ファミレスに居た方がいい? 居ない方がいい?

わたしの通う女子大は豊島区とか文京区とかの近辺にある。詳細な位置情報は割愛させてください。

わたしは一応その大学の理系2年生。

詳細な学科も割愛させてください。


わたしは特に勉強熱心な学生ではないけれども、2年生ながら3・4年生に混じってガチガチ理系のとあるゼミに参加している。


「つまりレイナは猫が嫌いってことね」


3年生のサナさんが脈絡なく突然わたしに振ってきた。ランチの時の雑談をゼミの真っ最中に放り込んでくるなんてこの人にしかできない芸当だ。わたしは注目する先生やゼミ生に端的に答える。


「はい、嫌いです」


ゼミが終了してもサナさんとわたしは行動を共にする。バイト先のカフェでの同僚だからだ。


ついでに言うと、家賃10万円の物件をシェアするルームメイトでもある。


「レイナ。実はわたし夕べ銃声聞いたんだよね」

「え?」


バイト中にいつものごとくおしゃべりをしてくるサナさん。お客さんに注意を払いつつもあまりにもあっけらかんと言うサナさんの言葉に耳が行ってしまう。


「レイナが、がばっ、て感じで跳ね起きるからそっちに気を取られてそのまんまにしてたけど、パン、っておもちゃみたいな音でさ」

「車のパンクとか」

「いや。違うね、あれは」

「ニュースでうちの近所の通報って言ってましたっけ」

「ううん。全部違う場所だよ。もしうちのもカウントするしたら全部で4件か」

「ひょっとしたらもっとあるんじゃないですか?」

「かもね。ずっと前にさ、空から魚が降ってくるってニュースあったじゃない?」

「ええ。確か鳥が獲った魚を飛んでる途中で落としちゃうっていうオチでしたよね」

「そうそう。わたしなんか府中の辺りの神社にお参りした時、目の前にぼとっ、て魚が落ちてさ。木の上見たらアオサギの巣で鳥がいっぱいギャーギャー鳴いてたよ」

「府中の神社に1人で行くサナさんの方がミステリですよ。これもそういう類ですかね」

「ね。調べてみない?」

「嫌、です」

「うわ、即答」

「だって、前も『口裂け女探そう』って乗せられてフラフラしてたら逆にわたしらがストーカーに目をつけられたじゃないですか。夜中に出歩くなんてもう、嫌です」


結局サナさんに押し切られた。

先輩ヅラして高圧的になる訳じゃないのにこの人の言動には奇妙な強制力がある。

バイトが終わった後一旦マンションに戻って仮眠した後、『こっちら辺』とサナさんが言う方向にある近所のファミレスに陣取った。


「ふふ。楽しいね、レイナ」

「全然」

「またあ。ノリが悪いねー」

「サナさん、肝試しのノリでしょ」

「そうだよ」

「小学生じゃあるまいし」

「せめて中学生って言ってよ」

「50歩100歩ですよ。大体ほんとに夕べも銃声がしたんならみんな気づくでしょ」

「お客が全員イアフォンで音楽聴いてたとか」

「スタッフも?」


不毛な雑談をしている内に段々眠くなってきた。先輩の前だけれども腕組みをして無意識の内に就寝モードに入る自分を意識した。


・・・・・・・・・・・・・・・・


ああ、昨日の夢の続きだ、と自分でも認識できた。


認識してデジャブのようなその光景を肯定してはならないと強く思考してるのに、思うようにならない。

周囲を見てはいけないという意思がことごとく無視される。


見ようともしないのに、左の目尻の視界に猫の集団が入ってきた。欠伸してるのもいる。


墓標の前をなんとか回避しようとするけれどもできない。唯一できそうだったのが、しゃがみこんで目を閉じることだった。


『お願い!』


立ち上がるのではなく、へたり込むのに全筋力を使う行為を初めてした。努力の甲斐あってわたしは地べたに足を投げ出せた。


パン!


「レイナ、行くよ!」

「え? え?」


恐怖によってか、銃声によってか分からないけれども、わたしが目を覚まして最初に見たのはサナさんのアップだった。

銃声が夢の中なのかと思ったけれども、サナさんがこう言っている以上、現実なのだろう。

もう一度サナさんが言った。


「行くよ!」

「やだ、行きたくない!」


わたしは小さな子供のように抗った。


だって、周りの席のお客はイアフォンなんかしていない。

なのに誰も銃声を気にしてない。


外に出て行ったら、良い事が起こる訳がない。


サナさんは諦めて席を立ち、わたしを残して端数ぴったりのお金を無人のレジにじゃら、っと放り、店の外へ駆け出した。


どっちがいいんだろう。


サナさんと一緒に居ないことの不安の方が優った。


わたしも店の外へ駆け出した。

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