第3話『俺と彼女と防寒着』

 俺たちはロッカーの前まで行くと、当たり前だがロッカーを開けようとしたが、あまりの冷たさにまともに掴めず、反射的に離した。


「なにをしている!? ちゃんと開けろ」


 まるで恋人にするようにしがみつきながらも、開けられなかった俺に対して辛辣に言い放ってきた。


「ワリ。」


 中に何が入っているのか、八重垣も興味があったようだ。暖を取れるものを期待しているのだろう。


 俺は制服の裾で手を覆うと、改めてロッカーを掴んで開いた。


「これは!!」


 中には冷蔵庫内での作業用防寒着が数着と、手袋や帽子などが、クリーニング済みなのかビニール袋に入れられて置かれていた。

 八重垣が望んでいたものを見つけて歓喜の声を上げると、早速防寒着に手を伸ばした。


 アンダー用なのか、ツナギもあったが、スカートを脱ぐのも、スカートの上から着るのも嫌なのか、それは着ようとしない。


 防寒着に帽子、手袋を手早く装着すると、事故対策の防火シートを一枚床に敷いてそこに座り、もう一枚を膝掛けにして綺麗な揉み足も暖めている。


「現金だな……。女はよ……」


「現実的と言え」


 あまりにも効率的な動きに苦笑を浮かべる俺に、八重垣はピシャリと言い放った。


「まぁ、オドオドしてるだけの奴よりは助かるけどな……」


 俺は制服の上からツナギを着ると、その上から防寒着を羽織り、帽子や手袋を着けると、改めて室内を見回した。


「座らないのか?」


 八重垣が自分の横を軽く叩いて促してくる。


「寛いでる場合じゃねぇだろうがよ」


 防寒着もシートも一時凌ぎに過ぎない。取り敢えず体を冷やすのを抑えられたとしてもよ、そんなのは時間稼ぎにしかならねぇ。

 体力が残ってる内に、どうにかここを出る手段を見つけておかねぇと、どうにもならなくなっちまう。

 俺は冷蔵庫の中を歩き回った。


 ロッカーの中には、防寒着の他に幾つかの工具があったが、扉を開けられそうなものは見つけられねぇ。


 本気で都合よく誰かが助けてくれる何て言う、有り得ない偶然にすがるしかねぇのか?


 あまりに途方もない可能性に溜め息が洩れた。

 ここは普段は放置されていて、点検さえ月に数えるくらいしかされてない。


 スーパーでもなければ、水不足でもないこの辺じゃあ、こんな巨大な冷蔵庫、そんなに重要でもないからな。


 このままじゃあ、明日の朝にゃ、俺と八重垣は仲良く凍死体だ。


 心中するにしても、もっと色っぽく行きたいぜ……。


 そうだ。冷蔵庫ってのは確か、ガスで冷気を作り出してんだったな。それなら……。

 

 俺は明暗が浮かぶと、点検道具を手に取った。


「なにをする気だ!?」


「決まってんだろう? こうするんだよ」


 俺はスパナで力一杯ガスの流れているパイプを何度も叩きつけた。

 パイプが歪んで溶接部が外れ、更にはパイプに穴が開いて、大量のガスが流れ出した。

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