そもそもの始まり

 話は一時間前に遡る。


 「私、龍徳寺好き……」

 「何ですって! アナタ、あのインテリメガネの龍徳寺が好きなの!?」

 「…………」コクリ


 「ジュンコ、話ある……」と言われた次の瞬間の事だった。

 アオイが頷いたことにより、私の体を駆け巡る稲妻! ワタシは今世紀最大の驚きを受ける。

 だって、アオイって感情に乏しいから、恋愛とかに関係無さそうな人種だったし……。

 基本的に、一という漢字に・を付けたような目をしているし……。

 だけど……。


 「だけど、アナタはワタシに相談して正解よ! ワタシは恋愛雑誌を読みまくった恋愛のプロだし! どんな恋愛も即日成就! 吸いも甘いも完璧よ! そんなワタシがアオイにモテ属性叩き込んであげる!」

 「おー恋愛のぷろ~……」

 「うっふっふっふっふ、あーっはっはっはっはっは!」


 …………。


 「……と言うことで無意識な恋のキューピットと呼ばれる私は、二人の力になる為に立ち上がった訳なの!」

 「ゴクッ……ゴクッ……ゴクッ……、あ~! お前は何を言いたい?」

 「酒飲みながら言う不良教師に言われたくないわ!」

 「お前みたいなアホの話、シラフで聞く気にならんわ、ボケ! それに、毎回水川ん巻き込んで悪いと思わんのか!」


 ワタシの話は酔っ払いの話並みって言いたいの!?

 なんかそんなニュアンスに聞こえたのだけど!?


 「えーっと先生……ワタシに喧嘩売ってる?」

 「私が売るより買う派だぞ、酒とタバコをな……」プハー

 「話してる時にタバコするとかどうなの! この不良教師!」


 まったくこの不良教師は……。

 私の話は酒の肴じゃないんだから!


 「まぁともかく、トラブルは起こすなよ。 酒とタバコの費用が減ったら、恨むぞ……」

 「なら手伝ってよ、不良教師」

 「お前、教師ってやること多くて忙しいんだぞ! 1割が授業内容の構想、1割がクレーマーみたいな親の対応、残りの8割がお前みたいなアホの世話、ホント大変なんだぞ」

 「アホって何よアホって! と言うか、ワタシが苦労の原因っての!?」

 「あ〜いいからいいから! ほら、アホは帰れ! トラブル起こさず帰れ!」

 「ぎゃ!」


 私はガシガシと蹴りを背中に受け、無理やり職員室から締め出される。


 「何よ、不良教師! 困った生徒を助けないで何が教師よ、バーカ!」

 「終わった……?」

 「うわ! あ、アオイ! アンタ、待ってたの?」

 「…………」コクリ


 どこから湧いたのか、いつの間にアオイが私の真横に迫っていた。

 と言うかアオイ、アナタ急に出てくるのはやめてってば……。


 「ところで、どうなった? 結果は?」

 「寝技を教えてもらった……」

 「寝技?」

 「…………」コクリ

 「ど、どう言う事よ、しっかり説明なさい!」


 ワタシはそう言ってアオイを揺らす。

 そして、アオイは一呼吸置くと、そのあらすじを語り始めた。


 …………。


 それは、ジュンコが高岡に耳を引っ張られて連れて行かれた数分後の事。


 「うんしょ、うんしょ……」


 大人しい雰囲氣を纏った声を出しながら、アオイは龍徳寺の上にピッタリ綺麗に重なった時、龍徳寺が目を覚ます。


 「…………」

 「…………」


 静かに見つめ合う二人。

 それは、恋が生まれる雰囲気でもなく、かといって恋が冷めるわけでもなく、ただお互い感情を露わにする事なく見つめている、そんな雰囲気。

 そして、そんな二人を優しく風が通り過ぎた時、龍徳寺ツネヤスが口を開いた事で話の歯車が進み出す。


 「寝技ですか?」

 「もしかしたら、これが属性なのかもしれません……」

 「寝技属性という事ですか?」

 「多分そうです……」

 「寝技の練習した方がいいのではないですか?」

 「…………」コクリ


 ツネヤスの言葉にアオイは頷き、体を起こす。

 だが、アオイは龍徳寺にまたがった状態から動かない。

 別にアオイは何か展開を期待していたのではない。

 単に寝技がわからないので、動かなかっただけだ。

 そしてまた、優しく風が通りすがた時、今度はアオイから話始める。

 

 「寝技が分かりません……」

 「そうなのですか?」

 「ならば龍徳寺君、寝技を教えてください……」

 「/////」コクリ


 表情は変えず、ただ顔を赤く染めツネヤスは頷く。

 そして二人は、体育の教科書を見ながら寝技の練習をしたのであった。


 …………。


 「以上です……」

 「以上ってそれだけ!? もっと激しい受け身をしなかったの、ホワーイ?」

 「激しい受け身って何?……」

 「激しい受け身って言うのは、男と女がマットの上で一ラウンド一本勝負をいだだだだだ! 耳が! 耳が伸びる〜!」

 「お前を釈放した私がバカだった、お前、ちょっと来い!」

 「いだだだだだ、高岡〜離せ〜!」

 「離すかバカ! あと、先生を付けろと言ってるだろうが!」

 「いやぁぁぁぁ、プリーズヘルプミ〜!」


 そしてワタシは高岡に捕まり、職員室で「恋愛に関わるな、恋の疫病神」等と酷いことを言われた。

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