第5話 事態の収束と昼休みの終わり
意気投合した2人は、マイルの言葉を信じて取り敢えず思うように行動してみる。具体的に言えば、自分は物語のヒーロー、ヒロインだと暗示をかけ、そのように行動出来ると思い込み、思いっきり踏み出したのだ。
軽くジャンプしたはずが一気に10mほど飛び上がれた事で、この行動が間違いでなかった事を健吾は確信する。その様子を見てすぐにりあも後に続いた。
「こりゃすげえ!」
「ニチアサアニメの主人公みたい!」
「俺、男だけどな!」
こうして自分達が超人的な力を手に入れたと実感した2人は、目の前の暴走するチートキャラに立ち向かっていく。
まずはその気になったロングコートの健吾がスーパースピードを発揮して、光の速さでスーパーエレクトロに殴りかかった。
「うりゃあああ!」
しかし次の瞬間、スーパーエレクトロは生みの親に対して先制攻撃を仕掛けてきた。
「ふおおおおおおおお!」
その攻撃のモーションを見て、避けるしかないと判断した彼はすぐに回避行動を取り、ギリギリで放たれた電撃を回避する。
「おっとぉ!」
一度攻撃を放てば隙が出来る。そんなバトルキャラのお約束はスーパーエレクトロもまた踏襲していた。その僅かなチャンスにバトルヒロインと化したりあが必殺の一撃のパンチを打ち込んだ。
「でりゃあああ!」
この攻撃がクリーンヒットしてスーパーエレクトロは悲鳴を上げながら吹っ飛んでいく。
「ぐおおおーっ!」
「やるじゃん! じゃあ俺も!」
彼女の攻撃でダメージを受けている様子を目にして、後に続けとばかりに健吾も攻撃を仕掛ける。地上で一旦体勢を整えると、もう一度ジャンプして空中で思いっきり腕を振りかぶった。
「たりゃあああ!」
しかしその攻撃は察知され、健吾が伸ばした拳は豪快に空を切る。攻撃が失敗した悔しさに思わず言葉が出てしまう。
「くそっ!」
「ふひひひひひ!」
攻撃を避けられた彼が回避した自作キャラを見上げると、そいつは生みの親を馬鹿にするように笑っていた。この態度に彼は気を悪くする。
「俺の作ったキャラなのに! 生意気だぞ!」
「ふおおおおおおおお!」
暴走するスーパーエレクトロはここで手当たり次第に攻撃を開始した。無差別に放たれる電撃を2人は紙一重でかわしていく。
「当たるかっ!」
余り戦闘を長引かせる訳にはいかない。こうしている間にもスーパーエレクトロの体の黒さはどんどん濃くなっていく。タイムリミットが刻々と近付く中、暴走する彼は無差別に電撃を放出し続け、2人に中々近付く隙を与えなかった。
お互いが別々に物陰に潜んでチャンスを伺っていると、攻撃を一度成功させているりあが嵐のような電撃をうまく避けながら健吾のもとにやってくる。
「健吾君! 一緒にやろう!」
「分かった!」
意気投合した2人は一か八かの賭けに出た。タイミングを図って同時に飛び出すと、攻撃を避けずに敢えて一直線に向かっていく。気合を入れた2人の回りにはバリアのようなエネルギーフィールドが形成されて、飛んでくる電撃を次々に中和していった。
これなら勝てると直感で判断した2人は、すぐに攻撃のモーションに入る。
「スーパー……」
まずはそう健吾が叫ぶ。
「ギャラクティカー!」
次にりあが叫ぶ。
「「キィーックゥ!」」
最後に2人は声を揃えて同時にキックを放った。避ける間もなくこのW攻撃を受けたスーパーエレクトロは、身体に耐えきれないほどのダメージを受けて絶叫する。
「ふごおおおおおおおおお!」
次の瞬間、暴走していた彼は大爆発を起こした。爆風が収まるとそこにもう厄介な暴走被造物の姿はない。こうして最後の暴走キャラも2人の協力プレイによって姿を消したのだった。
作戦が成功して気分が高揚した2人は、申し合わせたようにハイタッチをして笑顔でこの勝利を祝う。
「やったぜ!」
「いえーい!」
そんな喜び合う2人を見たマイルは満足気にニッコリと笑う。
「ふふ、初めての共同作業ってやつね」
こうして暴走キャラはいなくなったものの、キャラ達がやらかした破壊の痕跡はあちこちに残ったままだ。
この後始末をどうしたらいいか、コスプレ姿のままの2人が頭を悩ませていると、マイルがすぐ側までやってきてニコニコと笑いながら声をかけてきた。
「お疲れ様。こうなってしまったのはこの次元に私がステッキを落としたせいでもあるし、後始末はやっておくよ」
「本当? 有難うマイル」
その後、彼女はもう一度ステッキを振って2人にかけた魔法を解除する。りあは残念がっていたものの、健吾は元の服装に戻ってほっとしていた。
何の力もない者が現場にいても仕方がないと言う事で、マイルはすぐに人払いをする。
「ささ、リア充なお2人さんは帰った帰った」
「な、違うって」
顔を真赤にしながら否定する健吾を見たりあは少し残念そうな顔をする。
しかし、その彼女の表情の変化を彼が認識する事はなかった。
こうして全ての出来事が終わった時、ちょうど昼休み終了のチャイムが鳴る。マイルが建物などの修復と同時に生徒達の記憶までちゃんと修正したのか、昼休みのあの混乱を覚えている人はひとりもいなかった。
なので2人もその事は口に出さず、何事もなかった体で午後の授業に溶け込んでいく。
その日の放課後、帰り道で2人は偶然ばったりと出会ってしまい、お互いにぎこちない雰囲気になった。同じ方向に道を歩きながら、どちらからも話しかけられずに奇妙な沈黙の時間は続く。
10分くらいそんな状態が続き、耐えきれなくなった健吾が先に口を開いた。
「えっと……今日はひどい目に遭っちゃったな。最後は結構面白かったけど」
「あの……さっきの話の続きなんだけど」
「えっ?」
色々あったせいで、そのさっきの話と言うのをすっかり忘れていた彼はりあの言葉にドキリとする。この言葉に特に何も思い当たる節がなかったため、頭の中で様々な会話のパターンが生まれては消えていく。
思わせぶりなその言葉に健吾が翻弄されまくっていると、意を決した彼女が突然声を上げた。
「ずっと前から作品が好きでした! サインください!」
「あ、作品ね……」
その言葉を聞いた彼は拍子抜けして肩の力を落とした。予想外の言葉にしばらくぽかんとした表情になったものの、すぐに気を取り直した健吾は目の前の自作のファンに向けて作り笑いを浮かべる。
「サインとか書いた事ないけど、まるで人気作家になった気分だよ。そうだ、名前は?」
「えっと、りあ……だけど?」
彼のその何気ない質問にりあは首を傾げる。クラスメイトなのだから健吾もりあの名前を知らないはずがないのに。
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