外出3

「メルス、まずはこのガキを回復させろ。そして勇者の情報を聞き出せ。そうすれば今回の失敗はチャラにしてやる」


 攻撃を続ける少女を適当にあしらい再び気絶させたオルガは、あからさまに不機嫌になった。


「了解しました」


 返事を返すと、オルガはその場に座り込み何処から取り出したのか酒を一杯やり始めた。 これ以上の失態は本当に殺されかねないので即、少女に回復魔法をかける。


「私は、負けたのか」


 回復したはずなのに、何故か彼女は立ち上がろうとせず無気力に言葉を投げかける少女は、目が死んでいた。


「とりあえず、急に襲ってきた理由を聞かせてもらえるかしら」


「あなた達は、どこかの国の使いではないのですか?」


 彼女の言葉に、思わず首をかしげる。 そういえば出会いがしらに、勧誘がどうとか言っていたが、やはり私たちを誰かと勘違いしていたのだろう。


「私たちは旅人よ。訳があって北国を目指していたのだけど、物資が尽きてしまったため補給を行おうと、この村へ寄っただけ、使いなどではないわ」


 とりあえず適当に設定をでっちあげて対応する。 よく考えると、デタラメな設定なのだがコレをどうやら少女は、真に受けたようだ。


「そうだったのですか。兵士でもない者にいきなり手を上げるとは本当に申し訳ない」


 先ほどまでの不貞腐れた態度が一変して彼女は素早く立ち上がると頭を下げた。 この変わりようは何だろう。 興味は無いが勇者の手掛かりになるかもしれないので彼女の身を心配するフリをして話を切り返す。


「こちらも怪我はしていないし、恨んではいないわ、でも、いきなり斬りかかってくるなんて異常よ。いったい何がアナタをそうさせたの?」


「戦争がすべて悪いのです」


「戦争?」


「ええ、かつて私達の村は、私を含め勇者の血を引く者達が身を隠しながら平和に暮らしていました。しかしある日、周辺国家が戦争を始めてからこの平和な暮らしが少しづつ狂い始めたのです」


「見たところ、この辺は紛争地帯では無いようだけれど?」


「そういった事ではないのです。始めは血気盛んな男子が戦争で武功を上げると言って一番近い国へと入隊を志願したことがきっかけでした。 村の者は反対しましたが彼の意志は固く結局この村から出ていきました」


「その男性は死んだのですか?」


「いいえ、逆です。彼はたった1カ月で武功を上げ地位や名声を手に入れたらしいのです」


「なるほど、大体わかりました。彼の素性を調査した敵国ないし彼の行った国が、この村に住む者が強大な力を持っていることを突き止め、この村の住民の奪い合いが始まったのですね」


「その通りです。金、名声、女。あらゆる物でこの村の人間を誘惑して、そして皆、出て行った。残ったのは年端もいかない子どもたちばかりです。ですが、それで終わりではなかった」


 少女は苦い表情をして言葉を詰まらせる。 ここから先も何となく想像はついたのだが、せっかくなので彼女の口から話を聞こうとメルスも押し黙る。


「本格的に鍛えていない村人ですら武功を上げれるのです。この村の住人を獲得して戦争に役立てようと周辺国家は、今度は子供までも連れ去ろうとしました。当然、私たちは抵抗したのですが、いくら勇者の血を引いていると言っても所詮は子供という事でしょうね。大量に送り込まれる兵士たちにはなすすべもなく、泣く泣く連れていかれた子たちも多数います」


「つまりは私達を国の兵士と勘違いして襲ってきたのですね」


「その通りです。もうこの村には私を含めた人口はたった4人。村から出ると兵士たちに襲われるため毎日怯えながら生活しています」


「事情は分かりました。 辛かった過去を聞いてしまって申し訳ありません」


 とりあえず頭を下げつつ同情しているフリをする。 彼女には悪いが、勇者がこの村にいないと分かった私の絶望感の方が強く、とてもじゃないが冷静ではいられない。


 どうしよう、このままだとオルガ様に殺される。 しかもサクッと殺されるのならまだしも絶対私に拷問してジワジワなぶり殺しにするよ。


「あの、そこでお2人にお願いなのですが、先ほど北国を目指すとおっしゃっていましたよね」


「ええ、それが何か?」


「私達村の住民もご一緒に旅のお供、仲間として連れて行っていただけないでしょうか?」


 この言葉を聞いて、メルスはもう少し考えて設定を練ればよかったと心の底から後悔した。

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