第40話  警視庁へ連行

「辺り一帯を封鎖しました」

 背の高い警官が雨夜に君に囁いた。確かとおるとかいったか。

「うん、ご苦労様。しかし腐っても華族の邸です。慎重にお願いします」

「抵抗する奴らは切ってもよかとですか?」

 背の低い刀を二本佩いた男が無邪気そうにいった。訛りの強いこのアホはつなだったな。

「コラ、探偵! なんばいいよったと?」

 綱は眉間に皺を寄せ、刀に手をかけてにじり寄ってきた。

「よしなさい、綱」

「は、はい!」

 アホの綱でも流石に雨夜の君の前ではしおらしい。


「あのー、おれの友達が二人、この辺りにいるはずなんすけど」

 春日は相変わらず自由に発言した。

「雨夜様に話しかけんなっちゃ!」

「うるせぇんだよ、ちび」

「あああああ? なんやとコラぁ⁉」

 話が進まないので、俺と融がそれぞれ春日と綱を抑え込んだ。

「少し黙ってろ」

「知っている。桃雛家の子供たちだろ? ちゃんと捜しておきます。だから安心して取り調べを受けて下さい」

 雨夜に君は薄っすらと微笑んだ。 

 それは有無はいわせないという意味だ。


 俺と春日は馬車に乗せられ、警視庁へ連行された。

「あれ、方向違くないですか?」

 向かいに座る年若い警官に訊いた。

「建設中の新しい庁舎へ連れて行く」

「へぇ、追い出されたって訳」

「違う! 増加している異能者案件に対しての増員のためである!」

「へいへい、血気盛んなことで」

「き、貴様! バカにしているのか⁉」

「おいおい、落ち着きなさい。彼らも驚いてるぜ」

 隣の中年の警官が若者をたしなめた。

「し、しかし、こいつは容疑者ですよ!」

「おれたちはなんもやってねーっすよ!」

 春日がまた咬みついた。いや、おまえは結構やってると思うんだが、ややっこしくなるのでなにもいわないでおこう。


「それにしてもあんた、探偵なんだって?」

 中年の警官は好奇の目をして訊いてきた。

「ああ。なんか仕事があったらいつでも大歓迎だ。人捜し、噂の真相、浮気調査に会社の査定、なんでもござれさ」

「下らない。探偵なんぞ、金さえもらえればどんな汚いことでもやる、亡者のやることだ」

 若い警官はそう吐き捨てた。

 なんか探偵に恨みでもあんのかな?

 まぁ世間ではあまり良くみられていないのはわかる。

「テメェ、警官だからっていわせておけば!」

 春日が売り言葉に買い言葉で立ち上がり、若い警官も対抗して立ち上がった。

「いい加減にしろ」

 俺と中年の警官は、二人を座らせた。

 それからも春日と若い警官は睨み合っていた。


「探偵さんの仕事は、さっきいってたのだけじゃないんだろ?」

 中年の警官は会話を再開した。

「こっちだって伊達に客人対応係に配属されてる訳じゃない。下級の巡査だが、それなりの事情には通じてるつもりだ」

「えーと、まぁ、蛇の道は蛇ってね」

「ま、今後ともよろしくってことで。オレは榎木二郎っていうんだ。」

 警官は握手を求めて手を差し出した。

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