第4話

花火大会当日。



「花火大会って何時からだっけ?」


「夜8時からだから、放課後家に帰って浴衣に着替える時間は十分にあるよ。」



イベントが大好きな女子2人は、まだ朝なのに花火のことしか頭にないようだ。


「浴衣着てくの?」


微妙な顔をして奏太が聞く。

それにいつものように椎菜が不満顔で答える。


「何よ、どうせ似合わないとでも言いたいのー!?」


「……そうだな。馬子に衣装になりそうだな。」


「ひどっ!」


実際は、椎菜が浴衣姿で他の男と会うことに嫉妬していたのだが、奏太のその内は椎菜には伝わらない。


そんな時、廊下から椎菜を呼ぶ声に2人は気づいた。


「椎菜さん!」


「あ、原くん! おはよー! どーしたー?」


笑顔で駆け寄る椎菜に、原もまた柔和な笑顔を向ける。奏太だけが不機嫌だ。


「椎菜さんおはよう! 椎菜さん一回家に帰るって言ってたから、集合場所とか時間とか決めようと思って。」


「あ、そっか!そーだよね、考えてくれてありがと!」


「場所なんだけど……」




仲よさそうに話す2人を見ていられず、奏太は教室の扉付近から目を逸らす。



「今更後悔したって遅いのに。」


加奈が奏太に声をかける。


「わかってるよ。」


「あー、もう!あの時なんで意地張っちゃったのよ! 椎菜の誘いに乗れば良かったじゃん!」


「加奈が言ったってしょうがないだろ?」


2人が言い合っている間に椎菜が返ってきた。


「なんの話ー?」


「今日の授業の話だよ、そっちは?予定決まった?」



2人の間にあったやり取りを知らない椎菜は、先ほどの原との会話について嬉々として話し始めた。


椎菜の話を聞きながらも奏太はまた困ったような顔をし、加奈はそんな奏太に腹を立て、不満な表情かおを向けた。






「お待たせー!遅れてごめん!」


「いや、僕も今来たところだから。」


待ち合わせの7時半ぴったり。

有名な待ち合わせスポットの前で2人は集合した。花火大会のせいかいつも以上に待ち人で溢れている。


「それより浴衣姿いいね、よく似合ってる。」


「ほんと!? ありがと!」


普段から奏太と一緒にいるので、久しぶりに聞いた男子からの褒め言葉に照れた。


「いつも奏太そんなこと言ってくれないから、めっちゃ嬉しい!」


「奏太くん? あ、椎菜さんがいつも一緒にいる男子?」



会場へ向かう間、なぜか奏太の話題で盛り上がった。


「奏太くんは凄いよね、運動神経良いし、みんなから慕われてるし。カッコいいよ。」


「えー、そんなことないって! 普通に成績悪いし、 いつも騒いでるし!しかも私のこといつもバカにしてくるんだよ!」


「ははは! 2人は本当に仲良いね。」


「そうかなぁ…。」


「あ、屋台見えた! 行ってみよっか。」


「うん!」


沢山の屋台と沢山の人々ですでに会場は騒がしかった。

眩しい光景に椎菜は興奮していたため、原の少し曇った表情かおに気づかなかった。


「……僕の入る隙はもう無いのかな。」

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