第17回 アリス・エクス・マキナ

今回、ご紹介するのは『アリス・エクス・マキナ』。作者は伊吹契先生です。


近未来。『アリス』と呼ばれる、高性能アンドロイドが普及していました。15歳程度の知能と、10歳女子程度の運動能力を備えた、人間そっくりの人形。子宝に恵まれなかった夫婦の癒やしとして、あるいは家事手伝いとして、もしくは恋人役として販売されました。一体ごとの価格は高額にも関わらず、アリスは飛ぶように売れています。それに伴い、アリスの人格プログラムの改修を行う「調律師」と呼ばれる職業が誕生しました。


調律師の一人である主人公は、オーナーの依頼で運ばれてくるアリスの相手をし、日々を過ごしています。そんなある日、一体のアリスが主人公のもとを訪れました。彼女は、15年前に別れた主人公の幼馴染にそっくりの外見。最初は他人の空似だと思っていた主人公でしたが、そのアリスは幼馴染を想起させる行動をたびたび見せました。そのアリスと幼馴染にどんな関係があったのか、主人公は探っていくことになります。


前もって言いますが、本作は激しいアクションシーンや、謎の殺人事件が発生するといった、派手な演出がありません。読者は主人公を通じて、アリス達のちょっとした仕草や感情の揺れ動きを見て感じていくことになります。それを退屈と受け取る方もいらっしゃるかもしれません。ですが、本作の魅力とはまさに、アリスという存在についての、きめ細やかな表現にあります。女性型アンドロイドが登場する作品というのは、古今東西たくさん存在します。この企画でも以前、『雨の日のアイリス』をご紹介しました。本作では、それらの名作に負けないほどの武器として、アリスについての綿密な設定と丁寧な描写があります。そこから語られるのは、ときに残酷で、ときに美しい世界。人の欲望と、人の想いがアリスを形成しているのです。


高性能な知能を持ったアンドロイドは、人と同じ心を持っているのか。それは、ロボットやアンドロイドを題材とした作品で、何度となく論じられてきました。本作では、調律師という職業を通じて一つの解答を示しています。悲しい過去と引き換えに。


白河のお気に入りキャラは、アリサ。可愛らしい外見の持ち主ですが、ちょっと生意気で元気なアリスです。主人公に対して悪態をついたり、外面は良かったり、と本当に人間の少女のよう。アリスはオーナーとの関係によって、個体ごとに様々な物語を持っています。物語後半、アリサに秘められた背景が明らかとなっていくのですが、さすがにネタバレなのでやめておきます。


本作は、感情を激しく揺さぶるのではなく、じんわりと心に滲むタイプのストーリーとなっています。読み終えたとき、あなたの心に何が残るのでしょうか。

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