2:新中央道から低音特車

 【発掘レンガ】


9105030 「重要なお知らせ」 政府広報部 ロバート・ペルシャ


半年前からお知らせしている通り、石油が涸れかけています。

ガソリンは節約してください。

車による外出は控えてください。

石油発電所は停止しています。

電力の消費も控えてください。


6基の原子力発電所はフル稼働しています。

しかし電力が足りません。

しばらくは電力を節約してください。


原子力発電所を新しく10基建設中です。

原子力発電所を急いで作っています。

冬までには何基か完成させます。


ご協力をお願いします。




  《新中央道》



「こんな急いで適当に作ったような研究報告じゃあ、君の評価は下がるばっかりだよ。」

 オオタは発掘科学研究所の一室で、説教を受けていた。


 地下都市タカオの外れにある発掘科学研究所は、ニホンの発掘の指揮をしている場所だ。発掘研と呼ばれている。


 オオタは今では、世界中のレンガ遺跡を放浪している。しかし2000年程昔、この発掘研に長く勤めていた時期がある。

 手持ちの資金が無くなると、発掘研から仕事の依頼を受けて金を稼ぐ。この依頼は安かった。


「もうすぐ甲殻歴10000年の記念イベントが学会でもあるんだよ。」

 オオタは頭を下げている。

「まあ、発展があるとは思っていなかったけど、もう少し読める内容を書いてくれないとさあ。」

 オオタはすいません、すいません、と言いながら適当に聞いていた。

 終わるのを待っていた。



 地下都市として、海岸沿いに広がるタカオ。  

 地下の果てしなく続くトンネル、小さな車輪が高速で回転している。ヒュイーンという電動バイクのモーター音がトンネルに響いている。


 ヒューマンの時計の論文を「さらなるレンガの発見に期待する。」と適当に締めくくったオオタは、ツキモトのいるセラミックピラミッド建設現場に向かうため、低音特車の駅に向かっていた。

 ツキモトのいるタクラマカンの建設現場は、タカオからかなり離れている。移動には一番速い乗り物を使いたかった。


 低地底音速特別客車、正式名称は長ったらしいので低音特車と呼ばれている。

 停車駅は少ないが、地球全体をカバーしている。

 ニホンで唯一の停車駅まで行かなければならない。

 オオタはバイクで行くことにした。どうせバイクもタクラマカンに持っていくのだ。


 地下に張り巡らされた地下道を、オオタは電動バイクで走っている。新中央道は広い道だ。ヒュイーンという気持ちの良い音が反響している。

 地下道の壁は、赤っぽいレンガで出来ている。

 所々に店の看板が光り、店の入り口のドアから明りが漏れている。

 天井は高く、店には全て2階窓がある。


 白くツルツルとしたセラミックの天板には、街灯が遠くまで等間隔に並んでいる。

 天板の中央には水道管とガス管が一直線に通っている。水道管には10メートルおきにスプリンクラーの装置が取り付けられている。ガス管には水道管と同じ間隔で四角い緊急閉鎖用のボックスが付いている。


 路面にアスファルトは使われていない。黒っぽくザラザラとしたセラミックパネルが1ミリの狂いもなく敷き詰められ、ゴムタイヤのグリップを強めている。

 路面のザラザラのセラミックパネルは、ほんの少しだけ湿っている。大通りの下には地下水の川が流れている。

 地下水のコントロールは地下都市の基本だ。


 道路脇には両側に広めの歩道があるが、人影は疎らだ。歩道には等間隔にマンホールがあり、下には様々な配線が通っている。


 オオタは気持ちよくバイクを走らせながら、歩道の向こうに次々と現れは過ぎてゆく商店を気にしていた。

「何か買う物あったかな。」オオタが呟く。


 ゴーグルに表示される立体地図を見ながら、新中央高速の入口の位置を確認する。ここから4フロア下の20ブロック西ぐらいだな、心の中で呟きながら電動バイクを走らせている。


