24:完成

 【発掘レンガ】


7160820 ヨーロピアンビースター連合国 

     ギリシャ国王 

     ロバート・ライオンハート4世

     レンガピラミッド完成記念 

     記念スピーチ 記録



地中海を見渡せるこの美しい丘に、

丘の美しさをはるかに超える美しさの、

私たちのピラミッドが完成した。


私たちのレンガピラミッドは、

ヒューマンの石のピラミッドよりも大きく、

USのピラミッドよりも美しい。


私たちのレンガピラミッドには、

私たちヨーロピアンビースターの

輝かしい歴史の全てが刻まれている。


私たちのレンガピラミッドには、

英知を授けてくれた、神とも言える

ヒューマンの記録が刻まれている。


見よ、ここにそびえる私たちの英知の頂、

ヒューマンの英知の頂、

私たちのレンガ造りの美しき技、

なんとすばらしい大きさだ。


この美しきレンガピラミッドは、

未来永劫この地球に受け継がれるであろう。

私たちの繁栄も、未来永劫、続いてゆくであろう。


私は今ここに、ヨーロピアンビースターの

レンガピラミッドの完成を宣言する。





  《完成》



 タクラマカンのセラミックピラミッドは完成した。


 完成した巨大なピラミッドを、2人は感慨深く見上げている。


「100年ぐらい完成まで掛かるって言ってなかったっけ。」ピラミッドを見ながらオオタが隣に立っているツキモトに言う。

「言ってないよ。」ツキモトがピラミッドを見ながら言う。


「言ったじゃない、ここの宿舎に初めて来た時にさ。」

「言ってないよ。」


「宿舎のキッチンが100年も持たない安物だって言ってさ。」

「それは言った。」


「ピラミッドの工事は100年以内に終わる?って聞いたじゃない。」

「終わるって言わなかったっけ。」


「おそらく?たぶん?そんな感じだったじゃない。」

「そうだったかなあ。」ツキモトが言う。「覚えてないなあ。」

「そうだったってば。」オオタが言う。


「鳥に壊されるかもしれないし。」ツキモトが言う。

「ボウウイング何回か来たね。」オオタが言う。「怖かったね。」

「壊されなかったけどね。」ツキモトが言う。「食べられもしなかった。」


「100年で終わる?って聞いて、たぶんって言われたら、そのぐらいなのかなって思うよね。」オオタが言う。


「意外と早かったね。」ツキモトが言う。


「2年だよ。」オオタが言う。


「もう2年も経ったか。」ツキモトが言う。

「あれから、まだ2年だよ。」オオタが言う。


「時の経つのは早い。」ツキモトが言う。


「あっという間だったよ。」オオタが言った。



 2人はセラミックピラミッド完成記念式典に出席していた。


 甲殻歴10000年の記念すべき式典だ。甲殻歴10000年10月10日、なんとか年の瀬に完成は間に合った。月の泉のピラミッドは間に合わなかった。


 澄み切った青空の下にそびえる巨大なブルーのピラミッド。紫外線完全カットの青いコーティングが、太陽の光を反射している。


 ピラミッドの底辺は1辺が500メートルの正方形、高さは309メートル。

 その三角の巨大な山のようなピラミッドには表面に防御フレームが複雑な形で組まれ、巨鳥の襲撃にもびくともしないように計算されている。


 ピラミッドの周囲は若木が植えられ、美しい公園になっている。巨大な水道管で遠くから地下水を引いてきている。

 公園には記念式典の見物客が大勢集まっている。ピラミッドは式典の後、一般公開される。

 この先は観光地として管理運営される事になっている。建設現場を守っていた対空機関砲も、そのまま稼働を続ける。


 ピラミッドの正面ゲートは開け放たれている。そこから赤い絨毯が一直線に1キロほど伸びている。

 赤い絨毯の両脇に関係者たちが何列にも整列している。ツキモトとオオタはその中にいた。

 建設に携わった多くの人が整列しながら、巨大な青く輝くピラミッドを見上げている。

 夏は灼熱のタクラマカンも、温暖化の好影響で冬のこの時期は爽やかで気持ちがいい。


「晴れてよかったね。」オオタが言う。

「雨なんて降らない。」ツキモトが言う。

「いつも夜だったからさ、この時間にピラミッド見るの初めてだ。」オオタが言う。

「確かにそうだね。」ツキモトが言う。


「本当に1億年も耐久力あるのかな。」オオタが言う。

「戦争とかで壊されなければね。」ツキモトが言う。

「戦争なんてもう起きないよ。」オオタが言う。

「どうだろうね。」ツキモトが言う。


「この先、1億年の平和か。」オオタが言う。歴史上戦争は繰り返される運命なのだろうか。

「微妙だろ。」ツキモトが言う。国家間戦争は国がないのだから起こらないと安心していると、独立戦争とかがどこかで起こるかもしれない。

「この先の歴史はあそこには刻まれてない。」オオタが未来を思って言う。

「1万年ぐらいしたら更新版が作られるかもな。」ツキモトが言う。


「今までの歴史の総まとめ。」オオタが言う。

「我々の生きた証。」ツキモトが言う。

「あそこに全てが刻まれているんだね。」オオタが言う。


「我々の全て、ビースターの全て、ヒューマンの全て。」ツキモトが言う。

「歴史の全て。」オオタが言う。

「地球の全て。」ツキモトが言う。


「レンガ人がピラミッドを作った気持ちが、今やっと分かった気がする。」オオタが言う。


 遠くのスピーカーからスピーチの声が聞こえてくる。誰か偉い人が順番でスピーチをしているのだ。


「早く終わらないかな。」オオタが言う。

「あいつで最後のはずだ。」ツキモトが言う。


 スピーチに耳を澄ます。かすかに声が聞き取れる。


「その研究者がぼそっと言ったんですよ、我々もレンガ人みたいにピラミッド作ったほうがいいんじゃないですかって。そこからこの計画は始まったんですね。その男は獏ダンゴを作ったやつなんですねどね。」壇上の男の声が言う。


「誰なんだろうね、言い出しっぺの獏ダンゴの開発者って。」オオタが言う。


「その男の名を、ツキモトと言った。」ツキモトが真顔で言った。


「そんなわけないじゃん。」オオタが真顔で言った。

「獏ダンゴぐらい作れるよ。」ツキモトが言った。

「作ったのはノーヴェルの1位の人でしょ。」オオタが言った。

「そうだね。」ツキモトが言った。


 壇上のスピーチが終わろうとしている。壇上の男の声が大きくなった。



「今ここに、セラミックピラミッドの完成を宣言する。」



 会場に歓声が響き渡った。




 


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