塔の番人?

 四番目に紫色の種の花が咲いた。その花は一部の動物達に理性を与え採集と狩りを覚えさせた。

 五番目に赤色の種の花が咲いた。その花は火を与え動物達にそれを活用するための知識を与えた。

 六番目に空色の種の花が咲いた。その花はその地に天候の変化を動物達にその知識を与えた。

 唐突に虚無から黒い花が咲いた。黒い花は動物達に悪意や害意を与えその地に不幸をもたらした。


             創世記第一章より


 ********


 八人は食事を終え、塔へと向かう準備を始めた。とはいえ、皆それぞれ小さなカプセルをバックやポケットの中から取り出しただけだが。

 それぞれ思い思いに握りしめ、力を入れてカプセルを割る。すると、手。いや、割れたカプセルから煙が出てきた。やがて煙が四散するとその手にはそれぞれの得物が握られていた。今それぞれが割ったのは戦士用に改造されたマジックカプセルである。

 ふと、キョロキョロと辺りを見渡したアルマスが疑問の声を発した。


「ここってなんで黒花獣が来ないんだ? 俺のとこのはそこらにごろごろいるのに」

「ここの黒花獣は統率のとれた動きをするからな。襲ってくる時は大体集団で来る」


アリサがその声に答える。そして、皆が準備できたのを見て頷くのを見てレオンが皆に呼びかける。


「じゃあ気を引き締めて行くか」

「確かに、塔に来てとは言われたけど何があるかわからんからな。失念してたわ。うん、それじゃあ行くか! ……どうやって中に入るんだ?」


 アリサ以外の戦士たちは膝に力が入らなくなってこけかけた。リリアの全力のツッコミが入る。


「知らないのに何で仕切ってんの!?」

「なんとなくだよ?」


 更にアリサ以外の戦士達は足に力が入らなくなった。いや、シャルロッテのみ腹を抱えて笑っていたが。


「あー……俺が知ってるよ。白い人に教えてもらった」


 アルマスが呆れた声で言った。塔の外壁の目の前に立ち、呟き始める。誰もが知っている伝承。白き塔の伝承の始まりの部分を朗々と唱えた。


「……世界は希望を取り戻し平穏を手に入れる」


 唱え終わると、壁の一部がへこんだ。そのまま壁は上に向かって引っ込んでいき、自動ドアのように中への入口が開かれた。


「……なんというか、今までどうやって開けるのか学者達が必死に調べてた割に随分と簡単な方法で開くのね」


 ゼルレイシエルが率直な感想を述べると、皆が頭を縦に振った。少しばかり重い沈黙が流れる。


「ま、まあ行こうかぁ」


 若干気まずそうな声でリリアが促した。一応、安全確認を行った後に塔の中へと入っていった。


 ◆◇◆◇


 塔の中は外壁が煉瓦になっていた。床も煉瓦で覆われていてただの塔にしか見えないのだが、普通とは違う所があった。明らかに古い外壁なのに煌々と燃え続ける壁の蝋燭。そして薄暗がりの中でも灰色ではなく、純白として目に映る螺旋階段。


「階段があるってことは登れってことなんでしょうか」

「だろうな。そうじゃない方がおかしい」


 塔の中に入った戦士達が意見を出し合っていると、急に近くからドンッという鈍い音が聞こえた。


「なんだ!?」


 一斉に武器を構え、各々が周りを見渡す。


「あ!? 入口が塞がってる! 敵に嵌められたんじゃねぇのか!!」

「まだ、わかんないよ。取り合えず状況確認を…!? って上ぇ!!」


 リリアが上部に異常を察知し散開するように叫ぶ。戦士たちは一斉に頭上を見た後、すぐにその場から散開した。

 戦士達がいた場所、一階の中心部分に大きな塊が落ちてきたのだ。


「なんだこれ……岩? いや、ゴーレムか!!」


 即座に体を反転させ落下してきた物を見たレオンが叫んだ。

 落ちてきた物体が蠢く。塊の下部分が動き、四本の石柱が姿を現す、石柱は中途で曲がりその中心部分を支えた。中心部分も円柱の形になっており、その片方の端で球体が動く。球体には丸い円が掘られており動きも合わせて目玉に見える。

 一つ目の、口や鼻の無い出来損ないの獣のような風貌をしていた。


「登る前に……こいつを倒せってことか?」

「そうかも、しれないわね」

「……じゃあぶっ壊してや、……ッ!!」


 血気盛んなマオウの言葉に、頷くように反応するゼルレイシエル。マオウが攻撃を仕掛けようとした瞬間、一つ目のゴーレムはその奇妙で無骨な見た目に反する、異常な速度でマオウに攻撃してきた。だが、彼らのような一流の戦士には十分目に映る速度であった。

 しかし、完全に意表を突く速度であったため、行動が一歩遅れ、攻撃を受け止めるしか無かった。


ガキン!