 このあたりの地下道は網の目に張り巡らされ、商店や会社が大通りの脇に並んでいる。

 大通りを外れると道が細くなる。細い道には、居住区画がある。


 オオタは西に向かってバイクを走らせている。前方に脇道が表れる。

 分岐に立てられた小さな青い看板には、下向きの矢印が白く書かれている。


「この辺かな。」オオタが呟く。バイクは大通りから外れ、下向きの白い矢印に従って、脇道を下ってゆく。


 電動バイクは4フロア分を降りたところで大通りに出る。上のフロアよりも駐車場のある店が多く、歩道の人通りも多い。

 新中央高速の出入口が近いのだ。


 交差点の案内板に、高速の入口が緑で書かれているのを確認する。オオタは案内に従い、右に曲がった。

 曲がった先は下り坂になっていて、1フロア分降りるとそのまま高速道に合流した。



  《新中央高速》



 高速道路に乗ったオオタは体を小さくして、バイクのアクセルを強く握る。電動バイクは力強く加速した。

 バイクのボディーの各所が少しづつ変形し、隙間を塞いでいく。バイクはスピードが上がるにつれて、フルカウルモードに変形した。

 空気抵抗が少なくなり、バイクはさらに加速する。

 貨物輸送トラックを、オオタの電動バイクはスルスルと追い抜いていく。


 オオタはスピードメーターに目をやる。ハンドルの中央に配置されたメーターは赤い字で時速500キロを示している。

 目的地は日本島の中心、ニホン最大の地下都市ヒダタカヤマ。


 低音特車の駅は、日本島にはヒダタカヤマ駅しかない。


 ヒダタカヤマに向かいながらオオタは、時速500キロについて考える。遅いトラックを避けながら、1時間で500キロというスピードについて考える。


 昨日までのヒューマンの時計についての思考が、まだ抜けていない。


 ヒューマンの時計は1日24時間だから、我々の1日10時間と違う。我々の1時間よりもヒューマンの1時間は短い。

 我々の1時間はヒューマンの2時間40分だ。いや、違うな。1時間も100分ではなく60分だから、2時間24分かな。

 彼らの1時間に直すと時速500キロは何キロなのかな。

 オオタは頭の中で適当に計算する。


 そして、たぶん200キロちょっとだな、と回答を出した。

「すごく遅く感じるな。」と呟いた。


 オオタはゴーグルの表示をチェックする。

 ここからヒダタカヤマまでの距離は約200キロ。時速500キロで飛ばせば40分ぐらいだなと思った。

 ヒューマンの時間に直したら何分かな。

 時速を10進法から24進法に変換して、分を100から60に変換して、あーややこしいな。もうやめよう。


 もう解放されたんだ、ヒューマンの時計なんて嫌いだ、計算は得意じゃないんだよ。

 発掘屋なんだよ。


 頭の中でいろいろな事を考えながら電動バイクを走らせていると、いつの間にかヒダタカヤマに近づいていた。

 壁には、この先にあるであろう店の宣伝看板が並んで光っている。

 交通量も増えている。


 ニホンは世界有数の地熱発電地だ。

 このあたりには、休火山の地下のマグマを使った地熱発電所が多数ある。マグマが近いのだ。

 この地熱発電所の仕事は、命懸けの作業が多い。

 だから待遇も良く、労働者達に人気だ。

 我々の文明を支える労働者達は、働き者で命知らずだ。


 我々は学校を卒業する時にワーカーとスーツに分けられる。昔は違ったらしい。スーツは管理職や研究者の総称だ。スーツもワーカーも希望を出せば入れ替えがある。希望しなくても入れ替えがある。


