4-8 決勝戦 その2 大ピンチ

試合が始まった。シャーロットとクリスティーナが前衛、カレンが後ろにいる。


相手は3年生。実は去年の優勝チームだ。女性が三人。その内一人がシャーロットに、更に一人がクリスティーナに向かってきた。向かってきた2人はそっくりだ。たぶん双子なのだろう。


「一人で来るなんて、私を甘く見ていますわね!」

「到着前に魔法で吹き飛ばしますわ。」


そう言って、シャーロットはメガネをかけ、クリスティーナは魔法を構築しようとした。すると、二人の前に突然白い煙のようなものが現れた。


「きゃ!なんですのこれは?」

「前が見えません!!」


残っていた一人は魔法士だ。彼は二人に霧の魔法を使ったようだ。簡単な魔法なので、魔法構築に時間は不要であり、一瞬ではあるが目くらましに使える。


この一瞬の、霧が発生している間に、相手選手は彼女たちに近づいていたのがわかった。


霧が晴れて、二人の姿が見えた。


「あ、メガネがありませんわ!」

「私の目薬が無いです!!」


なんと、二人から大切なアイテムが消えた。相手を見ると、その手にはメガネと目薬がある。


「やはり、このアイテムが重要だったんですね。」

「全ての試合を見て、そうじゃないかと思ったのです。これが無いと、きっと戦えないのでは?」


やられた!シャーロットとクリスティーナに向かってきた女性二人はシーフだったのだ。騎士団で学ぶのは別に剣士ではなくてもよい。シーフだっていてもおかしくない。


「これでは、剣が当たりませんわ!」

「魔法が一定時間しか使えなくなってしまいました!」


そう二人が動揺していると、相手の二人のシーフは、彼女らの隙をついて懐に入り、闘技場の外に向かって投げた。投げ技も出来るのか!


「キャー何するの?」

「投げなんて、されたことないです!!」


シャーロットとクリスティーナは場外に落ちた。リタイアだ。会場は大きく沸いた。


「なんてことだ・・・」


僕はショックを受けた。どうして相手がシーフだと気が付かなかったのだろう。

そういえば、相手の試合、一度も見ていなかった。どんな選手かも前もって確認していなかった。調べていれば対策もあったのだろうに、完全に僕の作戦ミスだ。そして、相手はさすが3年生で去年の優勝者。僕らの弱点など調査済みなのだ。


「もう、終わりだ。」


闘技場にはカレンしかいない。当然カレンは攻撃なんて出来ない。


「もうしわけないが、負けの報告をしよう。」


僕は闘技場を見た。カレンはうずくまっている。


「カレン、もういいよ。僕たちは負けだ。」


そう声をかけたが、カレンは動かない。


「カレン、どうしたの?」


カレンは何かつぶやいている。


「おーい、カレン、大丈夫か?」


よくよく見ると、彼女は巻物を手に持って見ている。


「ハチベエ、カレンに巻物を渡した?」

「いえ、私はたすき掛け用の紐しか渡していませんよ。。。あ、篭の中に、巻物が一つ入っていません。もしかしたら、紐に引っかかっていたのかも」

「因みに、入っていなかった巻物は何?」

「え~と、移身の術ですね。」

「移身の術?!」


僕とハチベエは顔を見合わせた。そして、一緒にカレンを見た。

カレンの髪の色が黒からだんだんと紅に変わってきた。


「もしや、ついに現われましたか?」

「どうしてこの土壇場に?」

「分かりません・・・」


完全に髪の色が紅に代わり、カレンは立ち上がった。


「おい、あなたたち、私の仲間に楽しいことしてくれたじゃないの!」


出た!ミーアの時に出たあの人だ。その立ち姿は、途轍もないすごみがある。


会場は、そこに魔王でも現れたかのような圧倒的な雰囲気に、しーんと静まり返った。

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