げなきゃ。

この女の子とかかわってはいけない。

そういう風に直観的に思わせるものが女の子にはあった。

しかし、それも一瞬のことで次の瞬間には女の子はまたニコニコ顔に戻っていて、あのオーラももう感じなかった。

でも、確かに私は感じた、これは一体?


「恐いながらも通りゃんせ通りゃんせ。」


思い詰めているうちに女の子とすれ違った、と思った。

けれども私は女の子が真横に来た時、その先へと進みはしなかった。

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