 ワーカーにもオスとメスがいるが、仕事をしている人口はメスのほうが少ない。子育てがあるからだ。

 ワーカーも繁殖期になると結婚相手を探し、子供を作る。

 10年は幼虫を育てるからその間はオスが稼ぐ。10年後、成虫になると子供は10年間、学校の宿舎に入る。


 子育てから解放されたメスは仕事に戻る。次の子供を作るか作らないか、パートナーを変えるか変えないか、それは自由だ。

 我々スーツと同じだ。何も変わらない。


 ただしワーカーの仕事は危険が多く、死ぬことが多い。

 彼らはそれが誇りだ。




  《ヒダタカヤマ》



 オオタは高速道の出口の表示を見ながらスピードを落としてゆく。

 スピードの下降とともに、電動バイクはフルカウルモードから元の形に戻ってゆく。


 オオタが高速道から外れ一般道に戻ると、そこはヒダタカヤマの地下6層だった。

 低音特車の駅は、地下2層にある。

 オオタはゴーグルに表示される立体地図を見ながら電動バイクを走らせる。ヒダタカヤマの地下都市に広がる道を、慎重に右に左に曲がり、6層から2層まで電動バイクを走らせた。


 ゴーグルに表示される立体地図には自動道案内システムの機能が付いているが、緊急時以外の使用を禁止されている。

 目的地は表示される、地図は表示される。しかしルートは自分で決めるのだ。

 それが退化しないためのセーフティールールだ。


 我々の中の天才達が決めたルール。自動道案内禁止。ルート検索禁止。


 坂を上り2層のヒダタカヤマ駅前大通りに出たオオタは、駅前の道路脇に電動バイクを停めた。

 オオタはバイクを降り、スピードメーターの下にある赤いスイッチを押す。すると電動バイクはカシャカシャと音を立てて変形し、大きなカブトムシのような形になった。


 バイクは一回り小さくなって、カブトムシの形で地面に這いつくばっている。頭から短い太めの角のようなものが1本出ている。

 オオタはその角を持ち、ヒョイと持ち上げて背中に装着する。

「重いな。」オオタが呟いた。

 ナノファイバーフレームとカーボンとセラミック、それにマグネシウム電池とモーターで出来ている電動バイクは、我々にとってはそれほど重くない。

 言ってみたかっただけだ。


 ヒダタカヤマ駅は低音特車しか停まらない専用駅だが、ニホンに唯一ということもあって多くの人が利用する。

 少し離れたところに、普通鉄道のヒダ駅とタカヤマ駅が別にある。


 背中に大きなカブトムシ型の電動バイクを背負い、オオタは駅に向かう。

 駅前広場は人が多く集まっていた。遠くへ行く者、遠くから来た者、それを出迎える者、送り出す者。

 皆、様々な事情でこの駅に来ている。


 駅の入口には大きく駅名が表示されている。

「低地底音速特別客車専用ヒダタカヤマ駅」見ていると目がチカチカする。ていちていおんそくとくべつきゃくしゃせんよう、と仮名がふってある。


 駅の入口を入ると、奥に地下への通路が何本も並んでいる。

 下へ向かう通路の入口には、それぞれの行き先が表示されている。

 オオタはその中の1本を下ってゆく。

 表示には「タクラマカン経由モスクワ行」と書かれている。


 低音特車のタクラマカン経由モスクワ行は50分に1本の運行だ。1時間で2本。


 低音特車が来るまでのんびり待とうと思っていたが、プラットホームに降りると低音特車はそこに停まっていた。オオタは急ぎ足で近くの扉に向かう。

 低音特車の扉には、手のひらの形のタッチパネルが赤く光っている。オオタはそこに手を置いた。パネルが赤から緑に変わり、プシューという排気音とともに扉が開いた。

 一瞬でDNAを照合している。

 オオタが車内に入ると、扉はヒュインと締まりカシャと機械的にロックされた。




  《低音特車》



