虚実混淆百物語

@strider

ジャンル別、百物語

人気作・自信作

第18話 記念写真

 部屋の壁に貼ってある写真を見て、和浩は違和感を覚えた。

 何かがおかしい。そんな気がした。

 夏休みに物好きな友人たちを集めて、和浩はS県の心霊スポットめぐりツアーをした。参加者は男ばかりだったが、大学サークルみたいなノリで楽しかったのを覚えている。

 壁に貼ってあるのはそのときの記念写真だ。全国的に有名な心霊スポットであるKトンネルの前に、みんなで並んで撮影した。

 和浩は背筋が冷たくなっているのを感じながら、写真に顔を近づけた。

 違和感の正体はすぐに判明した。写っている人数だ。写真には和浩を入れて九人の男が並んで立っていた。

 そんなはずがない。あの旅行にはたしか……。

 旅行に行った人数を思い出そうとしたが、頭の中に靄がかかったかのように、数字が思い浮かばない。旅行をしたメンバーの顔を思い出そうと試みたが、自分を除けば八人分の記憶しかない。

 だが、旅行に参加したのが九人でなかったのだけは確かだ。

 ホテルに泊まった際、部屋数の都合で和浩たちはツインの部屋を利用していた。

 二人一組で泊まり、余りなく割り切れていたはずだ。だから、参加人数は偶数になるはずなのだ。

 友人に電話をして、旅行のことをたずねた。すると友人も不思議そうな声を出した。

「たしかに人数は偶数だったはずだよな。でも、他に誰かいたっけ?」

 どんなに話し合っても、他の参加者については思い出せなかった。

 通り抜けると帰ってこられなくなるとも言われているKトンネル。そのトンネルを和浩たちは往復し、写真を取った。あのときには、たしかに全員そろっていたはずだ。三脚を使い、オート撮影をしたから、一人が撮影者という訳でもない。だが、何度数えても、写真には九人しか写っていない。

 違和感は増していく一方だったが、和浩は考えるのを止めようと努力した。

 参加者は初めから九人で、一つの部屋は簡易ベッドでも使って三人で利用していたのか、一人がシングルの部屋に泊まるかしたのだろう。背筋がゾクゾクするのを感じつつ、和浩は自分にそう言い聞かせ、写真から目を反らした。

 翌日になると、違和感はなくなっていた。昨日あれほど気にしていたのが嘘みたいに、写真が気にならなくなっていた。

 だが、更にその翌日には、また違和感が襲ってきた。

 旅行には七人で行ったはずだ。だが一方で、二人一組で宿泊したのも覚えている。だとすると一人が余ってしまう。そんな矛盾が気持ち悪くて仕方なかった。

 写真に違和感を感じる日と、感じない日が何回か繰り返された。

 朝起きたら最初に写真を見るのが和浩の習慣になっていた。

 写真には友人と和浩が並んでピースをしている姿が映っていた。

 夏休みを利用して、友人と男同士で二人旅をした記憶がよみがえってきた。

 S県中の心霊スポットをめぐり、二人でツインの部屋に泊まり、最終日にKトンネルに行った。そして、トンネルを往復してから、トンネルの前で写真を取った。

 写真の中央に和浩が、左端に友人が、妙に離れて立っている。まるで間に誰かがいるような不自然な空間があった。オート撮影をしたせいで、変なタイミングでシャッターが切られてしまったのかも知れない。だが、それにしては二人とも、ちゃんとカメラを向いてピースサインを決めている。

 和浩は奥歯に物の詰まったような気持ちの悪い違和感を覚えながらも、写真から目を反らした。

 翌朝、和浩はまた写真を見た。

 写真には和浩が写っていた。

 大きな写真の中央に、ぽつんと一人きり、満面の笑みでピースサインをしている。

 これは絶対におかしい。

 和浩は確信を持った。

 一人きりで旅行をしていたような記憶はあるが、思い出の中の和浩は、絶えず誰かと話している。少なくとも一人は話し相手がいたはずだ。

 そもそも、和浩は旅行の計画や段取りをしていない。それに、車の免許がない和浩には、交通の便が悪いS県を周遊して、Kトンネルに行くのは不可能だ。一人きりでツインルームを予約する理由も分からない。

 S県を一人で旅行していた記憶がある。だが、細かなつじつまが合わない部分が多い。

 けれど、どんなに考えても、一緒に旅をした仲間のことは思い出せなかった。

 分からない。不快な違和感は膨れ上がっていくが、うまく整理ができない。

 嫌になった和浩は写真から目を反らした。

 また、明日考えよう……。

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