「……!? ミスリルの武器が折れただと!?」


 マオウはハルバードの刃の腹で攻撃を受けた。ハルバードは防御に向かない武器であり、代わりに多種多様な攻撃方法を持つ武器である。

 それでもマオウの得物は最硬度の金属であるミスリルでできているため、生半可な攻撃では傷一つ付けられない。それが折れ曲がったというのだから相当な硬さの物が、かなりの運動エネルギーを持ってぶつかったのだとわかる。異常な筋力を持つマオウ自身はなんらダメージはないようではあるが。


「ミスリルって……さすがは、金の亡者の古龍族だな!!」


 嘲笑と焦りが交じったのセリフを言ってバトルメイスをゴーレムに叩きつけるレオン。しかし、その攻撃は難なく弾かれてしまう。マオウがそんなレオンの姿を見て嗤う。それを見たアリサが、


「分が悪い! 何があるかわからんが、上に逃げるぞ!!」


 ◆◇◆◇


 皆、螺旋階段を延々と上り続けている。止まることなく。その止まれない理由、それは、


「なんで、アイツはずっと追いかけてくるのよー!!」


 後ろからあのゴーレムが階段を駆け上がって追いかけてくるからである。


 ガッガッガッガッガッと。


 しかもそれが早すぎず、それでいて遅すぎないスピードで追いかけてくるというのが始末におえない。さらに攻撃を仕掛けてくるわけでもなくただただ追いかけてくるのだ。精神的にも肉体的にも負荷が凄い。リリアから悲鳴が上がる。


「はあ、はぁ……。ま、マロン、あの絨毯、出せないの……?」

「ごめんなさい、何故か魔法が使えないんです…! 魔法が使えないことには…」


 体力が一番無いゼルレイシエルがマロンに息も絶え絶えな状態で尋ねる。そして返ってきた言葉に青い顔をした。


「き、キツイ……あ! 平らなとこが見える!」


 リリアが指さしたのは階段の終わりだった。まだ、廊下なのか広間なのかわからないが変化が起きたことは確かである。いの一番にシャルロッテが前に出て突っ走る。


「うおぉぉぉぉ!! 階段終わり! とうちゃーく!!」

「……ここは、廊下? ……扉があるぞ!!」


 アルマスの言葉に七人は一点を見た。細かい彫刻の施された石造りの巨大な扉。八人は手早く扉周辺の安全を確認した後、扉内部に武器を構えて突入した。


 バン!


 大きな音を出して開かれる外開きの扉。その内部は今までの塔の面積からすると広すぎる大広間だった。左右にそれぞれ四つの穴が開き、正面に二つの何かが置かれている。


「はあ、はぁ。……ここは……? ……そういえばゴーレムッ!!」


 一番最後に到着したゼルレイシエルが不思議そうな声を出した後、即座に両手に握っていた拳銃を扉の外に向ける。

扉の外を向くと、ゴーレムが器用に扉を閉めようとしていた。


「ま、待て!」


 レオンが叫ぶが意に介さず閉めるゴーレム。彼らの中で一番膂力のあるマオウとそのマオウに次いで膂力のあるリリアが協力して扉を押すが、ビクともしない。八人は動揺しつつも冷静に状況を判断し始めた。


「この広間に何かあるってことかな?」


シャルロッテがそう呟く。その言葉に全員がゆっくりと首を縦に振り、罠があったりしないかを確認しながら広間の探索を始めた。


 広間の入口から見えた右側の四つの穴にはそれぞれに台座に乗った石造が置いてあった。


「なにしょうこれ? 人間……体に模様……魔法使い族でしょうか……」

「これは……吸血鬼か?」

「トカゲ……? ドラゴンか」

「なにこれちっちゃい。小人? あ、妖精だ。羽生えてる」


 そして、前方の二つの影。


「何も乗っていない台座が二つ……?」


 そして、左奥から入口側に向かって残りの四つの穴を見る。


「髭面の背の低い人型の生き物。ドワーフか?」

「でっか!? 何このデカい人型のやつ。巨人!! でっかいどー!!」

「いn「狼な」アッハイ」

「耳の尖った人……エルフか」


 結局、全部で8体の石造と二つの台座があった。石造は、魔法使い・吸血鬼・ドラゴン・妖精・ドワーフ・巨人・狼・エルフの八種類だった。レオンが推理をするように武器を持つ左手とは逆の右手で口元を覆う。


「……俺たちのそれぞれの種族を現してるって線で間違いはなさそうだな」

「それぞれがその石造を調べてみるか? そういうことだと思うが」

「……そうだな。そうしよう」


 マオウの提案を聞き、アリサが散開を促す。彼らは別れて調べることにした。ジッと見たり、石造を触ったり、そして裏側から見てみたりした。すると、


「ねえ? なんか、台座の後ろに赤い水晶みたいなのがあるんだけどー!」

「俺のとこには紫のやつがついてるぞ!」

「吸血鬼のところは青いのがあるわね」

「皆、違う色のがついてるんだな。……他に怪しいところはなさそうだし、触れて反応あるかとか確認してみるか!」


 レオンが言うと、皆がそれぞれの球体に手を伸ばした。

 そして皆がそれぞれのものに触れたその瞬間、広間の中央で眩(まばゆ)いばかりの閃光が弾け、八人の視界は白く染まった。

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