 オオタを乗せるとベルが鳴り、ゆっくりと低音特車は動き出した。

 緩やかに加速し、緩やかに下ってゆく。

 位置エネルギーを運動エネルギーに変え、電気はモーターに送られ続ける。加速は止まらない。

 低音特車はさらに地底深くに滑り落ちていく。


 ここまで深いと車体の外はかなりの高温になっている。その熱を電気に変える技術を我々は開発している。


 低音特車はさらに加速していく。


 車内に入ったオオタの横の壁には、甲殻歴1万年の記念イベントのポスターが貼ってある。

 その上には「ただ今の時速」と書かれた電光表示が赤くスピードを示している。

 その赤い数値が上がり続けるのを、オオタはじっと見ていた。

 やがて数値は時速2800キロで止まり増えなくなった。


 オオタはその数値を見て、ヒューマンの時速に直すと何キロだろうかと考えた。

 しかしめんどくさくなって考えるのをやめた。


「計算するのは苦手なんだ。」オオタは呟いた。

 音速には達していないと聞いたことがあるのを思い出した。


 低音特車の車内は、両側についたてが並んでいる。中央が通路になっている。

「通路に物を置かないでください」と床に小さく注意書きが書いてある。


 乗車客は皆、ついたてに仕切られた小さなブースに立ち、携帯端末を操作している。

 本を読んだりニュースをチェックしたり仕事をしたりしている。座れる場所は少ししか用意されていない。

 長時間移動する乗り物は立っているのが我々の習慣だ。長時間の座りっぱなしは我々の体にはあまり良くないのだ。


 真ん中の通路を歩き、空いているブースを見つけたオオタは、背中のカブトムシに変形させた電動バイクを降ろし、壁に立てかけた。


 オオタは左右の腕に付けた携帯端末を両方外し、コードで連結した。

 さらに胸当てのように見える端末を外し、小さな第2腕で持ち、第1腕に付いていた端末と外した胸当てとを連結した。


 我々には胸の下に退化して小さくなった第2の腕がある。いつもは体にぴったりとくっついているが、モコソタンBを持つときにたまに使う。それほど力は無い。我々は生物学的には「甲殻類六脚亜門」に分類される。退化した第2の腕を入れて六脚だ。


 モコソタンBを第2腕で持ち、モコソタンAを腕に付け直す。


「モコソたーん。」オオタがニヤニヤ言った。




 《モコソ》



 我々の使っている携帯端末。その正式名称を「携帯電算端末装甲」という。

 携帯出来る電算端末で装甲でもある。様々な形が存在するが、体に張り付けるのが基本だ。

 体にフィットするように作られる。オーダーメイドだ。


 胸に付けるタイプがスタンダード。右側の裏側がディスプレイ、左側の裏側がキーボードになっている。真ん中で折りたたむこともできる。

 昔はそのまま携帯電算端末装甲と呼んでいた。


 しかしある時、製造メーカーの一社がテレビCMで「け、で、た、そ」と略称を新しく作って仕掛けた。みんなでそう呼びましょう。という戦略だ。

 だがそれが、あまりにもセンスが悪いという話が広まり、メーカーの売り上げが落ちた。「けでたそ」は広まらなかった。


 今ではモバイルコンピュータ装甲端末、略して「モコソタン」と呼ばれている。


 「モバイルコンピュータ装甲端末」が胸に付けるタイプで「モコソタンB」。ハイパワーでメインマシンだ。


 「モバイルコンピュータ装備端末アーム」は腕などに付けるタイプで「モコソタンA」。手のひらサイズで使いやすい。

 時計も見やすくスケジュール管理も手軽で、文明人の必需品だ。


 他にバイクなどに乗るときに頭に装着するモコソタンゴーグル、モコソタンバイザー。女性に人気なモコソタンネックレス。パワー自慢の男の憧れモコソタンベルト。モコソタンウイングなんて羽型の製品もあるが、飛べるわけではない。


