第6話

「……ただいま。」

放課後、奏太はどこにも寄らず自分の家に帰った。


今頃椎菜と加奈は、お祭りを楽しみにしながら浴衣に着替えているところだろう。


だが奏太はいつにも増して機嫌が悪かった。


そもそもお祭りの雰囲気は好きだが、人混みが苦手なのだ。

椎菜や加奈、周りの同級生達にとって大事なイベントであっても、奏太にとっては割とどうでもいい。去年も椎菜と加奈につきあって行っただけだった。だがしかし今年は、つまらぬ意地を張ったせいで椎菜と花火を見る機会を失った。ついでに確実に椎菜狙いの男と一緒に椎菜を行かせてしまったのだ。今日の奏太の機嫌が良いわけがなかった。


「おかえり。 機嫌悪いわね、なんかあったの?」


「……姉ちゃんには関係ない。」


姉と話す気分でもなくぶっきらぼうに返事をした。


「ふーん。別にいいけど、冷蔵庫にプリンあるから食べて良いわよ。」


途端に奏太の目の色が変わる。

奏太は大の甘党なのだ。

先ほどまでのモヤモヤした気持ちも吹き飛び、奏太は冷蔵庫へ向かった。


「うわ! これ俺の好きなやつじゃん! いただきます!」


すぐにスプーンも用意して、奏太はプリンに食らいついた。


「うまっ! 」


「本当に甘いもの好きよね。ついこの前、アイス食べたとか言ってなかった?」


「それはまた別だから! ってかどうしたんだよ、いつもなら頼んでもくれないくせ……に…。」



そう言ってから奏太は、その答えに行き着いた。


「あ! お前、まさか!」


「お姉様とお呼び、この愚弟。 もちろん食べたからには言う事聞いてもらうわよ。」


「汚っ! 最初に言えよ!」


「言ってたら話聞かないでしょ? 私は無償であげるなんて言ってないもの。」


「……鬼。」



もちろん身体的には奏太の方が大きいのだが、奏太は小さい頃からずっと姉には何故か勝てない。


「で、用件は?」


「花火大会、二人で行くわよ。」


「……は?」


「一緒に行くはずだった友達に突然彼氏ができたのよ。でもせっかく浴衣買ったから、お祭りには行きたいのよ。」


「……。」


「なに、嫌なの?」


「いや、どこかで聞いた話だと思って…。」


姉の理由が椎菜の理由とそっくりである。


「その話流行ってるのか…?」


「なに意味のわからない事言ってるのよ。 で、どうするの? 行く?行かない?」


姉は一応質問はしているが、奏太に選択権などない。断ったらどうなるのか、嫌という程わかっているのだ。


「別に行くのはいい。けど姉ちゃん、彼氏どうするんだよ?いるよな?」


「あんなやつ、振ってやったわよ。」


「……ちなみになんで?」


「浮気したから。 別れる時に両頬叩はたいてやったわ。 でも私の手も痛くなったからもう絶対にしないわ。 って、その話はどうでもいいのよ。 とりあえず私の準備が終わったら行くわよ。」


そう一方的に言い放ってから、姉は自分の準備に戻っていった。


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