火花を刹那散らせ

新吉

第1話 チラシを切なく離せ

「あ、カレー安い!」



 夏野菜カレーでも作るんだろうか。

 最初はそれくらいだった。


 ああ、でもカレー、夏は1人分作るの面倒くさい。やりきれない、切ない、などといいながらチラシを握りしめている人がいる。チラシはこの辺のスーパー。ここは職場だ。なんでここにチラシがあってこの人はチラシ読んでんだ。


 俺はタバコを吸ってきて、コーヒーを買おうとして目に止まっただけ。


 答えは今休憩中で、新聞と一緒にチラシも届けられて、それの置き場所を俺が知らなくて、この人は知ってて。一人暮らしで、安い品物を求めているから。


 俺は何も聞いてないんだけど。彼女はマシンガンのように話した。何回か挨拶をするくらいの先輩。教育係の人と仲がいい人。そしてくしゃっとなったチラシを離して、俺を見上げる。



「君の今晩のメニューは?」


「あ、え、弁当です。あの失礼しました」



 俺の視線が露骨過ぎたんだろうか。



「いや、私の独り言が大きかっただけだよ」



 そういうと彼女は口の端を曲げて苦笑いのような顔をした。



「夏、食欲なくてもちゃんと食べるんだよ」



 そう言ってコーヒーとチラシを持って席を立った。俺もコーヒーを買ってなんとなくその席に座る。



「カレーかあ」



 なんとなく、今日食べてみようかなと思った。まあ連日の猛暑で外食も面倒で弁当とカップラーメンの種類を開拓するような食生活だったけど。食欲は全然ある。


 そんな今の俺には毒だ。

 食欲ないのは彼女の方だろう。

 とても細かった。

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