UNBALANSTORY

博元 裕央

UNEPISODE01 漠視館殺人事件

「な、なんだこれは!?」


 霧深き山奥にあるが故に、漠として視得るが故に、漠視館ばくしかんと呼ばれる山中の屋敷。


 その主である水里すいり家の長、水里すいり 武鷹むようの突然の死。


 それを知り集まってきた一族の者達が、遺言状を開封せんとした時、そこにあったのは。



 家政婦の死体と。



水里すいり一族悉く死すべし」



 その一文であった。



「ゆ、遺言状は!?遺言状はどうしたの!?」


 長男の水里すいり 撓意しないが口髭を震わせて冒頭の発言を叫ぶと同時に、長女の水里すいり 梨夜なしよが太った頬に皴を寄せこの欲深い叫びを上げた。


「ば、馬鹿、そんな事より、これ、さ、殺人事件だろ!?」


 倒れた家政婦の服に染みた血を見ながら、次男水里すいり 秋太あきたが上ずった声を上げる。


 撓意と秋太の嫁と。梨夜の婿、そして三夫婦の子供達。


 集った水里一族。


 それを殺しつくすというのか?


 この家政婦の死はその始まりなのか?あるいは武鷹の死も、また?


 戦慄する水里一族。


 その中に、館の中に名探偵はいない。


 しかし、それでも。


「これは……」


 水里秋太の息子、水里すいり 消雪しょうせつが、その頭脳を回転させ始めようとした……



 その時。



 ばく かん が 爆 発 し た ! ! !



 殺人者の手による爆破であった。


 水里すいり一族は全員死んだ。漠視館ばくしかんで爆死した。


 推理等する余地もなし。連続殺人ではなく、一網打尽。事実は小説より奇でも小説より呆気無く容赦も起承転結も無し。


 その後犯人は逮捕されたが、それはあくまで地道な捜査による、爆薬原料の洗い出しからの犯人の特定によるものだった。


 物語の約束が崩れた、現実の殺人等かくの如しであった。

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