アホの子 in 放課後学習会

 「…………」


 この日、ツネヤス、アオイ、ジュンコの三人は、電子タバコを加える高岡の監視の下、放課後の教室で勉強会を行なっていた。

 勿論、仕掛け人はジュンコである。

 今回はツネヤスに「放課後の勉強会にアオイと一緒に参加しないと赤点になるぞー」と脅しをかけ、今回も無言でコクリ、勉強会に参加する事になった。

 そして高岡は、ジュンコが余計な騒ぎを起こして給料ダウンとなるのを避ける為、監視しながら、自分の書類を済ませている。


 さて今回、ジュンコの計画では、アオイはアホの子属性をする事になっている。

 単純な作戦だが、アホの子のフリしてツネヤスに頼り、母性本能をくすぐろうと言う訳だ。


 そんな思惑を持って始まった勉強会だが……。


 「…………」

 「…………」

 (何か動きなさいよ!)


 全く動きがなく、黙々と勉強する二人にイライラして貧乏ゆすりを始めるジュンコ、そして。


 「いったー!」

 「佐々井、よそ見してないで勉強しろ〜」

 「だからってチョークを額に投げつける事無いでしょ! 鬼、悪魔、不良教師! ……ごめんなさい、だからチョークを構えるのはやめて下さい」


 その言葉に疑いの目を送りつつも、高岡はチョークを下ろし、再び自分の仕事へ戻ろうとした時。


 「先生、チョークを投げつけて貰わないと、アホの子になれませんので投げて下さい……」

 「は?」


 手をブンブンさせて口にしたアオイの言葉に呆気にとられ、高岡は電子タバコを口からポロっと教壇の上に落とす。

 そして、ハッとした顔を浮かべると、左手で電子タバコを拾い。


 「水川、お前がそんなアホな事を言うから驚いたぞ……」


 と半口を開け、目を見開き、それは驚いたと言わんばかりの表情でアオイに語りかける。

 そんな様子に冷や汗を流すジュンコ、淡々と勉強するツネヤス。

 そして。


 「その発言は、アホの子として認めてもらったと見て大丈夫ですか?……」

 「いや……。 ところで、なんでアホの子と認めてほしいんだ?」

 「それは、アホの子はモテるとジュンコが……」

 「おっと、下校時間だ、バイバイキー……ギャ!」


 危険を察して逃げようとした時、既に手遅れだった。

 教室のドアに手をかけたところで、ジュンコのうなじに刺さるように直撃するチョーク。

 そして、高岡は白目を向いているジュンコの両脇を抱え、先ほどまで座っていた席に座らせ、また教壇に座って仕事に戻る。


 …………。


 それから30分程過ぎた頃。


 「ん?……」


 突如アオイのコメカミに当たる丸めた紙の塊、それはその後、うまい具合に机の上で二回程跳ねて止まる、そして!


 「ギャン!」

 「ま〜た、お前は遊んで……。 佐々井〜、ちょっと来〜い!」

 「うぎゃぁぁぁぁ!」


 紙を投げた元凶は、額にチョークを受け、耳を引っ張られ教室の外へと退場する。

 が、これは作戦だった。


 「ん?……」


 アオイが手に取った紙の塊の何箇所かに書かれた(開いて)との文字。

 そして、それをガサゴソ音を立てつつ開けると。


 《敵兵は引き受けた! 今こそアホの子属性で異性を陥落させるのです! 恋愛軍師》


 その様な策がアオイの目に飛び込んでくる。

 そして、アオイは紙をポケットに入れると一呼吸置き、そして。


 「龍徳寺君……」

 「…………」ジー

 「分からないので教えてください……」

 「…………」コクリ


 そして、互いに見つめ合う二人。

 そこから沈黙の時間を数秒挟み、アオイが口を開く。


 「アホの子ってどんな属性ですか?」

 「分かりません」

 「そうですか……」


 二人はまた、勉強に戻り、静かに勉強する時間を過ごした。

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