第13話 高杉との対立

 僕が剣道部を告発するこの計画を立てた時、心の中で不安な思っていたことが主に三つあった。

 一つ目はこの事件の噂がうまく広まってくれるかどうか。これはやってみないと分からなかった。それに実際やってみた結果、宏樹の知名度や舞の頑張りのおかげで、予想以上に広まってくれた。

 二つ目は、宏樹が倒れた姿を見た人がちゃんと飛び降りたと思ってくれるかどうか。これもうまくいったようだった。これは光太郎の発想のおかげである。

 そして三つ目は、剣道部二年の高杉が僕たちの邪魔をしてこないか、ということだった。


 元々彼は僕のことを嫌っていた上に、宏樹の飛び降りの話を聞いて、真っ先に僕を疑って探しにきていた男だ。二時間前の僕はそんな彼に剣道部をぶち壊したと責められて、走って逃げる羽目になったのだ。タイムトラベルで戻った僕の方にも来て、計画を邪魔されるかもしれないと不安に思っていた。今回も二時間前にやったように、うまく逃げられるとは限らない。

 熱心な剣道部員ということもあって、彼に文句を言われるのは当然なのだが、僕も彼のことが苦手なため、なるべく対立は後回しにしたいと考えていた。


 しかし今の僕の状況は、計画を立てた時の僕とはまるっきり違う。この光太郎とのタイムトラベルがどんなものか理解した僕は、嫌々ながらも彼との対立を後回しにはできなかった。


 何故、二時間前の僕は追ってくる高杉から無事に逃げ切れたのか。普通に考えると、帰宅部で運動不足気味の僕が、厳しいことで話題の剣道部の練習に励んでいる高杉から逃げ切れるはずなんてないのに。なぜ彼は僕を追うことを諦めたのだろうか。

 二時間前の僕は、彼が何か用事を思い出したのかと思った気がする。しかし、僕のことが大嫌いな彼が、剣道部をぶち壊した僕を追う以上の用事なんてその時にあったのだろうか?いや、きっとない。

 そう考えると、答えは明白だった。今の剣道部が大好きで僕のことが大嫌いな高杉が、僕を追うことを諦める理由なんて、僕に追いつくしかないのだ。二時間前の僕は、きっと二時間後の僕、つまり今の僕に助けられた、ということだろう。


 もしそうなら、今の僕は二時間前の僕を無事にタイムトラベルさせるために、高杉を引きつけないといけない。正直やりたくはなかったが、僕と光太郎が宏樹を助ける未来に繋がるためには、それしか選択肢はない。


 下の階の僕と高杉の会話が一通り終わり、彼らが走り始めた音がしたところで、今の僕も階段に向かって走り始めた。近くにいた光太郎は驚いていたが、すぐに走って追いかけて来た。


「急に何?」


 走りながら光太郎が僕に聞いた。


「高杉を引き留める」


 階段の手前で止まって、二時間前の僕と高杉が来るのを待ちながら、僕は答えた。


「高杉さんを?何で?」


「僕だってやりたかないけど、やらないと過去が変わってしまうから」


「過去を変えるために、タイムトラベルしたんじゃん」


 光太郎は自分で僕をタイムトラベルさせておきながら、未だに何が起こっているのか理解していない様子だった。


「後で説明するから、今は黙って話を合わせててくれ」


 僕はなだめるように彼にそう言って、二時間前の僕たちを待った。


 少しすると二時間前の僕が走って来た。僕は隠れて彼が通り過ぎるのを見届けた後、階段の最上段の真ん中に立ち高杉を迎えた。


「高杉、 こんな馬鹿な追いかけっこはやめて向こうで話さないか?」


 僕は怒っている彼を一人で何とかできるか不安だったが、平静を装って言った。


「あぁ、けど逃げ始めたのはそっちだろ」


 その言葉を聞いた僕は、ついさっきまでいたコンピュータ室に戻って彼と話すことにした。


つづく

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