 基本はモコソタンAB、それにゴーグルだ。そしてモコソタンは連結すると出来ることが多くなる。

 何が出来るかは製品によって異なる。

 メーカーのセット販売戦略だ。


 オオタは、モコソタンBとモコソタンA2台の合計3台を繋げた。

 そして、ニヤニヤしながら「モコソたーん。」と言った。隣のブースから警告と思われるワザとらしい咳払いが聞こえてきた。


 モコソタンは少し恥ずかしいので、一般人は「モコソ」と呼んでいる。モコソタンと呼ぶのはちょっと痛い人だけだ。



 オオタはレンガ文明考古学者だ。


 オオタのモコソには、世界各地で見つかったレンガの情報が送られてくる。

 オオタはそれをひとつひとつ丁寧にじっくりと見ていく。




 【発掘レンガ】


8601011 ヒューマンの携帯電話について 

     考古機械工学部 教授 ハマー・レトリバー


携帯電話と呼べるものは完成した。

通話は出来る。持ち運ぶこともできる。

しかし道のりは遠い。重すぎるし大きすぎる。

とてもヒューマンの使っていたような小ささには程遠いのが現状だ。

小型化の技術の発掘を切望する。

ヒューマンは技術をどこに隠したのだ。

発掘される携帯電話やスマートホンはバッテリーの腐食が酷い。

まったく構造が分析できない。

保存状態の良い物を探してほしい。




 【発掘レンガ】


9050907 豊かな生活の更なる発展を目指す 

     ロサンゼルス 生活向上委員会 ローラ・シャム


私たちはヒューマンの残してくれた技術を沢山手に入れました。

電気を使い、エアコンを使い、エンジンを使い、生活は驚くほど楽になりました。

大変だった農業は大型トラクターで行い、どこに出かけるのも車で行けます。

コンピューターは一家に1台、家計簿もラクラクです。

なんてすばらしい世界なんでしょう。

ヒューマンの技術は本当に素晴らしい。


私たちの未来はきっともっと便利になるでしょう。

生活向上委員会は、毎日ホールでパーティーを開催しています。

参加は自由です。20ドルで食べ放題、飲み放題です。


皆さんに神の祝福を。




 【発掘レンガ】


1000101 ハッピーニューイヤー 

     ビースターUS大統領 ロス・ホワイトライオン


建国100年という記念すべき日に、新年のあいさつを。

はじめに、私の先祖の昔話を。


私の先祖がこの地に初めて来たとき、大きな石の壁を見つけた。

その石には、大きな絵が描いてあった。


それはヒューマンが煌びやかな服を着て、クールにポーズを決めている絵だった。

その絵の上には文字が大きく書いてあった。


YOU WILL BE STAR そう書いてあった。

祖父は壁の文字を見上げながら思ったそうだ。


私たちBEASTでも、かつてのヒューマンのように光り輝く栄光を掴めるのだろうかと。

そして思った。


I WILL BE STAR OF THE BEAST 

そして私たちは、BEASTARになった。


私たちBEASTARの記念すべき100年目が、良い年であることを願う。

そしてヒューマンのような輝かしい歴史を築くことを願う。


神の祝福を。


PS.これは記念レンガです。




 オオタは、思いを馳せる。モコソの画面を見ながら、レンガ文明ビースターに思いを馳せる。


 1000年ほどで、彼らは地球上から消える。

 自分たちで未来を切り開けなかったビースターという種族。絶滅してしまった種族。


 地球に2番目に生まれた知的生命体。

 絶滅してしまったヒューマンに、全てを委ねていたビースター。

 「歴史に学べ」というヒューマンの言葉をレンガに刻んだのは、彼らビースターだった。


 我々は歴史に学んでいる。便利になりすぎることは、とても危険なことだ。種の退化に繋がり、種の絶滅に繋がる可能性を多く含んでいる。


 種を繁栄させ、未来に繋げ、我々は進化したいのだ。

 退化は絶対に避けなければならない。


 オオタがビースターに思いを馳せているうちに、低音特車はタクラマカンに近づいていた。アナウンスの車掌の声が「タクラマカーン、タクラマカーン」と味のある声で繰り返している。


 低音特車は坂道を登っている。スピードが徐々に落ちていくのを体が感じる。


 オオタは連結させたモコソのコードを外して収納し、腕と胸に付けなおした。そして足元に立てかけてある電動バイクの角を持ち、ヒョイと持ち上げて背中にセットした。

 中央の通路を歩き、車両を降りるために扉に向かった。歩いている途中で特車は駅に停車した。


 乗った時と同様に扉の赤いタッチパネルに手を当てると、料金が赤く表示された。料金表示を指でなぞると赤が緑に変わり、数字が「ご利用ありがとうございました」に変わった。そして音を立て扉が開いた。


 世界には言語が沢山あるが、公用語はニホン語だ。


 理由はヒューマンの映画にある。遠い過去の話だ。




  

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